loundraw×HIDEYA KOJIMA×T.B.Aによる音楽アート集団 CHRONICLEに聞く、ジャンルを越えた表現
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テクノロジーの進化によって表現者は、様々なアウトプットの手法を得た。2021年に向けて、エンターテインメントをアップデートする存在として期待したいのが、音楽と物語とアートがシンクロした新時代の音楽アート集団・CHRONICLEだ。メンバーは、イラストレーター・loundraw、サウンドクリエイター・HIDEYA KOJIMA、 ボーカル・T.B.Aという3人組。
これまで『君の膵臓をたべたい』(住野よる著)、『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜著)他、様々な作品の装画を手掛けてきたloundrawは、イラストのみならず小説や漫画の執筆、アニメーション制作へと創作を広げてきた。昨年にはアニメーションスタジオ・FLAT STUDIOを設立。CHRONICLEでは、その物語の軸となる歌詞も執筆する多才さをみせている。
そんな映像化を前提としたビジュアル表現に立体化した音像を膨らませるのが、音楽シーンの最前線を切り開くメロディメーカーとして様々なアーティストに楽曲提供をおこなうHIDEYA KOJIMA。そして、CHRONICLEのストーリーテラーとなる謎めいたボーカリスト・T.B.Aの存在。そもそも“T.B.A”というネーミング自体、一般的には“To be announced”の略であり、“後日発表”の意味を持つのだから一筋縄ではいかない特異な3人組といえるだろう。
2020年11月11日、CHRONICLEが1年半の沈黙を破って新曲「いつか飛べなくなるとして。」をリリースする。
新たな世界へ飛び立とうとする躍動感あるナンバーであり、聴くたびに勇気をもらえるエモーショナルなロックチューンへと仕上がった。音楽が映像のクリエイティビティを刺激し、映像が音楽を広げるという自由度の高い相関関係。エンターテインメントの来るべき新時代を見据えた3人に話を聞いてみた。(ふくりゅう)
「“体験”を大事にしていきたい」(loundraw)
――音楽とはあらゆるカルチャーに溶け合える存在だと思いますが、あらためてアート集団・CHRONICLEとはどんなチームなのかを教えてください。
loundraw:音楽と物語の二軸があるプロジェクトです。コンポーザーのKOJIMA君(HIDEYA KOJIMA)と、ボーカリストのT.B.Aとイラストレーターの僕という、プロフェッショナルな3人が集まってお互いにジャンルを越境してアート表現を行うチームですね。
――この3人が集まったきっかけは?
HIDEYA KOJIMA:もともとは僕とraw君(loundraw)がお互い知り合いで“一緒に作品を作りたいね!”っていうところからスタートしました。そこで、T.B.Aというボーカルを紹介してもらって3人組となりました。
T.B.A:raw君のイラストやKOJIMA君のサウンドを聴いて、自分が表現したい感覚と共通項を感じられたんです。
――CHRONICLEでは、ホームページやミュージックビデオなど、世界観をとても大事に、そして詳細に作られています。世間一般的な音楽ユニットとは異なる3人組であることは、KOJIMAさん、ミュージシャンとしてどんな感覚ですか?
HIDEYA KOJIMA:イラストやアニメーションを外部にオーダーする形ではなく、自分たちでミュージックビデオも作っていけるというのは刺激的ですよね。音楽は目に見えないものなので、音楽だけでは表現できないビジュアル的な世界を楽曲とともに作り上げていきたいと思っています。
――この10年で、大きく音楽の視聴環境も変わりました。それこそスマホで聴くリスナーが大半で、画面があることが前提になって、音楽を観ながら聴くというスタイルが当たり前になりました。そんな意味ではテクノロジーの進化って、CHRONICLEにとって大きな存在ですよね。
loundraw:まさしくそうですね。今の音楽の発展の仕方もそうですし、そもそもこの3人が世に出てきた過程からデジタルという存在は欠かすことができません。インターネットやスマホなどにネイティブな世代だからこそ、音楽という括りだけでなく“体験”を大事にしていきたいですね。CHRONICLEで最も意識しているポイントです。
――そんななかT.B.Aさんは、記号めいたネーミングをされていることに理由はあるのでしょうか?
loundraw:このプロジェクトはキャラクター性のあるユニット形態ですけど、匿名性も欲しいという相反する気持ちもあって。3人が作る音楽でありながら、3人が描く“誰かの物語”でもありたいんです。それもあってフロントであるT.B.Aは象徴ながらも、ある種記号的な要素を含んでいて欲しいなって。
――まさに、語り部でありストーリーテラーであると。ちなみにKOJIMAさんは、rawさんの魅力をどんなところに感じられていますか?
