海宝直人、小南満佑子らミュージカル俳優が活躍 『エール』で届けられた“音楽”の持つ真のパワー
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再び夢を追いかけるも、思うようにいかない音(二階堂ふみ)を救ったのは裕一(窪田正孝)だった。持ちつ持たれつ、互いの音楽人生に大きく影響し合う音と裕一の姿が印象的なNHK連続テレビ小説『エール』第21週「夢のつづきに」では、裕一が教会で慈善音楽会を企画する。
本作の特徴といえば、音楽とヒューマンドラマを掛け合わせたシナリオと、歌に彩られた演出であろう。普段は映像ではなく、舞台の上で活躍する俳優が名を連ね、歌も芝居も全力で演じる姿にパワーをもらえるのだ。第21週は音がオペラ「ラ・ボエーム」のオーディションに挑戦し、合格、そして降板を申し出るまでが描かれた。音楽学校時代に『椿姫』のプリマドンナの座をかけて切磋琢磨した千鶴子(小南満佑子)との再会から、オペラで共演する伊藤幸造(海宝直人)の登場など、ミュージカルでその名を馳せる俳優が大活躍した今週を、役者の紹介とともに振り返りたい。
ミュージカル界の申し子 海宝直人が登場
幼い頃から子役としてミュージカルの舞台に立っていた海宝。劇団四季の『美女と野獣』のチップ役や、『ライオンキング』のヤングシンバ役として活躍していた海宝は、なんと言ってもミュージカルで培われた圧倒的な歌唱力が持ち味の俳優だ。日本のミュージカルのロングラン公演では同じ役を複数で演じることが多いのだが、5人はいるというヤングシンバ役のキャストの中からCD音源での歌唱を任されるなど、その実力は幼い頃から折り紙付き。さらに大人になってからは『ライオンキング』で大人の方のシンバ役に抜擢され、ヤングシンバ史上初、“大人になったシンバ も演じた俳優”として名を馳せた。
今回『エール』では音の相手役・ロドルフォを演じる伊藤幸造として、のびのびとした歌声を披露。特に第103話から104話にかけては、音が経歴も不十分な上にまわりのキャストから実力の面で置いていかれるというシーンのため、音を遥かに超えるオーラと歌唱力が要求される。海宝はそんな伊藤を演じても歌のうまさという次元を越える“圧倒的な”差を魅せられる力を持った俳優だっただろう。プロとして、音の起用理由にも納得のいっていない伊藤はより良いものを作るべく音に厳しい指導をする。こうしたシビアな世界を表現する一端を担う役者として、海宝の力強い歌声と背筋の伸びた立ち姿は、作品に強い説得力を持たせた。
音のライバルでありよき理解者 小南満佑子
音の音楽学校時代から音のライバルであり、その一方で音のことを誰よりもよく見ていた千鶴子。オーディション参加者と審査員という関係になってもその視点は変わらなかった。知り合いだからといって「審査は公平にやりますから」と言い切った千鶴子は実際に最終審査で音ではない受験者に票を投じる。しかしこれは、千鶴子の音への最大の敬意であり愛だろう。音がもがきながら稽古する様子を心配そうに見つめ、さらに音から相談を受けた時は真摯に真実を伝える。千鶴子のスタンスはいつでもフェアで、さっぱりしているのだ。音と千鶴子は熱くなりすぎることもなく、情や憎悪が湧くこともない、独特の距離感でライバル関係を表した。その実、音にとっていつでもよき相談相手であり、信頼に値する相手でもあろう。小南はそんな千鶴子を、愛想のよすぎないクールさを持って演じる。ここで千鶴子に少しでも音に対する情や気持ちが強く伝わってしまったら、視聴者は千鶴子のことも色眼鏡で見てしまったはずだ。小南の芝居のクールさは、千鶴子の気持ちを邪推させないそんな粋な計らいを感じた。さらに小南もまた、歌唱力で力を魅せられる女優でもある。ヒロインの挫折の前で、前進し続ける存在としてふさわしい存在感を見せた。
他にも『エール』で活躍しながらミュージカル界や舞台で輝く俳優はたくさんいる。こうした俳優陣に支えられながら、“音楽”の持つ真のパワーに触れられることこそ『エール』の唯一無二の魅力であろう。
■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter
■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、中村蒼、山崎育三郎、森七菜、岡部大、薬師丸ひろ子ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/