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USインディ注目株のエイドリアン・レンカー、神話的な物語を綴る青葉市子……アンビエントと歌の境界で揺らめく必聴作5選

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 インストゥルメンタルだけど歌を感じさせたり、音響の中に歌が浮遊していたり。今回はアンビエントと歌の境界で揺らめくような作品を紹介。

Adrianne Lenker『songs and instrumentals』

 まずは、USインディーシーンで注目を集めるバンド、Big Thiefの中心人物で、バンドと並行してソロ活動も行っているエイドリアン・レンカー。今年3月、コロナが猛威を振るうなかで、エイドリアンは楽器や機材を持って米マサチューセッツの山小屋に移住して曲作りに没頭した。そして、山小屋の響きが気に入った彼女は、アナログ機材のみを使って小屋でレコーディング。その結果完成した本作は、アコースティックギターの弾き語りを収録したDisc-1『songs』と、ギターによる即興をコラージュしたDisc-2『instrumentals』の2枚組となった。『songs』に収録された曲はすベて小屋で書き下ろされたもので、エイドリアンのか細く、それでいてひたむきな情熱を秘めた歌声に引き込まれる。『instrumentals』は、21分と16分の長尺な2曲で構成。彼女の心象風景をギターで綴ったような楽曲は、ギターの音色だけでなく山小屋の響きもサウンドの重要なエッセンスとなっている。そこからは、しっかりと彼女の“歌”が聴こえてくる。

adrianne lenker – zombie girl (official video)

Emily A. Sprague『Hill, Flower, Fog』

 Floristというバンドでバーカルを担当しているエミリー・A・スプレイグ。数年前、事故で大怪我を負った彼女は、しばらくバンド活動がままならなくなってしまう。そこで、趣味で集めていたビンテージシンセを使い、自宅でアンビエントミュージックを作るように。そして、自主制作でリリースしたカセット作品が高い評価を受け、彼女はアンビエントミュージックの作曲家として注目を集めることになった。そんなエミリーがネット上で発表していた新作に曲を加えて、日本のみでCD化されたのが本作だ。余白を生かしたシンプルな音作りで、シンセの音色は水彩画のように淡く柔らか。そんななかで、鼻歌のように親しみやすいメロディが反復し、アンビエントな穏やかさにネオアコ的で清楚な佇まいも感じさせる。野原に花が咲き乱れるジャケットのイメージそのままに、ナチュラルで繊細なサウンドに心和むアルバムだ。

Emily A. Sprague – Star Gazing

North Americans『Roped In』

 2人のギタリスト、パトリック・マクダーモットとバリー・ウォーカーによるインストゥルメンタルデュオ。パトリックがフィンガーピッキングでアコースティックギターを弾き、バリーはペダルスティールを演奏。エフェクトをかけたペダルスティールがサイケデリックなサウンドを生み出し、フォーク/トラッドの流れを汲むアコースティックギターが端正な演奏を聴かせる。そのコントラストがユニークで、2本のギターを普通に絡ませず、ペダルスティールの音色を曲の遠景に置くことでサウンドに立体感を生み出している。さらにギタリストのウィリアム・タイラーやハープ奏者のメアリー・ラティモアがゲスト参加。アンビエントな浮遊感の中にアメリカーナな叙情を漂わせながら、アバンギャルドなエッジも感じさせる、白昼夢めいた世界が広がっていく。

North Americans – “American Dipper” (Official Video)

青葉市子『アダンの風』

 今年でデビュー10年目という節目を迎えた青葉市子。自身のレーベル<hermine>を立ち上げて作り上げた新作は、沖縄の島々に長期滞在した時に思いついた物語をもとに、架空の映画のためのサウンドトラックとして制作された。曲作りのパートナーに作曲家の梅林太郎を迎え、レコーディングやミックスのエンジニアに葛西敏彦が参加。二人は曲作りの段階から参加し、青葉と一緒にアルバムの世界観を作り上げ共有した。これまでの作品はギターの弾き語りが中心だったが、本作ではストリングスやオルガン、フィールドレコーディングなど様々な音色が融合。インスト曲とボーカル曲が混ざり合い、これまで以上に映像的で広がりあるサウンドを構築している。当初はインスト中心のアルバムにする予定だったらしいが、一人の少女を主人公にした物語は、音楽で綴った神話のように幻想的だ。

Ichiko Aoba – Porcelain (Official Music Video)

COMPUMA & 竹久圏『Reflection』

 サウンドクリエイター/DJとして多方面で活躍するCOMPUMAと、KIRIHITOやGROUPで活動するギタリストの竹久圏がコラボレート。本作は、京都の老舗茶問屋、宇治香園が提供する「音と光で茶を表現する」シリーズ“Tealightsound”の7作目。二人は以前にも、このシリーズで『SOMETHING IN THE AIR -the soul of quiet light and shadow layer-』という作品を発表しているが、そのアルバムを作る際に訪れた山奥にある茶畑を5年ぶりに再訪。今では廃園となって自然に呑み込まれたその茶畑から受けた印象を作品にしたそうだ。鳥や鹿の鳴き声、水音など、現地でフィールドレコーディングされた自然音と、霊気のように浮遊する電子音が融合。さらに竹久のクラシカルで情感豊かなギターが加わり、ストレンジでありながら郷愁を感じさせるサウンドスケープを生み出していく。自然を美しいフレームで切り取るのではなく、二人のアーティストが音を絵筆に独自の感性でスケッチした異空間音響作品。

RealSound_ReleaseCuration@Yasuo Murao20201122

■村尾泰郎
音楽/映画ライター。ロックと映画を中心に『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』『CDジャーナル』『CINRA』などに執筆中。『ラ・ラ・ランド』『グリーン・ブック』『君の名前で僕を呼んで』など映画のパンフレットにも数多く寄稿する。監修/執筆を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)がある。