『麒麟がくる』染谷将太演じる信長が命じた容赦ない「比叡山焼き討ち」 光秀にほのかな反抗心も
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朝倉、浅井との和睦が成立したのも束の間、信長(染谷将太)による「比叡山焼き討ち」が始まった。NHK大河ドラマ『麒麟がくる』第33回「比叡山に棲む魔物」では、覚恕(春風亭小朝)と摂津春門(片岡鶴太郎)が手を組み暗躍する姿が描かれる。
織田軍と朝倉・浅井軍との膠着状態は2カ月も続いていた。光秀(長谷川博己)は和睦に望みを賭け比叡山に向かう。朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)に「雪で足止めを食らえば2万の兵を山中で養うことになり相当な負担になるだろう」と話し、戦を切り上げるべく説得を試みるが義景は無言のまま。その時、外を通りかかったのが比叡山の主である天台座主・覚恕の一行だった。覚恕は、正親町天皇(坂東玉三郎)の弟にあたり出家をした身である。そして義景に信長との戦を命じていたのも、この男。覚恕こそが和睦の相手と理解した光秀は、その夜、覚恕に会った。
目の前の覚恕は酒と女色に溺れ、金と力さえあればなんでも思い通りになると思い込んでいるような俗物。「兄君(帝)は悔しいほどに美しいのに、自分は見た目が醜いがために叡山に出家させられたのだ。だが、金と力を持つことで、都の者や帝の頭を下げさせることができた。儂は美しきものに勝ったのじゃ」などと言い、兄への強いコンプレックスを滲ませる。到底、光秀が和睦を切り出せるような人間ではなかった。
覚恕を演じたのは落語家の春風亭小朝である。NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』では明智光秀役で登場したが、今回は光秀の行く手を阻む覚恕を演じる。気持ちのこもった長台詞は、落語で培った表現力による圧倒的な勢いがあった。さらに、兄である正親町天皇(坂東玉三郎)に対して抱く、美に関するコンプレックスを切々と説きながら、時に声を押し殺し「笑うでない」と女性を睨みつける姿には背筋が凍る。目だけがクロースアップになり、信長に対しての憎しみを吐きだしたかと思うと、次のシーンでは「返せ、返せ」と連呼。歪んだ心が増幅させた憎悪を吐き出すその姿は、悲痛さをもはらませた。
そうこうするうちに、信長包囲網はいよいよ狭まり、尾張にいる弟の信興が討たれてしまう。その陰で、「成り上がり者に夢は見させぬ」と高笑いをするのが覚恕と摂津だった。2人は繋がっていたのだ。この奸計は信長の耳にも入ることに、窮地に陥った信長は、一度は京を捨てようとするものの、考えを改め帝に和睦を申し出る。
これまでも裏で手を引き様々なことを画策してきた摂津は、片岡鶴太郎の誇張した芝居と独特なイントネーションで強烈な個性の持ち主として描かれる。『麒麟がくる』後半戦を彩る悪役として、物語をかき乱していく存在だ。光秀との対峙シーンでは、小柄ながらもギラリと光る瞳が光秀を捉える。力強く睨みつける光秀と対照的に、どこかいつも他人を小馬鹿にしたような表情で煽る摂津からは、卑怯で狡猾な人物であることがありありとうかがえた。
和睦は成立し、京の都に平安が訪れたかのように見えた。しかし信長は再び、比叡山の麓に兵を結集させる。「山に巣食う全ての者を討ち果たせ!」と命じ、女、子供も容赦しない「比叡山焼き討ち」が始まった。そのやり方に納得できない光秀は、伝吾(徳重聡)に女、子供だけは逃がすよう命じるのだった。光秀が信長に対してほのかな反抗心を抱く瞬間でもある。「戦のない世の中にしたい」と願っていた光秀にとって、「全ての者」を切ることは信条に反する行為だったのだろう。『麒麟がくる』はクライマックスに向けてさらなる盛り上がりをみせる。
■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter
■放送情報
大河ドラマ『麒麟がくる』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00〜放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00〜放送
主演:長谷川博己
作:池端俊策
語り:市川海老蔵
音楽:ジョン・グラム
制作統括:落合将、藤並英樹
プロデューサー:中野亮平
演出:大原拓、一色隆司、佐々木善春、深川貴志
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/kirin/
公式Twitter:@nhk_kirin