AI「Not So Different」は人類の課題と向き合う誠実なメッセージソングに 歩み寄る大切さを体現してきた“20周年の説得力”
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日本随一のソウルフルな歌声で聴く者を圧倒してきたAIも、今年でめでたくデビュー20周年。7月には話題のタイアップ曲を多数収めた記念碑的なミニアルバム『IT’S ALL ME – Vol.1』を発表したほか、20周年の集大成とも言える全国ツアーも着々とスタンバイが進むなど、いつにも増して濃厚なスケジュールをこなしている彼女だが、またしても先日、大きなニュースを届けてくれた。それは、2022年に東京で開催される世界的サミット『One Young World Japan』初のオフィシャルアーティストに就任し、イメージソングに自身の新曲「Not So Different」が起用されるという、何とも名誉な内容であった。
2010年から世界各地で開催されてきた『One Young World』は、次世代を担うリーダーたちを応援するために発起された国際会議。毎年190以上の参加国から選ばれた若者たちが、気候変動や紛争解決など様々な社会課題について各界のリーダーと議論を交わすことから、“若者版ダボス会議”とも呼ばれるほど革新的な意義を持つサミットとして知られている。そんな『One Young World』の願いは、異なる境遇を持つ人々がボーダーレスに連携し、未来の発展に向けて力を発揮していくこと。このコンセプトにAIは深い共鳴を示したそうだが、事実「Not So Different」を聴けば、彼女が同サミットに寄せた使命感、さらには音楽人生を懸けた決意までもがありありと伝わってくる。
AIの生まれ故郷であるロサンゼルスのスタジオで制作されたという「Not So Different」。プロデュースを手掛けたのは、ビヨンセ、マリオ、50セントなど、数多くのアーティストを爆発的ヒットに導いてきたスコット・ストーチだ。直近ではアリアナ・グランデの最新アルバム『Positions』収録の「my hair」も手掛けている。サウンド編成の主軸を担う淡々としたシンセのループは、ドクター・ドレー不朽の名曲「Still D.R.E.」を彷彿とさせるスコットらしい作法でニヤリとすること必至だが、その分シリアスなムードの出力を最大限まで高め、AI渾身のボーカルが淀みなく響き渡るよう設計されているあたり、メッセージソングの観点からしても見事な仕事ぶり。AIと海外クリエイターとのタッグは数あれど、Bガール然とした佇まいだったメジャーデビュー直後のスピリットをこれほどビビッドに再現した楽曲もなかなか珍しく、聴けば聴くほど、キャリア20年分の重みが心に突き刺さるようだ。
リリックにも目を向けてみよう。
〈世界中色んな国や/言葉、宗教や考え方/何が良くて何が悪いとか/答えはいつもバラバラ〉
〈生まれた時は/みんなBaby(中略)一緒に笑い/わかち合える/そんな世界になって欲しい〉
個が有する多様性を当然の摂理として受け止めながら、「それでも私たちには共通する部分もたくさんある。そんなに違わないんだ、だから」と、AIは驚くほどストレートに人類の団結、世界平和を投げかけていく。その一本気で誠実な意志は、サビのフレーズにも顕著だ。
〈花束を/銃の代わりに/音楽を/憎しむより/一緒に歌を〉
今も世界各地で絶えない抗争や差別、あるいは日常に散らばる些細な諍いなど、私たちの社会を取り巻く“すれ違い”は挙げ出せばきりがない。そうした現状を、自らがたったいま体験している事象として迫真の温度感で伝え、しかしそれこそが普遍的な課題へと我々を導いていく。『One Young World』の理念に触発され、表現者=AIの力量が一気に振り切れた孤高たるリリック、と言い切ってもいいだろう。
もっとも、これだけの説得力を備えているのは、AIが常に制作へと注ぎ込んでいるポジティブな思想によるところが大きいはず。代表曲である「Story」や「ハピネス」にしても、楽曲の根源には他者の苦悩に寄り添う気持ち、そして個性を謳歌する精神がはっきりと息づいているし、「Listen 2 Da Music」(『2004 A.I.』収録)や「MUSIC」(アルバム『What’s goin’ on A.I.』収録)といった直球タイトルの楽曲も存在する通り、音楽が持つ底知れぬエネルギーの可能性についても幾度となく訴えてきた。間に合わせではなく、以前よりずっと大切に育んできた姿勢だからこそ、どんな平易なワードにも、人々を素直にさせ真っ向から勇気づけるだけの力を込めることができるのだ。
また、これは『One Young World Japan』のオフィシャルアーティストに抜擢された理由にも直結していくだろうが、相手が誰であろうと気さくで飾らないAIの人柄も、世界中を笑顔にしていくことを嘱望されたリーダーとしてやはりふさわしい。私は過去に一度、彼女と対面して取材を行ったことがあるのだが、本当にテレビで観たままの晴れやかな姿がそこにはあって、あまりのギャップのなさに内心驚いたのを憶えている。
そんなAIが、グローバルな意思表示を高らかに掲げた「Not So Different」。2021年に開催予定の東京オリンピック、2022年の『One Young World Japan』、さらにはSDGs(持続可能な開発⽬標)の達成が期待される2030年と、世界が隔たりなく一つになれる未来へ向けて、彼女のメッセージはいっそうの輝きを伴ってあまねく人々を奮い立たせていくに違いない。
■白原ケンイチ
日本のR&B作品をはじめ、新旧問わず良質な歌ものが大好物の音楽ライター。当該ジャンルを取り上げるサイトの運営、コンピレーションCDのプロデュース、イベント主催の経験などを経て、現在はささやかに音楽ライフを満喫する日々。Twitter
■楽曲情報
AI「Not So Different」
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