『JAPAN ONLINE FESTIVAL』が突き詰めたオンラインならではの表現 主催者とアーティストが共有したこのフェスが目指す姿
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11月6、7、8日の3日間、『JAPAN ONLINE FESTIVAL 2020』が開催された。
ライブの開催が困難となった2020年、多くのアーティストや多くのイベント主催者がオンライン配信という形でイベントを開催した。その中でわれわれオーディエンスも、イベントを催す主催者や出演するアーティストも「オンラインライブは生で見るライブの代替にはならない」ことに気が付いたのではないだろうか。オンラインライブとリアルライブ、それぞれが全く異なる性質を持つ以上、どちらもどちらかの「代わり」にはならないのである。
しかしそれは同時に「オンラインライブ」だからこその表現があることも示している。例えば、8月に開催されたサカナクションのオンラインライブは「オンラインだからこその表現」に挑み、成功した例と言えるだろう。オンラインでしか成せない表現を目指すことで、オンラインライブを新しいエンターテインメントに昇華し、ライブエンターテインメントの未来を創り出す。『JAPAN ONLINE FESTIVAL』の公式サイトに掲載されている開催概要にも、今回のオンラインフェスはそんな未来へ向けた施策だという旨が記されている。
3日間開催された『JAPAN ONLINE FESTIVAL』、初日はsumikaやBiSH、マカロニえんぴつなどバラエティに富んだアーティストが出演し、フェス初日を華々しく飾った。2日目はVaundyやさユりなどのソロシンガーや、ずっと真夜中でいいのに。やindigo la Endなどのじっくりと“聴かせる”バンドが顔を揃える。3日目はKEYTALKやヤバイTシャツ屋さん、キュウソネコカミなど、普段ロッキング・オン企画制作のフェスでは大きなステージに登場するようなロックバンドたちがその貫禄を見せつけるステージを展開した。
今回の『JAPAN ONLINE FESTIVAL』、特筆すべきはアーティストの背後に設置された超巨大LEDだろう。18m×7mの巨大スクリーンに映し出されるのは、アーティストが歌い奏でる楽曲の世界観をより強固にする映像の数々。思えば当フェスの主催であるロッキング・オンは近年『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』『COUNTDOWN JAPAN』『JAPAN JAM』などのステージにも巨大なLEDを設置するなど、音楽とビジュアルの関係性を積極的に模索してきた。そんな音楽とビジュアルの関係が、通常のライブ以上に求められるオンラインライブだからこそ、今回のフェスでは巨大スクリーンの真価が発揮されたように思う。
通常のライブであれば、それぞれの観客が様々なポイントに注目する。歌うボーカルに注目したり、演奏する楽器隊に注目したり、ステージ全体を俯瞰するように見たり、それぞれが好きなように注目するポイントを変えることが出来る。しかしオンラインライブはその性質上、自ずと視点がカメラに委ねられてしまう。そういう意味で通常のライブと比べてオンラインライブの自由度はグッと落ちてしまう。しかし今回の『JAPAN ONLINE FESTIVAL』は巨大LEDが設置されたことで、演者に寄った画でも引いた画でもLEDと演者、どちらも楽しめるようなステージになっていた。また映像とカメラワーク次第では、アーティストが全く別の場所で演奏しているように見えることも今回のフェスとLEDならではだ。通常よりも自由度の低いオンラインライブでも「自由に楽しめる」という音楽フェスの在り方を示した。
オンラインライブならではの表現として印象深いのは初日に出演した四星球のステージだろう。「盛り上がっていないと配信されている映像がボケる」という彼ららしいユーモアの溢れた設定からライブがスタート。「映像がボケる」というネタは通常のライブでは当然出来ない設定であり、これもオンラインライブならではの表現だ。また、最終日のトリを飾ったキュウソネコカミは1曲目の「ビビった」で、まるで宙づりで演奏しているかのような映像のトリックを披露。曲名通り見ているオーディエンスの誰もが“ビビった”はずだ。フェス全体でなく、アーティストたちも積極的にオンラインライブという特殊な器を用いて「オンラインならでは」な表現に取り組んでいる様は、このフェスが目指す未来を主催者とアーティストがきちんと共有していることの証明にもなっている。
今回の『JAPAN ONLINE FESTIVAL』はカメラとアーティストの立つフロアがフラットになっていたことも特異な点だろう。通常のライブであれば1段高いステージが一般的で、オンラインライブの場合もスタジオライブのような形でも無い限り、多くは通常のライブを踏襲したステージを作り、通常のライブになるべく近い形で演奏が行われていた。その一方で『JAPAN ONLINE FESTIVAL』はステージとカメラがフラットな位置関係になることで、アーティストが普段のライブよりも自由に動き回り、それが結果として普段のライブや他のオンラインライブでは見ることのできない映像になっていたことが印象深い。
また、オンラインライブ、イベントの多くは生中継、もしくは生中継風に見せるような映像となっていた。それはライブの「生感」を分かりやすく演出するためである。しかし今回の『JAPAN ONLINE FESTIVAL』は事前収録であることをあらかじめ明言。さらにSNSなどで先立ってライブ映像の一部を先行配信した。既存のオンラインイベントにおける生中継、もしくは生中継風の演出は結果として「蓋を開けるまでわからない」状況を作り出し、決して安くないチケットを購入するユーザー/オーディエンスにとって購入、視聴のハードルを高めてしまっている。事前にライブの模様を少しでも見ることができるのは、ユーザーにとっても非常に有意義な施策だったのではないだろうか。また、ライブ中はTwitterでヤバイTシャツ屋さんのオフィシャルアカウントやポルカドットスティングレイのボーカル・雫がリアルタイムでツイート。SNSという場で実際の出演者と時間を共有しながらライブを見るという、通常のライブや生中継のオンラインイベントでは体験できないライブを生み出していた。
ここまで記してきたように、今回の『JAPAN ONLINE FESTIVAL』は既存のリアルライブ、リアルフェス、あるいはオンラインイベントとは一線を画す、新しいオンラインイベントの在り方を提示する非常に意義深いフェスとなっていた。各アーティストのライブ終了後に続けて配信された各アーティストと『ROCKIN’ON JAPAN』総編集長の山崎洋一郎、FM802のラジオDJ飯室大吾によるBACKSTAGE TALKでは多くのアーティストが次回開催時も参加の意志を表明していた。この先これまで通りリアルイベントが開催されるようになっても、今回の『JAPAN ONLINE FESTIVAL』のようにオンラインならではの表現を突き詰めたイベントは残り続けることだろう。そんな未来への予感に満ちたフェスであった。
■ふじもと
1994年生まれ、愛知県在住のカルチャーライター。ブログ「Hello,CULTURE」でポップスとロックを中心としたコラム、ライブレポ、ディスクレビュー等を執筆。
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