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『エール』コンサートは納得の最終回に 実現した裕一と音の“夢のつづき”

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リアルサウンド

 ついにこの日が訪れてしまった。どんなに辛いことがあっても、翌朝には心温まるストーリーに背中を押された『エール』(NHK総合)の最終回。実にエールらしく、最後は特別編として日本中を笑顔にする音楽を届けてくれた。

 題して「『エール』コンサート」。司会はもちろん、主人公の古山裕一を演じた窪田正孝。窪田のMCに導かれ、裕一のモデルとなった福島出身の作曲家・古関裕而が生涯にわたり作り続けた名曲を出演者がメドレー形式で歌った。

 まずは、裕一や鉄男(中村蒼)、久志(山崎育三郎)らの幼少期を演じた子役たちが、御手洗役の古川雄大と藤丸役の井上希美、千鶴子役の小南満佑子と一緒にラジオドラマ『鐘の鳴る丘』の主題歌「とんがり帽子」を披露。福島三羽ガラスが小学校で恩師である藤堂(森山直太朗)と出会った『エール』の始まりを思い出す。それぞれ悩みを抱えていた彼らは藤堂先生から音楽の素晴らしさを教えられ、新たな人生のスタートラインに立ったのだ。

 井上と小南は映画『モスラ』の劇中歌「モスラの歌」を、古川は裕一と鉄男のデビュー作「福島行進曲」を歌う。3人は物語を通して、裕一と音(二階堂ふみ)の奮闘を見守ってきた。いわゆる脇役とされる登場人物も丁寧に、そして愛らしく描くのも『エール』の魅力のひとつ。井上演じる藤丸は時にお酒を呑んで愚痴を吐きながらも、久志を一途に思い続けた愛情深いキャラクターだった。

 また、小南演じる千鶴子は音のライバルとして登場。厳しい一面もありながら、再登場した第21週「夢のつづきに」では音の歌声に目を潤ませる場面も。古川は御手洗をコミカルに、なおかつ高貴なキャラクターとして存在感を放った。「ミュージックティチャー」と言いかけて、“ミュージックティ”でカットされるお馴染みの場面が忘れられない。

 そんな古川にとって“ミュージカル界の先輩”である山崎は、作中でも古川とデュエットした「船頭可愛いや」を今度は中村のギター伴奏で歌唱した。そんな2人の共演をみて、窪田は感慨深く「感動した」と語る。堀内敬子と、吉原光夫によるパフォーマンスも圧巻の仕上がり。2人は“音楽”と関わりがなかった人物を演じていただけに、その歌唱力の高さに誰もが驚いたのではないだろうか。「フランチェスカの瞳」を歌った堀内が演じたのは、銀行員時代の裕一を持ち前の明るさで支えた昌子。そんな彼女が夫・藤堂の戦死を知らされ、「もう一度会いたい」と涙する場面は誰もがもらい泣きした。「イマヨンテの夜」を歌う吉原は、急死した安隆(光石研)の代わりに関内家を見守った岩城を好演。寡黙ではあるが、時折見せる笑顔が優しい“父親”のような存在だった。

 薬師丸ひろ子が歌う「高原列車は行く」の前には、裕一のアシスタントとして浩二役の佐久本宝と吟役の松井玲奈も登場。豪華なセットと演出が相まって、コンサートはさながら紅白歌合戦のよう。薬師丸は光子として第18週「戦場の歌」で賛美歌を披露したが、その澄み渡る歌声は戦時中の悲惨なシーンが続き、ぽっかりと穴が空いた視聴者の心を癒してくれた。後半に連れ、音がどんどんキュートで頼りになる光子に似てきたのも印象的だった。

 最後の2曲「栄冠は君に輝く」と「長崎の鐘」は、裕一が戦後に作った曲。自ら戦地に赴き、死にゆく人々を目撃した裕一はしばらく音楽と向き合うことができなかった。それでも池田(北村有起哉)や、長崎で永田武(吉岡秀隆)と出会い、自らの使命は「音楽で人を勇気づけること」だと気づいた裕一。それは『エール』というタイトルに込められたメッセージでもあるだろう。

 森山と山崎が弾き語りで歌う「栄冠は君に輝く」は、古関裕而が未来ある若者に捧げた曲。甲子園で勝った人だけではなく、残念ながら負けた人の気持ちにも寄り添う。100話で裕一が久志に言った「どん底まで落ちた僕たちにしか伝えられないものがあるって信じてる」という台詞が思い起こされる。『エール』も新型コロナウイルス感染拡大による撮影・放送休止や、小山田耕三を演じる志村けんさんの急死など、様々な困難に見舞われた。しかし、だからこそ、作品を通して視聴者に“エール”を送りたいという気持ちが台詞や演出からも伝わってきた。

 「長崎の鐘」は窪田が指揮をとり、二階堂が歌う。裕一と音が大きなNHKホールの舞台に立っている。それは2人が見た“夢のつづき”を叶える瞬間を見届けているようだった。2番からはコンサートの出演者が全員集合し、みんなで平和へのメッセージが込められた同曲を合唱。裕一と音、そして周りを山あり谷ありだった2人の人生を共に歩いた人たちが囲んでいる。『エール』は音楽と向き合い、絆を深めた裕一と音の夫婦の物語であり、それを支え、一緒に生きた人たちの物語だった。

「苦難の日々が続きますが、皆様どうか“一緒に”頑張りましょう」

 締め括りの言葉でさえ、本当に『エール』らしい。苦い出来事もたくさん訪れた2020年、どれだけの人が毎朝救われただろう。古関裕而の名曲が現代まで受け継がれてきたように、前代未聞の最終回で幕を閉じた『エール』もまた、みんなの心に残り続けるはずだ。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/