『俺の家の話』第6話が爆笑を巻き起こした理由 多幸感あふれた“潤 沢”のパフォーマンス
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笑った笑った。今年に入って一番、笑った。『俺の家の話』(TBS系)の第6話で、突然出てきた歌謡グループ「潤 沢」のパフォーマンスに。正確には「潤 沢」とはリーダーのたかっし(阿部サダヲ)をはじめとするプロの歌手4人組なのだが、他の3人がスパリゾートハワイアンズでのステージに間に合わなくなり、寿一(長瀬智也)、寿限無(桐谷健太)、踊介(永山絢斗)の3兄弟がその代わりを務めることに。彼らが歌い踊ったのは「潤 沢」の新曲「秘すれば花」。それがたまたま能の大成者・世阿弥の言葉だったために、能楽師一家の寿一たちは運命的なものを感じ、伝統芸能から大衆芸能へ、一回限りのゲスト出演を果たした。
最初に聞いたときは、なぜ歌詞に「ドライブレコーダー気をつけて」という言葉が入っているのか分からなかったのだが、「秘すれば花」というタイトルだから不倫の歌だったのだ。実際にドライブレコーダーの録画で車内不倫がバレた俳優、いましたよね……。「不適切、私の承認要求、こんなマスクじゃ隠せない」という時事ワードを盛り込んだ歌詞も、言葉にこだわる脚本家・宮藤官九郎らしさ全開。宮藤と阿部らが結成した「グループ魂」のライブを観たことがある人ならおなじみのコミックバンドのノリだ。ただ、「グループ魂」のメンバーはもともとコメディリリーフの人たちなので、面白い歌を歌っても当然という感じがするのだが、長瀬智也、桐谷健太、永山絢斗という、いくらでもかっこつけられるイケメン俳優たちがそろっておバカをやったので、そのギャップにみんなやられてしまったのではないだろうか。寿一の妹・舞(江口のりこ)のセリフにもあったように「なに、この多幸感」という不思議な気持ちが、このパフォーマンスを観た人の間に広がっていた。
「潤 沢」は「覚えやすい振り付けで人気」ということで、宮藤の妻でもある八反田リコが振り付けした「ハナハナハナ」「フネフネフネ」などの振りは幼稚園のお遊戯並みにわかりやすく、「不適切」を「FU・TE・KI・SETSU!」とメンバーがひとりずつポーズを決めていくところも無駄にかっこよくて、つい真似したくなる。それは本家本元の「純烈」もそうだったようで、放送のわずか3日後には、『純烈が潤 沢の「秘すれば花」を歌ってみた』という動画をアップした。メンバーの酒井一圭が語るには、ドラマを観て「やりたくなって」レコード会社とTBSに交渉し実現したとのこと。わかり味が深い。その酒井が長瀬の顔真似をしていたのにも笑った。
この回はとにかく「潤 沢」が全部持っていってしまった感もあるが、改めてストーリー展開を振り返ると、前半の完結エピソードとなっていた。スパリゾートハワイアンズ行きは、25年ぶりに実家に戻り父・寿三郎(西田敏行)をはじめとする家族との関係を修復しようとしていた寿一にとって念願の家族旅行。だが、寿三郎は医師から余命宣告され、残された時間が少ない。その焦りから、いわき市のスパリゾートハワイアンズに到着するまでに柏や水戸に立ち寄り(なぜか常磐道沿いばかり)、これまで口説いた女性たちに会っては彼女たちを幸せにできなかったことを謝罪したのだが、女性たちはみな、他の男性を見つけてたくましく生きていた。イタリア語の通訳だったちはる(田中みな実)はオーガニック農家となって、夫と子供に恵まれ、芸者の豆千代(池津祥子)はスナックのママになり、夫は服役中で幸せではないとは言うが、離婚する気はなさそうだ。そして、寿一と結婚の約束までしたというまゆみ(紫吹淳)はいわきの旅館の女将(おかみ)として成功し、“たかっし”の熱狂的ファンになっていた。
TBSでの前作『監獄のお姫さま』でもそうだったが、宮藤官九郎は、世間では“おばさん”とひとくくりにされがちな中年女性の描き方が抜群にうまい。男性の陰に隠れて生きるけなげな女性ではない、でも、恋愛をあきらめたわけでもない。人生との折り合いをつけ、楽しめる部分は楽しんでいる。『監獄のお姫さま』のセリフにあったように「(おばさんだけど)みんな誰かの姫」なのだ。そんなリアルな女性像は、同性から見ても共感できる。それは、ヒロインのさくら(戸田恵梨香)についても同じで、第6話ではすっかり寿一に恋をしてしまったさくらが、スパリゾートハワイアンズまで追いかけてきて「“山賊抱っこ”をして」と寿一に迫る場面がおかしくも共感できた。時に、女性にとって恋愛で大切なのは、好きな相手本体というより、相手が提供してくれるシチュエーションだったりもする。
寿一は寿三郎のわがままに付き合い、極力その願いを叶えようとしていたが、フラれた寿三郎に八つ当たりされ、ついにブチ切れてしまう。プロレスラーだけにキレて暴れる姿も迫力があり、弟たちも寿一を止められない。寿一はそんな状態で、寿限無も寿三郎が実の父だと知って以来、笑顔を見せないでいたが、寿三郎がステージで熱唱した「マイ・ウェイ」が全てを帳消しにした。子供たちは父の堂々たる歌を聴いて感動し、5人の家族は一気に和解。ステージ上で家族の集合写真を撮って、家族旅行は最高の思い出となった。
ここでドラマが終われば、めでたしめでたしのハッピーエンドなのだが、3月5日放送の第7話からは第2章が始まり、物語はクライマックスに向かうようだ。予告動画をヒントに予想すると、寿一とさくらは男女として接近、寿一は息子の親権を争う調停で不利な立場となり、息子に能の稽古を続けさせるため元妻に土下座するはめに。そして、余命半年から1年と言われた寿三郎との別れも近づく!? 笑いに昇華された第6話から一転、3世代にわたる父と子の関係がフォーカスされていきそうだ。
■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。
■放送情報
金曜ドラマ『俺の家の話』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:長瀬智也、戸田恵梨香、永山絢斗、江口のりこ、井之脇海、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、羽村仁成(ジャニーズJr.)、荒川良々、三宅弘城、平岩紙、秋山竜次、桐谷健太、西田敏行
脚本:宮藤官九郎
演出:金子文紀、山室大輔、福田亮介
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未、佐藤敦司
編成:松本友香、高市廉
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS