真心ブラザーズに聞く、未曾有の事態にもブレない音楽への姿勢「世界がどう変わっても健康で、面白いと思えればやり続ける」
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真心ブラザーズが、またまたやってくれた。漫画家・タナカカツキによる超ポップなチアガールのイラストに包まれた、17作目のオリジナルアルバム『Cheer』。直近の過去2作がこだわりのモノラル録音による濃厚なブルース/ロックンロールアルバムだったのに対し、生々しいバンドサウンドの醍醐味はそのままに、よりポップで明快な「歌もの」に照準を合わせた全10曲。リード曲「炎」を筆頭にキャッチーに振り切ったメロディと、レギュラーバンドに加えて東京スカパラダイスオーケストラのメンバーや、盟友・グレートマエカワ(フラワーカンパニーズ)&サンコンJr.(ウルフルズ)を迎えた楽曲など、エンタメ度の高さも文句なし。コロナ禍による時代の大変動に惑わされず、二人はいかにしてこのポジティブなアルバムを作り上げたのか? 二人の本音を探ってみよう。(宮本英夫)
『Cheer』が明るくポップな“歌もの”になった背景
ーーそもそも、濃厚なブルース/ロックンロールアルバムが2作続いて、次はどうする? というのは、どのへんから始まったんですか。
桜井秀俊(以下、桜井):YO-KINGさんのほうから、「歌ものがいい」という話がありました。俺は最初、「歌もの」の意味を広くとらえていて、「いつも歌ものですけどね」とか思ったんだけど、もっと狭い意味の「明るくポップな」という要素が多い「歌もの」で、ああ、そっちのことを言っているのかと。じゃあ俺的には普通にやればいいのかなと思いましたね。
ーーある意味、そうですよね。自然体でいい。
桜井:そうそう。ルーツ寄りの音楽のほうが、普段使わない筋肉を鍛えておかないとできないことだったので。だから俺の作曲の個人作業の時には、久しぶりにポップセンスと言いますか、ポップセンスの蛇口を開いてやってみるか、ということです。
ーーYO-KINGさん、「歌もの」というテーマはどこからやってきたんでしょう。
YO-KING:きっかけは、何なんだろう? 基本的には「飽きたら次」の性格なので、今はそんな感じかなあと思ったんだけど……3月、4月頃の気分で、ああいう期間(ステイホーム)だから時間があったので、メロディをちゃんと作ってみようかなと思ったんですよね。いつも作っていないわけじゃないんだけど、いや、ぶっちゃけ、作っていないんで。
ーーあはは。どういうことですか。
YO-KING:ボブ・ディランって、(メロディを)作っていないじゃない? やっぱりあの人が好きだから、コード進行の上で歌詞をなぞっていく延長上のメロディというか、それをやってきたんですよね。それは数を撃つと、時々とんでもない曲ができるんだけど、数を撃つよりは「Aメロ〜Bメロ〜サビ」みたいなものをやってみようかなという気になって、ただその時点では何もできていないから、「そういう気でいます」という気持ちだけ伝えておいたほうが、後々楽かなあと思ったので。
ーーということは、手持ちの曲がないままに桜井さんにテーマだけ投げてみたと。「次、歌ものね」って。
YO-KING:そうそう。
ーー無責任と言えば、無責任な行為ですよね(笑)。
YO-KING:そう(笑)。LINE履歴を見ればわかるけど、「歌もので行こうと思っているような気がします」みたいな(笑)。まだ何とも言えないから。そこで二人とも、歌ものじゃなくてもいいと思ったんですよ。それを受けて桜井さんが、「じゃあ俺はルーツもので行く」と言ったら、それはそれで面白いし。とりあえず「そういう方向のものを作ろうとしています」ということなので。
ーーその言葉に、桜井さんはビビッと反応した。
桜井:そう。飲みに行きたくてもなかなか行けない時期だったしね。自分のタイプとして、学生の時、試験中になるとギターがうまくなったりとか、大学受験の時に曲がたくさんできたりとか、そういうところがあるんですよ。今は仕方ないから、受け入れてやって、でもこの先に自由を求める気持ちがすごく浮かんでくるんですよ。そもそもロック音楽にしびれたのもそういうことで、カウンターカルチャーとして、前の文化が退屈になって、「そうじゃないだろ」って新しいことをやるという、反動みたいなものにしびれて始めた部分はあるので。だから今回、リズムが躍動するものが多くなったし、前に転がる気持ちがあるし、「こういうものがほしいんだ」と思ったんでしょうね。それでできあがったものは明るく軽く、ジャンプ力があるものになったなあと思います。
ーーそうですね。まさに。
桜井:でも人によっては、世の中が暗くて、ダークサイドに引き込まれて、曲なんか書いている場合じゃなかったよ、と言っている音楽友達も多くて、「あ、そうなんだ」と。
ーーそれは僕もインタビューしていて、何人かいましたね。YO-KINGさんは関係なさそうですけど(笑)。
YO-KING:震災の時もいたよね、音楽どころじゃないという人は。でも俺はまったく、その理屈がよくわからない。
ーー動機が違うんでしょうね。音楽を作るということの。
YO-KING:キャラが違うというだけで、どっちがいい悪いではないけれど。で、まあ、17枚作っているというぐらい続けているということは、俺のその部分に魅力を感じて聴き続けている人が、少なからずいるということだから。そこは変える必要もないし、自分が楽な自分であり続けることが、仕事でもあり遊びでもあり。
奇しくも合致した「ちょっと嫌だな」みたいな感じ
ーーとはいえ、コロナとかステイホームとか、直接的に表現した歌詞は特にないというか。YO-KINGさんの「不良」とかにうっすら感じるくらいですかね。あと「緑に水」にも、ちょこっと感じましたね。プールに行けなくなったからその辺を走ってるよ、というフレーズとかに。でも匂わせる程度で、特別にメッセージ性はないと思います。
YO-KING:そうですね。やっぱりアルバムって、くどく聴き続けるものだから、あんまり具象がありすぎてもね。ちょっと抽象化するというか、個体を液体化して気化していくというか。……今のは、範馬刃牙の受け売りなんだけど。
ーーしまった(笑)。読んでないです。
YO-KING:究極に脱力すると、液状化して、しまいには気化する。それで、ゴキブリって、初動でトップスピードを出せるんだって。だから人間として、ゴキブリのスピードを出すんです。範馬刃牙は。面白いでしょ?
ーー話を戻します(笑)。桜井さんの曲だと「こんぷろマインズ」の歌詞が、今の時代をさくっととらえている感じがします。
桜井:そうなんです。ここまで「意見」みたいなことを言う曲は、僕は少ないんですけど。「妥協」(コンプロマイズ)をロック音楽で肯定するのが、真心っぽくていいなと思ったのと、〈ちょうどいいとこどこ〉っていう音が気持ちよくて、子供が一回聴いたら一日中歌っている系の、そういうポップさもあるなと。「妥協」って、悪い言葉だとされていますけど、今こそ必要で、その上クリエイティブですらあるということを、〈ちょうどいいとこどこ〉っていう語感を音楽にすることで発見して、これは歌にしようと。
ーー妥協して、歩み寄って、お互いにちょうどいいところを探そう。ユーモアを交えた、ピースフルなメッセージだと思います。
桜井:普通に歌うと説教くさくなるところを、ユーモアで解決してくれるヒントがあれば、それを使って答えをひねり出そうという習性があるんですよね。
ーーYO-KINGさんの「不良」は、〈考えが違う人にもやさしくなろう〉から始まる。メッセージ的には、この2曲がアルバムの核になるのかなと思います。
桜井:この時期に持ってくるテーマとして、僕の「こんぷろマインズ」とYO-KINGさんの「不良」と、くしくもテーマが重なるところがありましたね。しかも二人とも違う人間だから、出口はこうも違うんだという面白さがある。でも根底にある「ちょっと嫌だな」みたいな感じは共通しているんですね。
ーーサウンド面で言うと、前作、前々作のいい面を引き継いでいるという感じがしますね。生音のバンドサウンド中心で、楽器の数も少なくて、アンプの鳴りやスタジオの鳴りがダイレクトに響いてくる感じ。
YO-KING:音楽の内容と、音と、総合して好きになるとするならば、最近は音質というものがすごく大きくなってきて、この曲は好きじゃないけど音が好きだな、という感じで繰り返し聴いちゃう感じもあるんですよ。たとえばCrosby, Stills, Nash & Youngの「Our House」という曲があって、めちゃめちゃポップでドリーミーな曲なんだけど、ドラムの音を聴いちゃうんですよね。鳥の声を聴いている感じで音楽を聴いているというか、極端に言っちゃうと、「ホーホケキョ」と同じように、「Our House」のドラムを聴いている。
ーーすごいところまで行ってますね。
YO-KING:はっぴいえんど「風をあつめて」の、2Aのオルガンの音とか。楽器のいい音って、本当に魂をほぐしてくれるというか、いい音で録るって本当に大事ですね。
桜井:最近は、レコーディングでみんな最初からいい音出すから、音作りというものをほとんどしないんですよ。
YO-KING:昔は、スネアの音を決めるのに1時間かけてたもんね。90年代は、リバーブ時代から抜け出る途中だから、エンジニアとコンセンサスを取るために、CDかレコードを持って行って「こういう音にしてください」という作業が必要だったんですよ。でも今はそんなこと言わなくて、すっとそこに行けるから楽だよね。
ーーじゃあ今回、リファレンスにした音源はない?
