杉咲花がボロボロと涙を流す 『おちょやん』一平の幼い心が生み出した母親の幻想
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母親の夕(板谷由夏)を探す一平(成田凌)と千代(杉咲花)は、カフェーキネマに協力してもらうことに。すると居合わせた客からの情報で、一平は思いの外あっさりと、夕の居場所を突き止める。『おちょやん』(NHK総合)第63話では、一平が夕との再会に感激するのも束の間、そこには思わぬ真実が待ち受けていたのであった。
千代と一平は、夕凪という旅館で夕と再会を果たすが、その態度はどこか冷たい。用がないのならさっさと帰れと言わんばかりの夕に、千代は頭を下げて食い下がるのだった。そこでようやく、一平は子供の頃から胸に抱いてきた母への思いを打ち明ける。
「ほんまに堪忍。お母ちゃんのこと、守ってあげられなかった」と、幼少期に父・天海(茂山宗彦)に捨てられた夕に自分が何もできなかったことを詫びる。そんな一平に夕が語った真実は余りに残酷なもの。夕は追い出されたのではなく、自身が外に男を作って出て行ったのだ。ここで一平は、見捨ててしまったのは自分の方ではなく、自分が夕から見捨てられたと知ってしまう。
「嘘や! 俺の覚えてるお母ちゃんは、そんな……」とすがる一平に、夕は「あんただって、ほんまは分かってたんやろ、よく思い出してみな!」と吐き捨てる。この言葉が引き金となって一平は蓋をしていた幼い頃の記憶、母に捨てられた自分の姿を思い出し呆然自失に。
手切れ金を一平に渡し、再度縁を切ろうとする夕に、千代はボロボロと涙を流し「何で……ほんまのお母ちゃんの……くせに!」と言葉にならない言葉を発しながら必死に掴みかかる。だが取っ組み合いになる千代と夕を尻目に、一平は笑い転げる。「人って思い出したくないことは都合よく忘れるもんなんだな」と自嘲気味に千代に言うと、「どうかお幸せに」と言い残して夕の元を去るのであった。
誰よりも“母親”の存在に希望を見出してきた千代は、一平以上に夕の話す真実や態度に腹を立て号泣する。千代にとって、一平が母親と幸せな再会をすることは自身への“希望”でもあった。千代と一平が“母親”に託していた希望とは、母親はいつ何時でも子供を愛しく思い、再会を喜んでくれるというもの。
そして一平は芝居の中で「母親の無性の愛情」を描きたいと語っていたほど、その母の愛を信じていた。だがそれは幼少期に母に捨てられたことを受け止められない一平の小さな心が生み出した幻想だったのかもしれない。
夕の居場所を教えてしまった千之助(星田英利)は約束を破ってしまったと亡き天海に語りかける。「母親の無性の愛」を描きたいと言う一平を一蹴したことも、母親の居場所を秘密にしてきたことも、実は全ての事情を知っていた千之助の不器用な愛だったのだろう。
一平はこの苦しみを抱え、さらに酸いも甘いも噛み分けた役者になることができるのか。期待から苦しみへの転落を演じた成田凌の芝居に、朝から涙を誘われた。
■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter
■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/