池田暁が描く“線の向こう側”への想像力、「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」初披露
映画
ニュース
第21回東京フィルメックス「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」上映時の様子。左から前原滉、池田暁。
第21回東京フィルメックスのコンペティション部門出品作「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」が、本日11月4日に東京・TOHOシネマズ シャンテでワールドプレミア上映。主演を務めた前原滉、監督の池田暁が舞台挨拶に登壇した。
2013年製作の長編2作目「山守クリップ工場の辺り」がロッテルダム国際映画祭やバンクーバー国際映画祭で賞に輝き、続く「うろんなところ」でも国際的に高い評価を得た池田。3年ぶりの長編「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」は、理由や目的もわからず川の対岸にある町を相手に何十年も戦争を続ける人々の姿をユーモラスかつシニカルに描いた作品だ。池田は「架空の町の架空の時代という背景を作りたかった」という思いで、何にも似ていない独特な世界を作り上げた。
前原が演じたのはサラリーマンのようにスーツで基地に出勤し、朝9時から17時まで川岸で戦闘する兵隊・露木。彼は対岸から聴こえてきた音楽に心惹かれ、基地の楽隊に編入する。池田の演出で登場人物たちは極力感情表現を抑えた演技をしており、前原は脚本と池田の過去作に触れた際の印象を「どうしたらいいんだろう?と思いました」と述懐。「僕らが想像するお芝居とはまったく違う。でも、いつもと違うことをするのは楽しい。この世界に飛び込んでみたいという気持ちがあって、すぐ出たいなと思いました」とオファーを振り返る。また「すごく不思議な世界観の映画。僕自身、これまでこういう映画体験をしたことがなかった」と、その魅力を話す。
川を挟んで町が戦争をしているというアイデアは、池田の自宅の窓から川が見えることから生まれた。「川が1本線のように見えるんです。たまに見てると、川の向こう側ってどうなってるのか想像するんですよね。別に日本なので特段変わったことは実際ない。でも線が1本あるだけに、何か想像させる力があったんです」と着想のきっかけを明かす。国境を挟んで戦争状態にある国々の名を挙げ、「僕らから見たあちら側では、知らないことが起きている。悲しいことですけど、それがどこか他人事のように思えることもある。日本にいて命の危機がないにしても、自分のことのように想像したり、見たり、知ったりすることが大切なんじゃないかと思ったんです」と本作の根底にある思いを語った。
楽隊に入った露木は川岸でトランペットの練習をしながら、対岸で同じくトランペットを吹く女性と音楽を通じてコミュニーケーションを取るようになる。2人の結末を「悲しいラブストーリー」と見た観客の意見に、池田は「戦争をやっている世界で敵対している相手と何か通じ合うものがないかなと思って音楽を選びました。もちろんラブストーリーは頭の片隅にあった気はするんですが、明確に考えていたわけではないですね」とコメント。また「露木の人生は続いていく。彼の大きなターニングポイントを描いた作品とは言えるかもしれないです」と続けた。
「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」は2021年3月より東京・テアトル新宿ほか全国で順次ロードショー。
(c)2020「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」フィルムプロジェクト