乃木坂46、SixTONES……アイドルグループにも広がるアニメーションMV 新たな試みで幅広い認知のきっかけに
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乃木坂46やSixTONESなど、アイドルユニットがアニメーションMVを公開するケースが増えている。ビジュアル面が重要視されるイメージの強いアイドルが、ビジュアルを出さないアニメMVを制作する意図と、そこから期待される効果にはどのようなものがあるのだろうか。
アニメMVを公開し、話題になったものとしてまず浮かぶのは、SixTONESの「うやむや」だ。1stアルバム『1ST』の通常盤に収録されたこの曲は、ボカロ曲を意識したメロディ&リリックの構成と、イラストレーションにダイスケリチャード、動画制作にえむめろを起用した全編アニメーションのMVで、動画が公開されるや否や大きな話題を生んだ。前知識なくこの曲に触れて、後からSixTONESの楽曲と知って驚いた人は多いのではないだろうか。
ダイスケリチャード、えむめろともにこれまでも三月のパンタシアなどネット発の音楽の一端に携わってきたクリエイター。音の作りから見ても動画の制作陣から見ても、「アイドル色」を意識的に抑え、トレンドのボカロ系譜を踏襲しているのが見てとれる1曲だ。
アニメーションMVと一口に言ってもいくつかタイプがあり、「うやむや」のようなイラストを組み合わせたファッション性の高い映像もあれば、キャラクターが際立つストーリー仕立てのものも多い。
1月27日にリリースされた乃木坂46の「僕は僕を好きになる」は、周りになじめず孤独を感じていた主人公が自分を好きになっていくまでの心の移り変わりを描いた楽曲。1月29日に公開された同曲のアニメverのMVは、部活で浮いてしまった主人公が、仲間に手を差し伸べられて居場所を取り戻すというストーリーになっている。
そのストーリー、絵コンテ、原画を担当したのが大童澄瞳だと言えば、アニメファンはピンとくるのではないだろうか。大童はメンバーの齋藤飛鳥、梅澤美波、山下美月が実写映画の主演を務めた原作アニメ『映像研に手を出すな!』の監督だ。
「アイドルのアニメMV」として先んじたものとして触れておきたいのが、2019年にリリースされたJuice=Juiceの『「ひとりで生きられそう」って それってねえ、褒めているの?』、通称「ひとそれ」だ。
自立した女性としての強さを持つ反面、〈「ひとりで生きられそう」〉、〈「頼りにしてるよ」〉と言われ、弱さを押し込められる苦しさを歌にしたこの曲はJuice=Juiceの楽曲の中でも評価が高い。アニメーションのリリックビデオは、街中や部屋の中で1人物思いにふける女性キャラクターにフォーカスしたつくりになっている。映像を制作したのは、『君の名は。』『おそ松さん』、『天気の子』など数多くのアニメ作品の予告編を手がけた制作は10GAUGEの依田伸隆だ。
主人公の孤独と再生を歌う「僕は僕を好きになる」や、自立した女性が内面に抱える弱さを描いた「ひとそれ」などのメッセージ性の強い曲は、ストーリー仕立てのアニメMVと組み合わさることでそのメッセージをより明確にすることができる。また、MVの中で曲とは別の世界が展開されていくため、曲を聴くこと、ストーリーを追うこと、その二つを重ね合わせて考察することなど複数の楽しみも生まれ、動画の繰り返しの再生につながる効果もある。
アイドルのビジュアルやダンスを活かした通常のMVは、ファンが確実に視聴する手堅いコンテンツであると同時に、アイドルファン以外からは敬遠されやすい側面もある。アニメMVは本人たちの姿を出さないことによって、これまで手が届かなかった層にリーチする可能性を持つ新たな選択肢だ。事実、「うやむや」の動画コメント欄にはSixTONESと知らずに視聴したという意見が多数見受けられるし、『映像研に手を出すな!』の大童監督がMVを手がけたと知れば、それだけで「僕は僕を好きになる」に関心を持つアニメファンは多いだろう。
アイドルジャンルに限った話ではなく、自分の推している存在について、入り口はどうあれより多くの人に認知され、広まってほしいというのはファンの共通の思いだろう。特に、ビジュアルメインと思われがちなアイドルは、彼らの見た目だけでなくパフォーマンス力や曲自体の魅力を知ってほしいと願うファンも多いのではないだろうか。
メンバーのビジュアルやダンスパフォーマンスに頼らないアニメMVは、曲自体のクオリティや歌唱力がより問われる選択肢でもある。ハロプロの中でも歌唱力に定評のあるJuice=Juiceや、アルバム『1ST』の中でヒップホップ、R&B、EDMなど様々なジャンルの楽曲をこなしたSixTONESが一足先にアニメMVに挑戦したのは納得と言えるかもしれない。
もはや、アイドルが「アイドル曲」だけを歌っている時代ではない。アイドルに関心のなかった人も、メロディや映像に惹かれて視聴した曲を思いがけずアイドルが歌っていた、ということも今後珍しくなくなってくるはずだ。視聴者の側も、アイドルの側も、アニメMVという手段を通じて今までになかった出会いを果たす機会が増えていくだろう。
■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。満島エリオ Twitter(@erio0129)