桜井:何なら持っていこうと思っていたけれど、必要なかった。
YO-KING:思っていたのと違う音が来ても、「そっちもいいね」ということも多いから、リファレンスを持っていく必要がない。エンジニアの西川(陽介)くんとも長い付き合いになってきたし、彼が提示してきたドラムの音を受け入れて、やっぱり違うなと思った時は言うけど、だいたい「いいね」で終わっちゃう。すごく楽ですよ。共通の理解がもうチームにあるわけだから。
ーー話、ちょっと飛びますけれども。『Cheer』の特設サイト内に、参加ミュージシャンのコメントがあって、スカパラのキンちゃん(茂木欣一)が「アルバム全体のダビーな音処理が僕の耳をガッチリ捕らえた!!」と書いていて。なるほどそうか、ダビーかと。
桜井:ダビーの要素、ある?
ーーいや、そう考えると「朝日の坂を」の冒頭のギターの、揺らぐような音の処理とか、ああいう気持ちいいエコー感は、ダビーと言えばダビーかなと。
桜井:ああ、なるほど。
YO-KING:俺なりに補足すると、ダブって、余地がないとできない音楽じゃないですか。このアルバムは余地がすごくあるから、楽器数が少ないし、そこでディレイやリバーブをかけると、ダブの感じになると思うんだよね。狭い意味でのダブはやっていないけど、ダビーと言っているのはそういうニュアンスじゃないかな。
桜井:「朝日の坂を」に関しては、ギターの処理はエンジニアの西川くんがやってくれて、「おおー、こう来たか!」と。ディレイをかけた上に、うっすらとフェイザーをかけて空間を作るというか。歪ませない、上品なジミヘンみたいでかっこいいなと思った。あれは西川くんの手柄ですね。
世界がどう変わっても健康で、面白いと思える気持ちがあればやり続ける
ーー「サンセットハンター」のスティールギターの響きも、空間的でいいですよね。
桜井:そうですね。あと「緑に水」という曲は特に、演奏陣の表現力をすごく感じた曲ですね。YO-KINGさんがスタジオで弾き語りをして、そこにみんなで乗っかる時に、「緑が萌えて、水がはじけて、光が飛んで」みたいなイメージのベーシックが自動的に出てきたんですよ。ボーカルはそのサウンドの中で自分の思いを吐露する、みたいな図式がポンとできあがって、「このバンドは成長しましたなあ」と思いましたね。大ちゃん(伊藤大地)は細野(晴臣)さんのところで、お手の物なリズムだとは思うんだけど、細野さんバンドでやっている渋さとは違うので。人が違えばこうなるんだ、という感じですね。
ーー今回の演奏陣は、おなじみのLow Down Roulettes(岡部晴彦、伊藤大地)が7曲で、「かっこいいだろ」「不良」はCRAZY BUFFALOES(グレートマエカワ、サンコンJr.)で、「ビギン!」はスカパラから茂木欣一、川上つよし、沖祐市の3人が参加しています。この内訳は?
桜井:去年のツアーで一緒にやった、EMOTIONAL ROCKERS(茂木欣一、柏原譲、沖祐市)も、グレートとサンコンも、どのバンドもすごく楽しくて。次はこの人たちと一緒に新作を録音して一区切りつけたいなという思いがあったので。「かっこいいだろ」とか、ロックンロールはグレートとサンコンでバシッと決めて、「ビギン!」はそれこそビギンというリズムの曲なので、スカパラチームでいつも通りやってくださいと。
ーー完璧ですね。
桜井:普通にスカパラの曲ですよね(笑)。サビのメロディを考えた時に、昭和の大作曲家の先生が使うようなスケールの、なかなか最近ないメロディですけど、このミッド昭和感がスカパラのサウンドにすごく合っていると思います。
ーーあと、やっぱり注目したいのは「炎」ですよ。ここであらためて大プッシュしておきましょう。リード曲だし、MVも面白いし、超キャッチーなメロディだし。
桜井:作っている時は、そこまでの気持ちはなかったんですけどね。ディスコロックみたいなことがやりたかったんですけど、これはけっこう歌詞に悩んだというか、まんじりともしない感じを歌いたかったんですよ。自粛中に、運動不足にならないように近所を散歩していた時に、マスクをしているのをいいことに、もごもご歌いながら歩いていて、〈迷子の目まい/塩漬けの愛〉が出てきた時に、「これだ!」と思いました。「そうそう、このイカれた感じがほしかったんだよ」と。リード曲にするつもりはなくて、もっと変態というか、ストレスたまっている人のどうかしちゃった発言みたいな感じだったんですよね。しかも歌うのは俺じゃなくてYO-KINGさんだから、無責任に言いたい放題作れるという自由さもあって、より自由になれた部分はありました。
