映画の「Go Toイベント」の行方は? 感染再拡大が映画興行に及ぼす影響
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先週末の動員ランキングは、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が土日2日間で動員71万2000人、興収10億500万円をあげて7週連続で1位に。累計の動員は2053万人、興収は275億円を突破した。各メディアは『タイタニック』を抜いて歴代2位となったこと、そして年内にも『千と千尋の神隠し』を超えて歴代1位になるかどうかについて盛んに報じているが、自分の関心はもはやそこにはない。きっと年内に歴代1位になるだろうし、最終的には興収400億円近くまでいくことだろう。
自分が関心があるのは、次のメガヒット作品になるに違いない2021年1月23日公開の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』、そして昨日正式に新しい公開日が2021年4月16日になると発表された『名探偵コナン 緋色の弾丸』、来年以降も配信への軸足移行が続くであろうハリウッド映画の状況などと合わせて、日本の興行界そのものに今後もたらされるであろう大きな構造変化についてだが、それについてはあまりに大きなテーマなので機会を改めたい。
今週触れておきたいのは、コロナウイルスの感染再拡大を受けて再び論争の的となっている「Go To」キャンペーンについてだ。メディアは「Go Toトラベル」の是非ばかりを取り上げているが、政府主導の「Go To」キャンペーンには、国土交通省所管の「Go Toトラベル」、農林水産省所管の「Go To Eat」、商店街振興の「Go To商店街」と並んで、経済産業省所管の「Go Toイベント」がある。消費者側の具体的なメリットとしては、「割引価格でのチケットの購入またはクーポンの取得の支援」とされている「Go Toイベント」。当初、経産相はその運用時期を「10月中旬以降」としていたが、「イベント」の中に当然含まれている「映画」関連の具体的なキャンペーン内容、及びその時期については、未だ正式な発表がない。
国内の感染状況を睨みつつ、開始時期をうかがっていたに違いない映画の「Go Toイベント」キャンペーン。映画がコンサートや演劇などと違うのは、チケットの購入から実際に観客として劇場に足を運ぶまでの期間が極端に短いこと。それだけに、慎重な運用が求められていたわけだが、12月に入ってからもキャンペーンがスタートする気配はない。現在の感染拡大をふまえれば当然のことだろう。
現在の興行概況といえば、『鬼滅の刃』の独り勝ちを横目に、日本映画の特に実写作品にはめぼしいヒット作が見当たらず、今後もしばらく期待できる作品は少ない。12月18日公開の『ワンダーウーマン1984』以外、ハリウッドの大作映画の新作の配給も止まったままだ。実際のところ、仮にこの時期に映画の「Go Toイベント」キャンペーンが開始されていたとしても、感染拡大どこ吹く風で数字を積み上げている『鬼滅の刃』にさらに多くの客が押し寄せるばかりで、映画業界全体への効果は限定的だったのではないか。また、もし見切り発車でキャンペーンが始まっていたら、現在の「Go Toトラベル」のように批判に晒されて、映画業界全体のイメージダウンとなっていたかもしれない。
そう考えると、感染再拡大によって映画の「Go Toイベント」が先送りになってしまったことに、そこまで悲観的になる必要はないのかもしれない。重要なのは、今年公開延期となってしまったいくつもの新作が無事公開されて、外国映画の配給も平常におこなわれるようになった時期、つまり、映画館がその本来の多様性を取り戻した時まで、キャンペーンが続いていることなのではないだろうか。
■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter