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THE YELLOW MONKEY『30th Anniversary LIVE』に至る軌跡 バンドがコロナ禍で直面した葛藤と決断を追う

音楽

ニュース

リアルサウンド

 2020年11月3日から12月28日にかけて開催された『THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary LIVE』に関して、リアルサウンドではこれまで3本の記事を掲載してきた。

THE YELLOW MONKEY、新規4公演ライブは挑戦的なステージに? 各会場に込められたバックストーリーを紐解く
THE YELLOW MONKEYがライブを通して繋ぐエンタメの未来 厳戒態勢で行われた東京ドーム&横浜アリーナ公演を見て
・THE YELLOW MONKEY、コロナ禍で30周年記念ライブを開催した意義 『Live Loud』に刻まれた時代の空気感を読み解く

 これらの記事で4本のライブに関する期待や、その後のレポートについて触れてきたが、今回はその番外編として『THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary DOME TOUR』東京ドーム2DAYS公演が延期/中止に至るまでと、新たに『THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary LIVE』開催が決まるまでの裏側に迫った番外編をお送りする。

 正直な話、昨年6月30日に『THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary LIVE』開催が正式発表されるまでの道のりは非常に険しいものだった。情報解禁時、アリーナやドーム会場でのライブ開催に対して一部から批判の声も上がった。しかし、この4公演開催は東京ドーム2DAYS公演の振替開催に向けて、いろんな偶然が重なり実現したもの。改めてここまでの流れを、時系列に沿って説明していきたい。

 まず、話は『THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary DOME TOUR』の2公演目、昨年2月11日の京セラドーム大阪公演までさかのぼる。前年末12月28日のナゴヤドーム公演とこの大阪公演の手応えは、バンドやスタッフにとって非常に大きなものだった。4月4日、5日に控える東京ドーム2DAYS含め、全4公演異なるセットリストを予定していたこのツアーは、THE YELLOW MONKEYらしいひねくれ具合とキャッチーさの入り混じったセットリストと、ドーム会場ならではのエンタテインメント性に満ちた内容で、バンド誕生30周年を祝すのに最適なものだったと言える。

 昨年1月下旬から横浜港に到着したクルーズ船内でのパンデミックが連日報道されていたが、大阪公演の頃はまだ我々の日常生活を脅かすほど深刻な状況ではなかったと記憶する。少なくとも、ライブが中止/延期になるような事態ではなく、吉井和哉(Vo)もMCでマスクをした観客が普段より多く見受けられると触れる程度だった。音楽ファンがコロナの影響を強く感じたのは、おそらく2月26日のPerfume東京ドーム公演とEXILE京セラドーム大阪公演の中止発表からではないだろうか。THE YELLOW MONKEYサイドもこの頃に初めて中止/延期について、現実的に話し始めたという。

 株式会社TYMS PROJECTの青木しん氏は当時を振り返り、「そこからの1カ月、リハーサルを続けつつメンバーといろいろ話し合いました。その段階では4月を逃せば、プロ野球が始まるので振替日程も出てこない。なので、延期という選択肢はなく、4月4日、5日にライブを行うか、もしくは中止にするかという二択でした」と語る。そして3月27日、東京ドーム2DAYS公演の延期が正式に発表。開催の約1週間前のことだった。ここにもバンド側が状況を見極めつつ、開催に向けギリギリまで調整していた苦労が伺える。

 メンバーに4月4日、5日の開催断念が伝えられる直前には、同年夏に予定されていた東京オリンピックおよびパラリンピックの開催延期もアナウンスされた。青木氏は「4日、5日は諦めましょう」と伝える際、オリンピックが延期されたことで首都圏のライブ会場に空きが出るのではと予測し、「中止ではなく延期の可能性が生まれた」こともメンバーに告げている。「6月、7月ぐらいに振替日が出てくるというわずかな希望が生まれた。その可能性に賭けたいと思う」という言葉に、メンバーからは「振替の可能性ができたのがうれしい」「振替公演ができるならやりたい。頑張ろう!」と前向きな返事が戻ってきた。

 しかし、振替公演はなかなか決定しなかった。実際に6月、7月の日程も決まりかけていたが、情勢的に現実的ではないため見送ることに。以降も8月、9月の日程が上がってくるものの、本当に観客を入れてライブができるのか、甚だ疑問だった。と同時に、世の中では無観客会場でのオンラインライブという手法が少しずつ増え始める。4月から6月にかけて、バンドとスタッフの間では業界内のいろんな話を含めさまざまな可能性について話し合いの場が持たれたが、いつまで経っても振替公演は現実のものとはならなかった。

 そんなこう着状態から、物事が一気に動き始めたのが6月下旬のミーティングでのことだった。ここで初めて11月3日に東京ドームで開催できる可能性がメンバーに告げられる。本来は2DAYS公演だったものが日程調整できず1DAYS公演になること、有観客の場合は収容人数の制限があること、換気の問題もあり公演時間に制限が生じるかもしれないこと、会場にいる全員がフェイスガードをつけなければいけない可能性、そして最悪無観客での実施もあり得ること……これらを素直にメンバーにぶつける。メンバーからは「1日2回まわし(2公演実施)はできないか?」という、4月公演のチケットをすでに手にしているファンのことを考慮した案も出たが、東京ドームでは現実的に難しい。その結果、当初の東京ドーム2公演延期を中止/払い戻しとし、11月の東京ドーム1公演を新規公演として行うことを決断する。

