私の好きなポップカルチャー Vol.1 たんぽぽ白鳥が綴る「ステージ」
ステージ
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「私の好きなポップカルチャー」
日頃は表舞台に立っている芸人たちも、何かを好きになる気持ちは私たちと一緒! テレビで観たコントの世界に没頭したり、あのマンガの主人公から自分の信念を曲げない強さを学んだり、スクリーンの中にいる俳優の佇まいに魂を震わせたり……。こんなふうにさまざまなカルチャーに触れて人生を豊かにしてきたはずだ。
この「私の好きなポップカルチャー」では、お笑い界のポップカルチャー好き5名を書き手に迎え、音楽、コミック、お笑い、映画、ステージというナタリーで展開する5ジャンルのいずれかにまつわる思いを綴ってもらった。第1回に登場するたんぽぽ白鳥は「ステージ」のジャンルから「宝塚歌劇団」をテーマに執筆。一瞬で取り憑かれたというその魔力とは?
文 / 白鳥久美子
※このコラムは2021年1月30日~31日に開催したオンラインイベント「マツリー」の一環として掲載したものです。
宝塚に魅せられて
初めて宝塚を観たのは高校3年生の時でした。実家でBSが観られるようになって、弟とテレビ欄を舐め回すように確認していたところ、NHKで宝塚が放送されているのを発見。「宝塚って、あのすごいメイクで男を演じるあれぇ!?」。バカにした態度。笑ってやろうという下心。そんな気持ちをもってして、私と弟は宝塚を初観劇するのです。
その舞台は、真琴つばささんが男役トップ、檀れいさんが娘役トップ時代の月組公演でした。意地の悪い好奇心から、はじめこそクスクス笑っていた私と弟でしたが、次第に無言に。かっこいいのです。その立ち振る舞い、ダンスが。美しいのです。娘役の微笑み、身のこなしが。そしてラストの羽根を背負った大階段では「真琴さまー!!」と黄色い歓声をあげるまでに宝塚の魅力、いえ、魔力に取り憑かれていました。ちなみに名前を呼びたい時は、真琴さんのことは愛称の「まみさーん!!」と呼ぶのが相応しいことを後に知ります。宝塚ジェンヌには芸名の他に、親しみを込めてその名を呼ぶ愛称があるのです。
そもそも私は少女マンガ好きです。「ベルサイユのばら」「はいからさんが通る」「ガラスの仮面」「ユニコーンの恋人」今でも私のバイブルです。そのマンガに出てくるような美男子が、王子様が、現実に生身の身体を持ってそこに立っているのです。それはそれは鼻血ブーです。2.5次元舞台の元祖は宝塚と言っても過言ではありません。触れられそうで触れられない、現実に最も近い夢です。そんな乙女の夢が宝塚の舞台には詰まっています。きらびやかな衣装、豪華なセット、洗練された高いレベルの歌とダンス。そして厳しい入試を突破し、日々のレッスンで鍛え上げられた美しい宝塚ジェンヌたち。「選び抜かれた、磨きあげられた」というところも私の乙女心を鷲掴みにするポイントです。なんなら、私も選び抜かれて磨きあげられたい。宝塚ジェンヌのように美しくありたい。そんな想いが高まりすぎて、「宝塚歌劇団 土組(つちぐみ)男役トップスターの磐梯光(ばんだい ひかる)」という設定を私は自分に設けています。磐梯は私の地元を代表する「磐梯山」から取りました。彼女たちのようにはなれなくても、イズムだけはこの身体に宿していたいという、どうかしちゃってる想いからです。
さて、そんな初めての出会いがあって、大学入学と同時に上京すると、バイト代をはたいて宝塚に足繁く通う日々が始まりました。大学で同じく宝塚好きの友達と出会い、その子に宝塚のマナーを教えてもらいながら入り待ちや出待ちをしたり、お手紙をしたためる日々。真琴つばささんを「まみさん」と呼ぶのも、その子に教えてもらいました。
私が真琴つばささんの作品で好きなのが「LUNA-月の伝言-」という作品です。舞台はイングランドの巨大遺跡「ストーン・パレス」。真琴さん演じるロックスターにひょんなことから古代人の遺伝子が体内に入り込み、騒動が巻き起こるミュージカルファンタジーです。真琴さんの一人二役の妙も楽しめます。宝塚はおもしろアドリブシーンもあって楽しいのですよ。「LUNA」では銀橋を使ったシーンで、客いじりがあって、「私もいじられたい!」と強く願ったものです。銀橋とはオーケストラと客席の間にある通路のような舞台のことで、仮に最前列の席が取れた日にゃ、銀橋に立つトップスターさんとの距離が近すぎて、そのオーラを滝行のように浴びられることから、ある種の訓練が必要です(例:あえて見つめ過ぎない、など)。真琴さんが退団されて以降、宝塚から遠のいていた時代もあるのですが、ここ数年また観劇するようになりました。相変わらず月組が好きです。同じ宝塚ファンの若い子に「だれだれさんが若手の頃、舞台で観てたよ」なんて話をすると羨望の眼差しを向けられるようにもなりました。宝塚はこうして何世代も繋がって、世代を超えて楽しんでいけるんだなと、改めて実感している今日この頃です。
少し現実に疲れた時、世界の全てを信じられていた少女時代を思い出したい時、私は宝塚を観に行きます。そして「ああ、キレイ。ああ、優しい」と、なにかしらルンルンとしたものを片手に、家に帰るのです。
白鳥久美子(シラトリクミコ)
1981年12月11日生まれ。福島県出身。2008年10月に川村エミコとたんぽぽを結成した。2010年10月から2018年3月まで「めちゃ×2イケてるッ!」(フジテレビ系)にレギュラー出演し、ほかにも多数のバラエティ番組やドラマで活躍中。2019年4月には、たんぽぽの冠ラジオ番組「たんぽぽの綿毛time♪」(岐阜放送、ラジオ大阪 ほか)がスタートした。