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佐々木敦、さらにアイドルにハマる 第1回 コロナ禍以降のアイドルシーン

音楽

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ナタリー

「佐々木敦、さらにアイドルにハマる」ビジュアル

4月に4回にわたり展開して好評を博した、佐々木敦がアイドルについて語るロングインタビュー企画が復活。今回も南波一海を聞き手に迎え、アフターコロナのアイドルシーンについてたっぷりと語ってもらった。

構成 / 望月哲 インタビュー撮影 / 近藤隼人 イラスト / ナカG

アイドルたちが見出した“生きる意味”

──今回はコロナ禍以降で気になったアイドルシーンのトピックについて語っていただければと思います。

佐々木敦 前回はアイドルに興味を持ったばかりのタイミングだったんだけど、あれから半年経って今の俺は第2形態になってるから(笑)。

南波一海 あははは。第2形態(笑)。

佐々木 今日は前回みたいに俺がひたすらしゃべるんじゃなくて、なんちゃんの意見をいっぱい聞いていこうかなと。

南波 前みたいな感じで全然いいですよ(笑)。

佐々木 仕事的には俺、引き出すほうの人だから。いかにインタビュー相手から話を引き出すか。それがアイドルに関しては引き出されてばっかりで(笑)。前回よりはキャッチボールができたらいいなと思ってる。でも、なんちゃんと対等にキャッチボールできるほどの知識はない(笑)。

南波 いやいや、自分も得意じゃないところがいっぱいあるし。正直、興味がないアイドルのほうが多いので。

佐々木 でも、「それ、誰ですか?」ってことはないじゃん。だから話しててすごく安心。楽しくてしょうがない。

南波 前回の対談は3月10日に行っていて、コロナ禍が本格化していく前ぐらいだったから、アイドルシーンは今後どうなるんだろうみたいな感じでしたね。

佐々木 当時はまだどこか楽観視していたところもあったんだけど、その後、あれよあれよとすごいことになって。世の中はもちろん、言うまでもなくアイドルシーンにも多大な被害が及んでるわけだよね。南波くんは今の状況をどういうふうに捉えてるの?

南波 コロナ禍以降もアイドルへのインタビュー仕事はちょこちょこあって。本人たちに現状を聞くと、多くのアイドルにアイデンティティクライシスが起きてるんですよね。「ライブができない私たちになんの意味があるんだろう?」って。

佐々木 ああ。

南波 それこそハロー!プロジェクトからインディーズの人たちまで。握手会だ、ライブだって現場でエネルギッシュに動いてきた人たちが急に立ち止まらざるを得なくなって。冷静に自分を見つめ直した結果、辞めてしまったアイドルもけっこういますし。

佐々木 我に返る時間ができちゃって。

南波 忙しくしていた人ほど反動も大きかったんじゃないかなと思うんです。その一方で、やっぱりライブがないと生きていけないという人も当然いて。AqbiRecのディレクターの田中紘治さんに取材したときに興味深いなと思ったのが、MIGMA SHELTERのミミミユさんの話で。彼女はコロナ禍の影響でストレスを感じて一時期、失声症になっちゃったらしいんです。その後、レッスン場で歌わずにダンスのみをツイキャスで配信したんですけど、ずっと体を動かしていたら、あるとき急に声が出るようになって。

佐々木 体を動かすことで感覚が戻ってきたんだ。

南波 そうそう。僕らが思っている以上に、人前で歌ったり体を動かしたりすることや、特典会で会話したりすることに生きる意味を見出しているアイドルがたくさんいるんだということに気付かされて。この半年ぐらいの間に取材やトークイベントをしていく中で、そういう話をほうぼうから聞きました。

佐々木 オンラインライブも増えてきたけど、やっぱり目の前にファンがいないのはすごく不安だと思う。彼女たちはずっと、たくさんの人の前でパフォーマンスしてたのに、それが突然、目の前に関係者しかいないような状況になってしまったわけだから。そこでどうやってモチベーションを保っていくのか。カメラに向かって元気なふりをしたり、そういうことを続けているうちに、じわじわ効いてきちゃうんじゃないかな。

南波 それはでも、アイドルに限らずですよね。

佐々木 うん、もう俳優だろうがミュージシャンだろうがね。

南波 実際、解散したバンドもあるし。

佐々木 「2020年が勝負!」みたいな感じで、ツアーやリリースを決めていた中で、こういう状態になっちゃうと心が折れるのは当然だもんね。

“場”の空気を共有する喜び

南波 でも、この時期に活動を始めたアイドルグループもいっぱいいるんですよ。それがすごいなと思って。

佐々木 それは“完全非接触型アイドル”みたいな?

