深田晃司「東京人間喜劇」は青年団のアンサンブルで作った“野心作”
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第33回東京国際映画祭「東京人間喜劇」上映時の様子。左から山本雅幸、荻野友里、古舘寛治、深田晃司。
第33回東京国際映画祭のJapan Now部門にて「東京人間喜劇」が、本日11月6日に東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズで上映。キャストの古舘寛治、荻野友里、山本雅幸、監督を務めた深田晃司が上映後のQ&Aに登壇した。
本作は2008年、28歳の深田晃司が発表した長編オムニバス映画。ダンサーのサインを求める2人の女性が夜の街を駆ける「白猫」、カメラマンの女性が初めて開いた個展で過ごす1日を描く「写真」、右腕を事故で失い幻肢症に苦しむ夫とその妻の関係を紐解いた「右腕」で構成されている。
この日、キャスト陣と一緒に本作を鑑賞した深田は「久しぶりに観直して直したいところもあれば、がんばっているなと思うところもある。当時やりたかったことを全部やりきった、思い入れの深い好きな作品です。こうして出演者の皆さんと一緒に観れて感慨深かった」「この撮影が大変すぎて、ちゃんとお金を集めて映画を撮ろうと思ったきっかけの1本でもあります」とコメント。荻野は「12年前……懐かしい気持ちと若いな!という思いでいっぱい。最初に観たときも私は喜劇に思えなくて。歳をとって考えも変わるかなと思ったら、やっぱり喜劇と思えなかった(笑)」と感想を語る。
古舘は自身が叫びながら花屋で猟銃を撃つシーンがなかったことに言及。撮影した記憶が残っていたため「やっぱりあのシーンはカットされてたんだと気付きました」と話すと、深田は「正確に言うと……最初に劇団内や映画祭で上映したときはあったんです。日本で何回も見せていくうちに、どうもあのシーンはなくてもいいんじゃないかという思いが募って。最初の完成から2年ぐらい経ってから切ってしまいました」と告白する。古舘は「切るとき俺に一言、言ったほうがよかった(笑)。最初からないものだと思ってたよ」と言葉を返す。
深田も所属する劇団・青年団のメンバーでオールキャストを固めたのは、戦前に前進座と組んで「人情紙風船」「河内山宗俊」を手がけた山中貞雄の制作スタイルが念頭にあった。深田は「劇団という集団の演技を映画に持ってくることをやっていた。それが好きで、自分も青年団の俳優たちのアンサンブルで映画を作るんだ!と意気込んでいたのを覚えています。青年団の俳優を間近で見る中で作りたいと思った作品。脚本もキャストをイメージしながら書いてます」と回想。「右腕」で主演を務めながら現場スタッフとしても参加していた山本も「このシーンの裏で人止めしてたなとか、いろんな思い出がよみがえりましたね」と振り返る。
2007年のアニメーション「ざくろ屋敷 バルザック『人間喜劇』より」」に続き、「東京人間喜劇」はフランスの文豪オノレ・ド・バルザックの「人間喜劇」と総称される作品群に着想を得て制作された。20代の頃にバルザックを読み込んでいたという深田には、ある小説の登場人物を別の作品にも登場させるバルザックの人物再登場法が大きな影響を与えたそう。「世界を見るときに、人物再登場法をやることで1つの視点ではなく、多角的な視点で世界を見ることがきる。世界の複雑さを複雑なまま提示できる。それを濃縮還元する形で映画でもできないかと考えました。自分の中では野心的な作品」と着想を明かした。
※古舘寛治の舘は舎に官が正式表記
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