マカロニえんぴつ、止まることなく踏み続けた華麗なステップ 『愛を知らずに魔法は使えない』が証明した2020年の躍進ぶり
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もうこれはすべてのバンド、いや、バンドに限らずエンターテインメントに関わるすべての表現者に言えることなのだが、この2020年は階段でいうなら踊り場にとどまることを強いられた年となってしまった。しかし、同じ階段でも、階段を降りている最中の人と昇ってる最中の人とではやっぱり全然その意味合いが違うわけで(あと、中には最初から今年は一休みしようと思っていた悪運が強い人ももちろんいるだろう)、自分が特に気がかりだったのは、やはり階段を昇り始めたばかりの表現者のこと。例えば、2019年の後半あたりには会う人会う人「来年間違いなく大ブレイクするであろうバンド」としてその名を挙げていた、マカロニえんぴつのようなバンドのことだ。
何の因果か、コロナ禍真っ最中の4月1日にフルアルバム『hope』をリリース。続いて、11月4日に初のメジャー作品となる6曲収録のEP『愛を知らずに魔法は使えない』をリリースしたばかりのマカロニえんぴつ。彼らのライブを初めて見た自分の第一印象は「とにかく音楽的運動神経のいいバンドだな」ということだった。それは、ソングライティングの巧みさや各メンバーのプレイヤビリティの高さだけでなく、セットリストの構成やMCの入れ方をはじめとするライブ運びから、パフォーマンスの緩急の付け方まで、とても新人バンドとは思えないようなプロフェッショナルさとでも言ったらいいだろうか。時代によってそういうプロフェッショナルさは吉と出たり凶と出たりするのだが(これまで、素人っぽさが称揚される時代も確かにあった)、「今はこういうバンドなんじゃないか」と思ったし、それと同じようなことを多くの人が思ったからこそ、前述したように「噂のバンド」となっていったのだろう。そして、そんな彼らにとって、本来なら急上昇するはずだった2020年の春からツアーに出れず、フェスにも出れなかったことは、まるで手足をもがれたような思いだったのではないか。
しかし、『愛を知らずに魔法は使えない』を聴けば、そんな逆境をバネにして、彼らがその抜群の音楽的運動神経の良さにさらに磨きをかけていたことがわかる。今回収録されている6曲は、長谷川大喜が作曲を手がけたチャールストン風のピアノイントロから始まるポップロック・チューン「ルート16」を除いて、はっとりが作曲を手がけているが、もともとマカロニえんぴつはメンバー4人全員がソングライター。コロナによる自粛期間中も「ソングライターだけが曲を書き溜めていて他のメンバーは手持ち無沙汰」みたいな、わりといろんなところで耳にするありがちな状況とは無縁のバンドなわけだが、それは今回、各曲のアレンジの充実ぶりに表れている。
1曲目の「生きるをする」を聴いた人の中には、曲を聴いている最中、思わずタイムカウンターに目をやる人が続出しているのではないだろうか。疾走感のあるギターポップとして始まった同曲は、後半に入るといきなりテンポを緩めてまったく別の曲に入ったかと思うと、そのままハードなブレイクとともに終わる。最近海外のラッパーの作品で突然のビートチェンジが流行ってるが、その力技をバンドでやってみたかのようなグッドメロディのインフレ状態。3曲目「溶けない」のようなミディアムチューンでも、シンプルな美メロをはっとりが歌い上げていき、だんだん熱を高めていったかと思うと、途中からまるでレッド・ホット・チリ・ペッパーズのようなファンクパートに突入する。重要なのは、そんな曲の持つケレン味が、単に彼らの音楽的運動神経を見せびらかすようなものではなく、入念な構成によってちゃんと曲の完成度の高さにつながっていることだ。
もしかしたら、マカロニえんぴつのそんなメロディの過剰さは、世代的に「ボカロ以降」みたいな文脈で語ることも可能かもしれない。しかし、彼らはあくまでもそんな過剰さを、バンドとしての肉体性を駆使して完璧にアレンジして、完璧に生楽器の演奏で再現してみせる。エレクトロニック・サウンドの大胆な導入、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『カッコーの巣の上で』のキャラクターの名前まで歌われるパーソナルで具体的なリリックと、明らかな新機軸と言える4曲目「カーペット夜想曲」のような曲でも、そんなマカロニえんぴつの肉体性はスポイルされることがない。それだけ、バンドとしての芯が太いのだ。
2021年4月からは、横浜アリーナでのツアーファイナルを含む、過去最大規模の全国ホールツアーも決定しているマカロニえんぴつ。確かに2020年の大半、彼らは大ブレイクへの階段の踊り場で過ごすこととなった。しかし、今作『愛を知らずに魔法は使えない』で証明してみせたように、その踊り場で止まることなく華麗なステップを踏み続けていたことは、きっと2021年に大きな実を結ぶことだろう。
■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter
■リリース情報
メジャー1st EP『愛を知らずに魔法は使えない』
11月4日(水)リリース
配信はこちら
◆初回限定盤 CD+DVD
価格:¥2,727+税
◆通常盤CD
価格:¥1,636+税
※最速先行抽選チラシ封入
<CD収録内容(初回限定盤/通常盤共通)>
【CD収録曲】全6曲収録
01. 生きるをする(アニメ「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」オープニング主題歌)
02. ノンシュガー
03. 溶けない(グリコ「セブンティーンアイス」WEB CMタイアップソング)
04. カーペット夜想曲
05. ルート16
06. mother(アニメ「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」エンディング主題歌)
<DVD収録内容(初回限定盤のみ)>
マカロックONLINEワンマン〜豊洲から愛を込めて〜 LIVE映像を完全収録、更に特別LIVE映像を2曲追加収録。メンバーによる副音声付き
【DVD映像収録曲】全16曲収録
01. hope
02. 遠心
03. トリコになれ
04. girl my friend
05. ワンルームデイト
06. 溶けない
07. ブルーベリー・ナイツ
08. 恋人ごっこ
09. 春の嵐
10. ハートロッカー
11. 愛のレンタル
12. 洗濯機と君とラヂオ
13. ヤングアダルト
Encore
14. OKKAKE
追加特別LIVE映像
15.嘘なき
16.ミスター・ブルースカイ
■ツアー情報
『マカロックツアーvol.11 〜いま会いに行くをする篇〜』
4月10日(土)東京都 オリンパスホール八王子 開場16:00/開演17:00
4月15日(木)北海道 カナモトホール 開場16:00/開演17:00
4月17日(土)北海道 函館市民会館 大ホール 開場18:00/開演19:00
4月21日(水)東京都 LINE CUBE SHIBUYA 開場17:30/開演18:30
4月24日(土)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール 開場16:00/開演17:00
4月25日(日)石川県 本多の森ホール 開場16:00/開演17:00
4月29日(木)静岡県 アクトシティ浜松 大ホール 開場16:00/開演17:00
5月2日(日)広島県 広島上野学園ホール 開場16:00/開演17:00
5月3日(月)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール 開場16:00/開演17:00
5月7日(金)宮城県 東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館) 開場16:00/開演17:00
5月9日(日)岩手県 岩手県民会館 大ホール 開場16:00/開演17:00
5月13日(木)大阪府 オリックス劇場 開場16:00/開演17:00
5月14日(金)大阪府 オリックス劇場 開場16:00/開演 17:00
5月16日(日)愛媛県 松山市民会館 大ホール 開場16:00/開演17:00
5月23日(日)神奈川県 横浜アリーナ 開場16:00/開演 17:00
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