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染谷将太は『危険なビーナス』にいつ登場する? “いない”のに“いる”特異な存在感

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リアルサウンド

 早くも折り返しに入った日曜劇場『危険なビーナス』(TBS系)で、いまだ“正式”な登場を果たしていない染谷将太。それも、彼が演じるのは物語の核である、明人という超重要なキャラクターでありながらだ。この明人役は、なぜ染谷でなければならなかったのだろうか?

 先の読めない心理戦が展開する本作は、動物病院の院長代理として勤務する獣医・手島伯朗(妻夫木聡)が、突然現れた「弟の妻・楓(吉高由里子)」に翻弄され、かつて縁を切ったはずの矢神一族の遺産をめぐる醜い争いに巻き込まれていくというもの。染谷が演じる(?)のは、伯朗の異父弟だ。彼は矢神家の現当主の血を引く唯一の存在で、30億ともいわれる遺産を相続する権利を持っている。アメリカで人工知能を生かしたIT関連の仕事をしているのだが、父・康治(栗原英雄)が危篤と知り帰国。ところが、その直後に失踪したのである。

 ……というところから本作はスタートしたのだが、この過程のほとんどは第1話では描かれていない。明人の失踪は、楓に語られた情報でしかないのだ。ゆえに、演じる染谷はその写真などを介してしか登場してこなかった。この“遺産騒動”の中心人物なのだから、いやがうえにも視聴者の興味は惹かれるわけだが、しかし実際には登場しない。この役は、別に染谷でなくても良かったのではないかと考える方もいるのではないだろうか。むろん、「手抜かりのない、超豪華キャスティング!」という見方もできるが、やはり明人が今後の展開での大きなカギを握っているという見方の方が間違いないはずである。

 ほかの登場人物にその存在を語られるか、写真でしか登場しないにもかかわらず(第4話に一瞬だけ出てきているが、伯朗の妄想である)、その存在感を劇中に漂わせることに成功している染谷は、かなりすごい。それは、「“いない”のに“いる”」というもので、俳優であれば誰にでもできるものでないことは言うまでもないだろう。

 やはりこの明人のキャスティングは、染谷のこれまでのキャリアありきのものではないだろうか。つまり、視聴者の多くが“染谷将太という俳優を認知していること”を前提としたものだ。染谷といえば、ごく普通の若者からトリッキーなキャラクターまで、演じてきたその幅はひじょうに広い。観客にとって特に印象深く残っているのは後者の方だろう。『ヒミズ』(2012年)や『寄生獣』(2014年)、近年であれば『パラレルワールド・ラブストーリー』(2019年)、『初恋』(2020年)などがその代表作といえそうだ。いずれもが、ただならぬ役どころ、特異なキャラクターである。

 もちろん、『危険なビーナス』における明人の存在感の大きさは、染谷のこれまでの功績によるものだけではない。まわりを固める俳優陣の力があってこそのもの。異父兄である伯朗は本作においてもっとも地味な人物だが、演じる妻夫木は、フラッシュバックする伯朗の過去の記憶の映像とともに、苦々しい表情と絞り出すように発するセリフによって、人物の背景までをも浮かび上がらせているように思える。そして、明人の妻・楓を演じる吉高の謎めいた挙動によって、明人もまた、よりミステリアスな存在として視聴者の興味をそそっていることだろう。

 それに、矢神家の一族の濃いキャラクターたちを演じるディーン・フジオカ、麻生祐未、戸田恵子らの存在も大きい。彼らがキャラクターと同様に“濃厚な演技”を展開し、「明人」という名を口にするだけで、それはやはり特別な存在となり、視聴者の脳内に植えつけられることになる。これはもはや、洗脳的である! 彼らに支えられることで、未登場ながらも明人は“生きている”のだ。

 これまでは人々の言葉によって語られてきただけの明人だが、第6話の予告では、ついに登場している様子が確認されている。果たして、彼が口を開く瞬間が訪れるのだろうか。そうして姿を見せる俳優・染谷将太は、本作で何を残すのだろうか。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■放送情報
日曜劇場『危険なビーナス』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:妻夫木聡、吉高由里子、ディーン・フジオカ、染谷将太、中村アン、堀田真由、結木滉星、福田麻貴(3時のヒロイン)、R-指定(Creepy Nuts)、麻生祐未、坂井真紀、安蘭けい、田口浩正、池内万作、栗原英雄、斉藤由貴、戸田恵子、小日向文世
原作:東野圭吾『危険なビーナス』(講談社文庫)
脚本:黒岩勉
プロデューサー:橋本芙美(共同テレビ)、高丸雅隆(共同テレビ)、久松大地(共同テレビ)
演出:佐藤祐市、河野圭太
製作:共同テレビ、TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/kikenna_venus/
(c)TBS