HIDEYA KOJIMA:raw君のイラストは、僕が観た側から考えると想像の余地が残されているんですね。たとえば、この一瞬の後に何が起きたか、その前に何が起きたか、その背景にどんな意味があるのか? 色々なことを考えさせられるんです。そこは憧れるところですね。わかりやすい答えを出すのではなく、問いかけを残してくれている。それは僕も音楽を作るときに大事にしたいなって思いました。
――rawさんは、KOJIMAさんのサウンドのどんなところに魅力を感じられていますか?
loundraw:音楽とイラストで異なるのが“時間軸”があるかないかなんですね。音楽は可視化できない表現なのに、KOJIMA君は音や時間の展開という形の見えないもので物語を想像させてくれるんです。それがKOJIMA君のすごさだと思います。
――CHRONICLEのコンセプトワークを生み出すにあたって、どんなことを3人でお話されましたか?
loundraw:最初、アニメーションの予告映像を作ったところからはじまったのですが、全体の雰囲気、曲がまとう空気などはラフ段階からレコーディングする瞬間まで歌詞も含めてよく話し合って決めていますね。
――11月11日には、1年半の沈黙を破って新曲「いつか飛べなくなるとして。」をリリースします。
HIDEYA KOJIMA:この曲はメロディが先にできてraw君に歌詞を書いてもらいました。僕の中で開放感あるメロディがまず生まれて。それこそraw君のイラストの壮大な空のイメージですね。そこからトラックを作って仮歌を入れてraw君に渡して。今回はイントロのギターフレーズにこだわりました。raw君の歌詞が乗った後に、さらに浮遊感が欲しくなってレコーディングし直したりもしました。
loundraw:最初に聴いた時の印象は、壮大でスケール感あるトラックで。でも、それと同時に少し寂しさを感じたんです。もしかしたらこの歌って前向きで突き抜け感がありながらも、その裏側には切なさがあるのかなと。旅立つとか夢に向かうって、そういうことなのかもしれません。何かに区切りをつけないといけないことがポジティブさを生んでいるわけで。そこから歌詞を書き始めました。僕が歌詞を書く時に意識するのはT.B.Aの歌声なんです。彼の声はすごく感情が乗る声なので、言い回しや語尾までちゃんと活かせるようにしました。
――なるほど。作品において3人が有機的に絡み合っていることがよくわかりますね。
T.B.A:raw君の歌詞は、いい意味で歌詞っぽくないところがあって。歌詞自体が物語を伝えるものになっているんです。それこそ、歌詞自体に力強さを感じていて。応援というか、これから旅立つにあたって力強く伸びるように歌いました。歌詞では〈一人では見れない景色も 二人では届かない そんな空もあるんだろう〉という一節に寂しさを感じて。でも、その後に〈笑えると信じて光る明日へ 僕は どんな夜も超えて〉というワンフレーズから、気持ちが改まってさらに突き抜けていく感じ。強い意志を感じる曲だなと思いました。
――背中を押してくれる強さがありますよね。最近はコロナ禍の影響もあり、よりCDからストリーミングサービスへとシフトが起きつつありますが、皆さんにとってストリーミングサービスはどんな存在ですか?