南波 そういう人たちもいますし、ヤマモトショウさんは音楽制作からファンコミュニケーションまで、すべての活動をオンラインで完結するアイドルプロジェクトを始めています。NELNというグループは、年明けくらいから動き出そうとしてたけどコロナで活動ができなくなっちゃったものの、毎月新曲とミュージックビデオを配信したりしていて。

佐々木 へえ。

南波 コロナの影響でより厳しい状況に置かれてしまった運営もたくさんあるんですけど、新しいグループの場合、それ以前の状態からスタートしてるので。

佐々木 逆にいいね(笑)。自然に適応力がアップしているというか。

南波 まさにマイナスからのスタートなんですよ。この状況がプリインストールされた状態で始まった人たちもいっぱいいるので、その新世代の動きは楽しみにしているところです。でも、それ以前からやってきた多くの人たちは、やり方を変えなきゃいけないわけで。これもアイドルに限らずですが。

佐々木 それこそ他ジャンルでも、例えばZoom演劇みたいなものが始まったり、オンラインでの可能性を見出す動きが活発になってきたよね。僕もトークライブや読書会をZoomでやるようになった。実際にやってみて、いいなと思ったのは、遠くに住んでいる人たちも気軽に参加できるということ。なんだったら海外の人も参加できるわけよ。これはこれでアリだなと思った。でも何回かやってると、だんだん人が来なくなる(笑)。

南波 そうなんですよね。

佐々木 そう。で、「なんで来なくなるんだろう?」ということを考えたときに行き着いたのは、演者や著者に直接会えないことはもちろん、参加者同士が直接顔を合わすことができないからなんじゃないかっていうことで。

南波 ああ、なるほどなるほど。

佐々木 僕はそもそも“会いに行けるアイドル”的なものに興味がないし(笑)、現場に足を運ぶこともないから、オンラインでアイドルの活動をチェックする今の状況って実はコロナ禍以前から全然変わっていないわけ。

南波 そうですよね。

佐々木 でもアイドルファンの立場に立って考えることも最近は多くて。彼らの中には横のつながりみたいなものを求めて現場に足を運んでる人がすごく多いと思うんだよ。好きなアイドルを同じ空間で応援する喜びを求めてる。でも今は画面を観てるだけで、それ以前に自分以外の誰かがフロアにいるという実感すらないわけじゃん。 “場”の空気を共有する喜びって、すごく大きいことだと思う。

南波 確かにそうで、現場ならではの高揚感みたいなものって絶対あるはずなんだよなあ。

佐々木 場の力みたいなものって絶大だと思う。ここ最近、徐々に有観客ライブも増えてきているけど、いわばロシアンルーレットみたいなもので、みんなどこかで不測の事態を恐れながら様子を見つつやってるわけじゃない? この状況がいつまで続くのかっていう。

俺はいったい何を楽しんでいるんだろう

南波 ハロプロは、けっこう早い段階でお客さん入れるライブを始めていて。毎年夏と冬にハロプロのメンバーが一堂に会するコンサートがあるんですけど、今年の夏以降はライブの構成をガラッと変えて開催しているんですよ(「Hello! Project 2020 ~The Ballad~」)。

佐々木 全曲バラードでしょ?

南波 そうです。全曲J-POPのバラードのカバーで、基本的にはソロ。要するに、声援を上げず静かに観るような構成になってるんですよね。この間、日本武道館でその集大成的な公演(「Hello! Project 2020 Autumn ~The Ballad~ Extra Number」)があったから観に行ったんですけど、やっぱり延々バラードなんです。そう謳っているので当たり前なんですが(笑)。

佐々木 何十人も1人1曲ずつ入れ替わり立ち替わり出てきては歌って捌けていくわけでしょ? ある意味、のど自慢大会とかに近い構成だよね。

南波 そうなんです。観てると面白いんですよ。北川莉央さん(モーニング娘。'20)の表現はすごいなとか、短い歌割りだけだと気付きにくかった魅力を知ることができる機会もあるし。ただ、確かに面白いんだけど……自分がずっと楽しんできたものって、きらびやかな衣装を着た人たちが大勢で歌って踊るライブだったわけじゃないですか。それとは対極的なステージが目の前で繰り広げられていて。でも、そこに順応して面白さを見つけている自分もいる。で、「俺はいったい何を楽しんでいるんだろう……」って考えちゃいました(笑)。

佐々木 なんちゃんもアイデンティティクライシスに陥って(笑)。

南波 めちゃめちゃ根源的な謎にぶつかってしまって。自分はアイドルの現場に何を求めているのかという。

佐々木 以前と同じ人たちが出てるのに、違う。

南波 ステージにいるのはいつもと同じ人たちなんです。なんかすごく不思議な気分になって。

佐々木 客席はどういう空気なの?

南波 めちゃ静かですよ。

佐々木 だって声を出しちゃいけないんでしょ?

南波 ダメです。応援はペンライトを振るか拍手のみなんですけど、“高木紗友希(Juice=Juice)×小田さくら(モーニング娘。'20)”みたいな、めちゃくちゃ歌がうまい人が圧倒的なライブを披露したときの盛り上がりがすごいんですよ。

佐々木 観た観た(笑)。動画で歌ってた曲をライブでやったんでしょ?

