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「やってみたい事がたくさんある」 『ハチミツとクローバー』はぐみ、クリエイターに刺さる言葉たち

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リアルサウンド

 羽海野チカ作『ハチミツとクローバー』。美術大学を舞台とした青春群像劇で、恋愛に悩んだり、才能や生き方に迷う大学生の姿をリアルに時に生々しく描いている。

 宝島社の『このマンガがすごい!』2006年版と2007年版においてオンナ編で2年連続の1位を獲得しており、アニメ化のほか、実写映画化、ドラマ化もされた。

 それぞれの片想いの行方も気になるが、物語の中心となるのは芸術的才能にあふれる花本はぐみの存在だ。その存在は、周りに刺激を与えるだけでなく、時に「自分には才能がない」と人に思わせることもある。真剣に芸術にぶつかり、悩み生きていく若者たちの姿は、クリエイターたちにも刺激を与える。

 今回はそんなはぐみの発言からクリエイターに刺さる名言を紹介する。

「やってみたい事がたくさんある」第9巻

やってみたいことがたくさんある。
創ってみたいものが果てしなく散らばっている。
新しい箱を開くたびにたくさんの「?」が飛び出してくる

 大学4年生となり、進路について考えるようになったはぐみ。田舎に戻って自分が食べていけるだけを自分の芸術品で稼いで生きていこう、と考えていた。

 しかし、はぐみは芸術に対しての欲求と探究心が強く、もっともっと新しいことに挑戦したい、新しいものに触れたい、知りたい、と思っていた。

 世界中にある箱を全て開けてみたい。でもそれには人ひとりの人生はあまりに短すぎる。

 どんなジャンルでも、「全てを知る」ことは難しい。例えば6畳の部屋にある箱を全て開け、中身を確認して、あるべきところに戻す。それだけでも、膨大な時間がかかることは想像に難くない。それが、芸術の域だとしたら――。

 はぐみの芸術家としての貪欲なまでの探究心がわかるだけでなく、自分の世界を広げるには“ひとりでは難しい”ということが分かるセリフだ。

「『あきらめる』ってどうやればいいんだろう」第2巻

「あきらめる」ってどうやればいいんだろう。
「あきらめる」って決めてその通りに行動するコトだろうか。
そのアトの選択を全て「だってあきらめたんだから」で自分の本当の心から逆へ逆へと行けばいいんだろうか

 これははぐみの友人である山田あゆみが片想いの相手・真山巧への想いを断ち切ろうと思い悩んでいるときのモノローグだ。

 恋愛面においてのセリフだが、時としてクリエイターも、その道を諦めたほうがいいんじゃないかと悩むときがあるのではないだろうか。自分では無理だ、成し遂げることができない。自分の夢を諦めるときは、恋を諦めるときに少し似ている。手が届かない、振り向いてくれない夢を追い続けるのは辛い。でも諦めるのもまた辛いのだ。

 自分の心が望む方向とは逆方向に進む。それはあまりにも悲しい。結局は自分の心のままに進むしかない。そんなことを教えてくれている気がする。

「どうしてこの世は『持つ者』と『持たざる者』に分かれるのか」(第9巻)

 全10巻からなる『ハチミツとクローバー』。終盤は芸術に携わる人たちのさまざまな心の叫びが聞こえてくるようだ。

 あらゆる芸術の才能を持つ森田忍。ちょっと風変わりだけど彼の父もまた才能にあふれた人だった。一方で、忍の兄・カオルと、父の幼なじみで親友の根岸は「持たざる者」。忍を見る誇らしげな父の視線。父は息子たちを同じように愛していたけれど、忍のことはその才能の分も愛していたのかもしれない。

 持っている者は気がつかないけれど、持っていない者はその「差」に敏感だ。自信のなさが、その差をいっそう際立たせる。気のせいかも知れないことまで勘ぐってしまう。

 しかし、持つ者というのは本当に存在するのだろうか。持つ者もまた、別の誰かを見て自分が「持たざる者だ」と感じているかもしれない。ただ、それに気がつくには心の余裕が必要だ。

生きるのも、創ることも、辛く楽しい

 創造しなくても人は生きていけるだろうか。中には息をするように創作物を生み出す人もいる。しかし、クリエイターというのは芸術の分野だけではなく、さまざまな領域に存在する。テクノロジー、会話、家族……人は、生きていれば、常に何かしらを創りだすとも言える。

 苦しく、辛いこともある。ただ、何かを生み出すときには喜びもある。はぐみのセリフはは、そんな“クリエイター”の誰もが経験する生みの苦しみを叫んでいるからこそ、人々の胸を打つのかもしれない。

(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))

■書籍情報

『ハチミツとクローバー』全10巻完結(クイーンズコミックス)
著者: 羽海野チカ
出版社:集英社