 話はこれだけで終わらない。90年代から現在に至るまでTHE YELLOW MONKEYのライブを手がけるソーゴー東京が、11月から12月にかけて空きのある3会場をバンドスタッフ側に提示。それが11月7日の横浜アリーナ、12月7日の国立代々木競技場第一体育館、12月28日の日本武道館だった。半年先にコロナが収束しているのか、まったく見通しが立たない中でのアリーナ/ドーム4公演など、とてもじゃないが「ありえない話」だった。しかし、メンバーから「1日2回まわしはできないか?」と提案された際、青木氏はその意気込みに感化され、「こういう可能性もありますよ?」と東京ドームを含む4公演のスケジュールを並べた用紙を手渡す。メンバーがこれを目にしたとき、「東京ドーム公演が1日になってしまう」落胆よりも「4公演もできる!」というポジティブさが優ったという。こうしてミーティングから数日後の6月30日、THE YELLOW MONKEYは公式サイトで「4月4日、5日の東京ドーム公演チケットの払い戻し」と「新規4公演からなる『THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary LIVE』開催」を同時アナウンスする。

 先にも述べたように、6月30日のアナウンス時点では「現時点では0%から100%の間のキャパシティ設定」ということで、無観客によるライブ配信も想定していた。しかし、7月に入ると音楽コンサートなどイベントの人数制限が上限5000人までに緩和され、実際8月には和楽器バンドが横浜アリーナでコロナ禍初のアリーナ有観客ライブを開催し、バンド/スタッフ/観客/関係者の新規感染者がゼロだったことが報告されている。

 そして11月のライブ開催を前に、バンド側から特別なプレゼントも用意された。これが2019年12月28日のナゴヤドーム公演の映像をストリーミング配信するというものだった。もともと同ライブは商業用として表に出す予定はなかった(※のちに、2021年3月10日発売の映像作品『30th Anniversary THE YELLOW MONKEY SUPER DOME TOUR BOX』に収録されることを発表)。しかし、改めて映像を見返すとその演奏、内容の完成度が非常に高く、青木氏も「個人的には30年に1度のライブだった」と太鼓判を押すほど。4月の東京ドーム公演が延期になったこともあり、「何らかの形で世に出したい」という思いが芽生える。そこに、昨今ライブ配信が定着し始めたこともあり、9月5日に全曲ノーカット配信を決断。筆者も9月5日の20時からスタートしたこの配信をリアルタイムで鑑賞したが、改めてTHE YELLOW MONKEYのライブバンドとしての地力の高さ、エンターテイナーとしての才能豊かさを再確認し、モニターの前で普段以上に興奮してしまった。それはほかの視聴者も同様で、「早く生で観たい!」という声がSNSを通じて多数散見された。

 こういったさまざまな偶然が重なり実現した『THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary LIVE』の4公演。東京ドーム公演をはじめ、すべての公演において来場者や出演者、関係者、舞台スタッフ、運営スタッフの新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)での陽性者確認、およびクラスター発生などの報告が一切なかったことが今年1月12日、正式にアナウンスされている。

 青木氏に話を伺ったのは昨年9月下旬のことで、その時点でも無事に有観客でドーム公演が完遂できるのか、正直不安だった。青木氏自身もこの時点で「6月の段階で開催を決めた時点では、僕もいろんな配信ライブを見られていたわけではなかったし、その反響も感じられている段階ではなかったので、無観客でライブをするという感覚、しかもドームでそれやるという感覚が想像できなくて」と、無観客開催もゼロではないことを示唆している。しかし、「メンバーとしても初めてでしょうから、その意識がどういうものになるのかわかりませんが、ステージに立ってしまえば一緒かもしれませんし、お客さんが半分だろうが一緒かもしれませんし。いい意味で、僕はそれ以前と一緒なんじゃないかなと思っています」という言葉どおり、我々が各会場で、そしてテレビでの生中継やネット配信を通じて目にしたTHE YELLOW MONKEYのパフォーマンスは、ある意味では“それ以前と一緒”だった。ライブに臨む準備や参加する際の環境こそ大きく変わってしまったが、THE YELLOW MONKEYはTHE YELLOW MONKEYのまま。それは現在発売中のライブアルバム『Live Loud』や、まもなくリリースされる映像作品『30th Anniversary THE YELLOW MONKEY SUPER DOME TOUR BOX』での東京ドーム公演からも十分に伝わるはずだ。

 2021年に入っても、コロナを取り巻く環境は日々変化を続けている。THE YELLOW MONKEYのみならず、さまざまなアーティストが現実と直面しながら、それぞれの形でライブの開催/中止/延期/配信などを決めている。THE YELLOW MONKEYやそのスタッフが選択したこの答えがすべてのアーティストに当てはまるわけではないが、開催されるまでにはいくつもの決断があったことを忘れてはならない。

■西廣智一(にしびろともかず)Twitter(@tomikyu)
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

THE YELLOW MONKEY –「球根」Live at 2020.11.03 東京ドーム

THE YELLOW MONKEY 特設サイト
THE YELLOW MONKEY 公式サイト