『#リモラブ』が考察するそれぞれの“ディスタンス” 顔の見えないやりとりの先に何がある?
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人間関係の失敗はたいてい「距離感の失敗」で生まれると言ってもいい。『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜』(日本テレビ系)を観ていると、若かりし頃の拙い失敗の記憶がいろいろと蘇って耳が痛い。
舞台は2020年の春から冬にかけての横浜。コロナ禍のなかオフィスビル内で働く産業医・大桜美々(波瑠)と、彼女をとりまく人々の日常を描く。職業柄、ことあるごとに美々が叫ぶ「ソーシャルディスタンス!」という台詞がほのめかすように、このドラマには広義の「ディスタンス(距離)」に対する考察が散りばめられている。
「ステイホームで会えない」という物理的な「距離」。美々が「草モチ」というハンドルネームを使ってSNSで出会った顔も知らない「檸檬」と会話を続けるうち、次第に恋心を抱くようになるまでの心の「距離」の移り変わり。登場人物それぞれの性質によって違う他者との「距離感」。距離感の違いはすなわち価値観や感覚の違いだ。それが上手でコミュニケーションに長けた人もいれば、反対に不器用で失敗しがちな人もいる。
主人公の美々は、数々の男性と交際してきたはずなのに、ふと立ち止まってみれば「一度も心から恋をしたことはなかった」と気づき、アラサーにしてすっかり恋愛下手になってしまった。生真面目な性格から出るつっけんどんなもの言いのせいで誤解を招くこともしばしばで、ほとんどコミュ障と言ってもいいぐらいだ。そんな美々が唯一心を許せる檸檬とのSNSでの会話で、送信する文面や絵文字について「ああでもない、こうでもない」と行きつ戻りつ逡巡する姿は見ていて身につまされる。こういうの、取るに足りないように見えて重要なことだ。
対して、第4話で美々が恋した檸檬の「中の人」であることが明らかになる青林(松下洸平)は誠実な対応で評判の、調整上手な人事部社員だが、病的に天然な一面がある。しかし、この鈍感さを自覚しているからこそ、常に先回りして周囲の人に心を配るようになったとも想像できる。第2話で、緊急事態宣言以降の日々をふりかえり檸檬が草モチに送ったメッセージの「僕はいろんなことに対して、大丈夫かなぁって思ってました」という文面が、まさしく青林の人間性を物語っていた。
自分が檸檬であると嘘をついてあこがれの美々とのデートに漕ぎ着けるも、美々の表情ひとつひとつから自分への気持ちがないことをすぐに悟ってしまう五文字(間宮祥太朗)の「空気が読めすぎる」ことの切なさ。青林と付き合ったのは「体が目当てだった」とあっけらかんと語る沙織(川栄李奈)の「セフレと彼氏は別物」という信条に現れる彼女なりの“生き抜く知恵”。コロナ禍になってからあちこちで見かけた「不便・不自由にゴネる人」代表のような営業部の岬(渡辺大)が、実は新入社員とのコミュニケーションを取ろうと試行錯誤している姿。いろんな人々のいろんな「距離感」が描かれている。
さらに、このドラマの作り手は視聴者との「距離感」も心得ていると感じる。美々の助手・八木原(高橋優斗)が芝居の途中でカメラ目線に切り替えて視聴者に語りかけ、物語のナビゲーターを務めるのがおなじみとなっているが、この一見、なつかしのトレンディドラマ的手法は、「これはフィクションですよ」というサインを視聴者に送る役割を担っている。未曾有の事態に日常を奪われ、自覚・無自覚に関わらず心を削られ、傷ついている視聴者がたくさんいる。そのうような視聴者が、コロナ禍を舞台に描かれたドラマの世界に引っ張られすぎることは、ある種の危険を伴うことも想定される。だからこそ現実とフィクションの境界線をきっちりと引く。そんな作り手の気遣いが感じられる。劇中で「コロナ」という言葉は使わず、「新型ウイルス」という表現に留めているのもしかりだ。
表向きのパッケージをラブコメという明るい仕様にしているのも、そういった意図だろう。しかし、あくまでもフィクションであることはわきまえたうえで、第1話で「私は大丈夫」と自分に言い聞かせ気丈に任務にあたってきた美々が一人になってふとした瞬間に心が折れそうになるシーンが胸に迫った。「ポップなラブコメ」を装いながらも、きわめて今日的で繊細な心模様を描くこのドラマの本懐が垣間見えた場面だ。
勘違いやすれ違いから発するコメディシーンにも、不思議な緊張感が漂っている。それはやはり、笑って何気ないふりをして日常を過ごすドラマの中の彼らも、そして観ている私たちも、薄皮一枚隔てた下には「漠然とした不安」があるからだろう。それでもなんとか生きていく。青林と五文字のじゃれあいや、八木原・栞(福地桃子)のバカップルのイチャコラ、富近先生(江口のりこ)と八木原のムーンウォークにさえ、名状しがたい泣き笑いの空気と、そして尊さを感じてしまう。
SNS、古くはメールやインターネットを介して始まるラブストーリーは、これまでにも数多くあった。そのどれもが概ね、朝成(及川光博)が息子の保(佐久間玲駈)の自由研究と自らの離婚の経験談を重ねて語った「結局、本当の愛は会わなきゃ育てられない」が結論だったのではないだろうか。しかしどうやら『#リモラブ』は視点が少し違うようだ。文字だけの、それも他愛のない会話の積み重ねにこそ、発する人の本音が現れるし、素性も属性もまったくわからない同士だからこそ語れることがあり、心が寄り添いあうこともある。世の中がパニックになり複雑にもつれた事柄が横たわる一方で、反面、至極シンプルで本質的なもの、SNSでの顔の見えないやりとりが寓意する「あらゆるものを削ぎ落とした先に残る何か」を、このドラマは描き出そうとしているのではないだろうか。
先週放送された第5話では美々が、青林と檸檬を同一視したうえで「好きだ」と認識し、今夜放送の第6話では美々が草モチであることをカミングアウトする。折り返し地点を迎えた物語が今後どんな結末を迎えるのか、見守りたい。
■佐野華英
ライター/編集者/タンブリング・ダイス代表。ドラマ、映画、お笑い、音楽のほか、生活や死生観にまつわる原稿を書いたり本を編集したりしている。
■放送情報
『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜23:00放送
※第7話は12月2日放送
出演:波瑠、松下洸平、間宮祥太朗、川栄李奈、高橋優斗(HiHi Jets/ジャニーズJr.)、福地桃子、渡辺大、江口のりこ、及川光博
脚本:水橋文美江
演出:中島悟、丸谷俊平
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
チーフプロデューサー:西憲彦
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/remolove/
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