南波 小田さんのホイッスルボイスはミニー・リパートンみたいでした。もう、信じられないくらいの拍手なんです。で、さっきの話に戻るんですけど、あの公演全体を普通に楽しめていたというのは、さっき佐々木さんが言ったような、場の力みたいなものが働いていたのかなって。演者とファンが同じ時間に同じ場にいるという。

佐々木 ああ、それはあるかもしれないね。

南波 冷静に考えたら、あまり好きじゃないタイプの催しなんですけど(笑)。

佐々木 ある意味シュールな催しだもんね(笑)。

南波 3時間越えの長丁場ですしね。しかも普段から自分は歌がうまいとか、そういう評価軸だけでアイドルは語れないということを言ってるのに(笑)。でも、それでも楽しいなと思えているというのはやっぱり、現場のなせる何かがあるのかなって思うんです。

佐々木 いろんな要素がどんどん抜かれていったとき、最後の最後に残るバイブスみたいなものというか(笑)。

南波 そうですね。地下アイドルで、マスクして口パクでライブをやってた人たちがいたんですよ。ピューパ!!ってグループなんですけど。MCまで事前に録音したりして(笑)。それもなんだかんだ面白かったし。

佐々木 結局それも煎じ詰めれば、“そこに居る”問題だよね。口パクでもいいし、極端な話、何もしてくれなくても、その“場”を共有できればいい。同じ場に居合わせることの価値っていうのかな。

スパイス何個からカレーなのか

南波 ちなみに僕、武道館以外のところでやったハロコンにもチケットを買って行ってみたんですよ。そしたら出演者の人数を絞ったうえに演出もかなり控えめで。それも意外と楽しめたんですよね。そこで考えたのは、カレーを作るうえでスパイス何個からがカレーなのかみたいなことで(笑)。スパイスを抜きまくった公演のはずなのに。

佐々木 でもまだカレーだっていう(笑)。

南波 そうそうそう(笑)。ある意味、アイドルというものがすごくむき出しになっていて。

佐々木 アイドルの本質というか、ハードコアな部分を感じることができたっていう……でも、本当にそうなのかな?(笑)

南波 あははは。自分がアイドルのライブに何を求めているのか、コロナ以降そのことについてひたすら考えているんだけど、結論は出ないままなんです。「果たしてこれが続いたときにどう感じるようになるのかな?」なんて思いますし。

佐々木 たぶん今なんちゃんが言ったことは、チケットを買って武道館までハロコンを観に来たファンの人たちが持ってる“無意識”みたいなものに触れてるよね。その人たちも3時間にわたってじっと座って、黙ってライブを観ていたわけで、推しメンが出てくるのを今か今かと待ちながらも、なんちゃんと同じように「俺は今、いったい何を観てるんだろう?」って存在論的な不安に駆られていたんじゃないかな。

南波 そういう人がいてもおかしくはないですよね。

佐々木 そのとき、たぶん自問自答するよね。「いつものハロコンと全然違うよな」「俺はこの公演を本当に楽しんでるのかな?」「今後もずっとこういう感じだったらどうしよう……」とか。でも多くのハロヲタは、それでもきっとまた足を運ぶんじゃないかなと思う。コロナ禍を経て、今後アイドルファンも第2形態、第3形態に進化していくような気がする。アイドルに対するアプローチにすごいレンジが生まれたよね。

南波 本当にそうですよね。オンラインライブのあり方も刻々と変わってきているし、入場者数を絞りつつ従来の形に限りなく近いライブをやるパターンもある。いつかすべてが元に戻るというより、佐々木さんの言うようにレンジが広がっていくんだろうなと思います。

佐々木 ハロプロは今後どうなっていくんだろうね。Juice=Juiceに元こぶしファクトリーの井上玲音さんが入ったじゃない? でも入ったんだけど、入ってなかったんだよ。

南波 人前に出られなかったから。

佐々木 れいれいも加わった形でなかなかパフォーマンスしなかった、というかコロナでできなかったから、俺はその状態を“サブリミナル加入”だと呼んでた。

南波 サブリミナル加入(笑)。

佐々木 絵面としては加入してないようで、でも実は加入してるみたいな。その結果、入れ替わりで卒業するはずだった宮本佳林さんとれいれいがグループ内で共存してるっていう。これはアンジュルムでも起きることですけど。

南波 本来であればありえない未来になっている。

佐々木 ファンの間でも「時間軸が混乱してる」とか言われてるんでしょ? 「こんな世界線があると思わなかった」みたいな(笑)。でも、今後もどうなるかわかんないわけじゃん。これは別にハロプロに限った話じゃなくて、みんな早く元の状態に戻ってほしいと思うのは当たり前だし、その欲望は今後ますます強まっていくだろうと思う。でも、神様がその願いを叶えてくれるとは限らない。だからこそ問われるよね、やる側も観る側も。俺がアイドルに興味を持った途端、こんな状況になっちゃって。2021年にはどうなっちゃってるんだろう……っていうか、わかんなくない?

南波 全然わかんないです(笑)。

佐々木 我ながらすごいタイミングでアイドルにハマったなと思うよ(笑)。

連載第2回はこちら

佐々木敦

1964年生まれの作家 / 音楽レーベルHEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」編集長。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。8月には78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)が刊行された。

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル「PENGUIN DISC」主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行ない、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。