HIDEYA KOJIMA:ストリーミングで聴く音楽とCDで聴く音楽の楽しみ方は変わってくるなと思っています。僕自身、作曲活動において長めのイントロを削ってしまうことが増えました。ですが、CHRONICLEにおいてはあえてそこを意識したくないなと思っています。無駄だと思われていたようなイントロや間奏にも重要な意味があることを知ってほしいし、楽しんでもらいたいなって。あらためて、この時代になって気がつかされたことがありまして、僕はファンクやディスコミュージックが好きなんですが、長尺の間奏パートがどれだけ気持ちを高揚させてくれるか。なので、CHRONICLEに関しては、長いから間奏を削るのではなく、ちゃんと自分たちが作りたい世界観を大事に提示していきたいですね。楽曲の本質って音が鳴っていないところでも表現されていると思うんですよ。特に僕は歌詞を書かないので、どれだけサウンドで雰囲気を表現できるかにこだわっていますね。
loundraw:音楽に限った話ではないですよね。サブスク化というか、インターネット文化の進化は、どこまで最適化するか。それに従うことが10年後の自分にとって良いことなのかどうかは、せめぎ合いがあると思います。そこで言うとCHRONICLEって、自分の中ではイレギュラーなポジションに存在するんです。3人で新しい形の創作物を発信するという目的が絶対的なところにあるので。
全ての曲が揃った時に、点と点が繋がって楽しんでもらえたら
――CHRONICLEの活動は近未来的であり、かつティーンエイジャーの気持ちに寄り添った普遍性も持ち合わせています。実は、次の新曲「深層サーチャー」(12月12日配信リリース)も一足先に聴かせていただきました。アコギなイントロ、中盤からの透明感ある展開がエモいナンバーですよね。
HIDEYA KOJIMA:CHRONICLEでもダンサブルな楽曲を作ってみたくてチャレンジした曲です。普段アコギはあまり使わないので、僕にとっては珍しいイントロだと思います。1曲の中でストーリーを感じられる起伏のある展開となっています。今は1曲でも多く楽曲を作って発信していきたいと思っています。
loundraw:「深層サーチャー」は、KOJIMA君らしさが出ていますよね。夜のイメージがあって。でも、僕は相反するものを入れたくなるんです。例えば、クラブへ行って夜踊っている人たちはみんな満たされているのかなと、ふと思って。楽しさの裏に隠された喪失感というか何かを埋めたいという気持ちをKOJIMA君がやりたかったサウンドと掛け算したら面白くなるかなって。
T.B.A:デモを聴いたときからすぐに歌いたいって思った曲ですね。僕の声をあてたらどんな曲になるんだろうって。実際、歌ってみたらフィット感があって。ああ、こういう曲も歌えるんだなって自分にとって発見になったナンバーです。
――そして、2021年に向けて次なる展開へとCHRONICLEの活動は加速していくのですね。
loundraw:そうですね。CHRONICLEとして最初にYouTubeにアップした予告編からつながる物語を、現代の時制にしていて。物語の主人公や、取り巻くキャラクターたちの一瞬の風景、想いなど、いま作っている曲たちが全て揃った時に、点と点が繋がって楽しんでもらえるように作業を進めています。
――1つひとつの楽曲が点として同じ時代を生きていて、それがゆくゆくは線として繋がっていくと。ワクワクしますね。最後に、最近やられて悔しいなと思った曲、プロモーション、ミュージックビデオなどあったら聞いてみてもいいですか? 情報にアンテナを張っていそうな3人なので。
HIDEYA KOJIMA:BUMP OF CHICKENさんの「Gravity」という曲が素晴らしかったです。僕のCHRONICLEでの曲作りは、内面を掘り下げていきたいので学生時代に戻る感じというか。BUMP OF CHICKENさんは僕にとって大きな存在で、ギターを手にしたきっかけでもありました。このコロナの期間で自分と向き合う時間が僕には多すぎました。他の活動でもライブが中止になってしまい、だれかと音楽を共有する時間が足らなくて。なので、音楽以外の時間の大切さや、だれかとコミュニケーションをとることの大切さを痛感して。音楽に対して少しナーバスになってしまいました。そんなときに「Gravity」を聴いて涙し、改めて常に良い作品を作り続けていきたいと思いました。ある種、自分の指針となった曲です。
loundraw:僕はちょっと角度が違うかもしれないんですが、花譜さんのライブが素晴らしくって。僭越ながらFLAT STUDIOでエンディングのアニメーション映像を作らせてもらったんですけど。僕たち(CHRONICLE)は現実とデジタルの中間にいて、いわゆるアーティストが現実だとしたら花譜さんたちはデジタル側にいますよね。そんなバーチャルなライブに感動したんですよ。YouTube LIVEで生中継されていて、オーディエンス同士がチャットしてライブが盛り上がっていて、熱量をたしかに感じられたんです。環境を越えて感動を生み出せることがすごいなと思いました。
T.B.A:僕はVaundyさんの「不可幸力」という曲が好きで。YouTubeで知ったんですがなんだこの良いメロディは、と驚いて。歌の面でも負けられないなと刺激を受けました。
――なるほど。常に進化し続けるCHRONICLEの活動を楽しみにしています。
一同:ありがとうございます。
■リリース情報
「いつか飛べなくなるとして。」
11月11日(水)配信リリース