ーー振り切っている感じ、ありますよね。
桜井:この曲はワンコーラスの中のパーツが多くて、A,B,C,Dまであるんですよ。長すぎるから、Cを8小節で済まそうと思ったんだけど、レコード会社のスタッフから「もったいないです」と。
ーーサビのメロディですよね。あれが8小節じゃ確かにもったいない。
桜井:Cは16小節ほしいと言われて、やってみたら、こっちのほうがいいやということになった。しかも今はイントロがない時代で、たぶんサブスク時代に対応して、イントロで飽きられちゃう前に核心に入る狙いがあるんだろうけど、この曲はどんなに頑張ってもイントロが20小節必要なんですよ(笑)。むしろリード曲としては、いきなり〈かっこいいだろ〉で始まる曲のほうがいいのでは? とも思いつつ、でもまあ、ここまで古くさいのも面白いかなと思って、リード曲にしました。もしも余力があったら、サビを口ずさんでほしいです。
ーーこれはみんな一発で覚えられるメロディだと思います。ぜひ。
桜井:挙句の果てに、後半に以上に長いギターソロもあるという、何から何まで時代に反した曲です(笑)。ギターソロ、40小節やっていますからね。
ーー最高です。ヒットチューンです。
桜井:キーボードの奥野(真哉)氏からも、レコーディングが終わったあとに「この曲はヒットの匂いがする」というLINEをもらいました。今はそもそもヒット曲って、年に何曲あるんだ? ということになっちゃったけど、ヒット曲という憧憬がこの曲の中には確かにある気はします。
ーーみなさんぜひチェックしてください。そして、このあとは、久々にお客さんを入れたライブをやりますか。
桜井:そうですね。ぼちぼち動かないと。
ーー11月1日、品川インターシティホール。来年になれば、徐々にライブも平常運転に戻れるというか、戻ってほしいというか。
桜井:戻れるといいですね。
ーーYO-KINGさん、最後に、今後の見通しについて何かあれば。
YO-KING:今後の見通しは……ピエール・カルダンは、98歳の今も毎日出勤して仕事をしているらしいので、そうなりたいです。出勤はしていないですけど(笑)。僕は多趣味な人間なんですけど、趣味として音楽をとらえた場合、すごく面白い趣味ですね。飽きない。曲を作ってライブをやって、それは飽きないことだから、世界がどう変わっても自分が健康で、面白いと思える気持ちがあればやり続けて、聴く人がいなくなったら静かに舞台から下がっていけばいいだけの話なので。周りの状況は状況として、把握はしておくけど、そこに左右されずにマイペースでやり続けることかな。
■リリース情報
『Cheer』
2020年10月14日(水)リリース
初回限定盤(CD+DVD+GOODS):¥5,000+税
通常盤:¥3,000+税
<収録内容(全形態共通)>
●参加ミュージシャン
1 パッチワーク
●岡部晴彦、伊藤大地、首藤晃志
2 炎
●岡部晴彦、伊藤大地、奥野真哉、うつみようこ
3 かっこいいだろ
●グレートマエカワ(FLOWER COMPANYZ)、サンコンJr.(ウルフルズ)
4 不良
●グレートマエカワ(FLOWER COMPANYZ)、サンコンJr.(ウルフルズ)
5 こんぷろマインズ
●岡部晴彦、伊藤大地
6 ビギン!
●川上つよし、茂木欣一、沖 祐市(東京スカパラダイスオーケストラ)
7 朝日の坂を
●岡部晴彦、伊藤大地
8 妄想力
●岡部晴彦、伊藤大地
9 緑に水
●岡部晴彦、伊藤大地、奥野真哉
10 サンセットハンター
●岡部晴彦、伊藤大地
<初回限定盤付属 DVD 収録内容>
1 Music Video
M1.炎
M2.天空パレード
2 Studio Live Movie
M1.妄想力
M2.パッチワーク
M3.炎
3 Talk & Acoustic Live『Out of Cheer』
※惜しくもアルバムに収録されなかった、それぞれの楽曲の弾き語り演奏と、
推しポイントを楽しくトーク
<初回限定盤付属 GOODS>
オリジナル・キャラクター「チア子さん」特製グッズ
<購入者特典プレゼント>
ニューアルバム『Cheer』を購入した場合、抽選で下記をプレゼント
※ A賞:貴方のためだけに贈るメンバーメッセージDVD(抽選で50名様)
※ B賞:特製“チア子さん”巾着(抽選で100名様)
■関連リンク
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