藤井風らアーティストをより輝かせる時代を読む力 Yaffleが生み出す音楽の真髄
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ここ数年のトレンドとして挙げられるのが、かつてのヒットチャートを賑わせていたそれとは感触の異なる”オルタナティブなJ-POP”の存在。ヒップホップ、R&B、エレクトロニカといったクラブミュージックの要素から成り立つ洗練性を携えた作品群は、エモーショナルやチルなどの概念とも密接にリンクしながらボーダーレスな個性を輝かせている。そんなムーブメントと共鳴するようにメキメキと頭角を現しているのが、小袋成彬と共にTokyo Recordings(現:TOKA)の主宰を務めるYaffle(小島裕規)。深遠できめ細かく、何よりもセンセーショナルな彼のプロデュースワークは藤井風をはじめ多くの実力派に影響を与え、音楽シーンの発展になくてはならない独自のポジションを固めつつある。
Yaffleが生み出す音楽の真髄、それは時代を読む力である。Capesonなどを始めとするキャリア初期に関与したアーティストの作品からして、まさしくYaffleおよびTokyo Recordingsが目指した先駆的かつ高次元な制作の賜物だった。というのも当時は、フランク・オーシャンらのヒットでオルタナティブ、あるいはアンビエント的な質感への世界的関心が高まっていた一方、日本でそれを具現化するアーティストはまだまだ珍しかった。実験的な色合いは強かったにせよ、2014年~2015年の時点ですでにオルタナティブ・ポップスを自覚的に発信していた彼らの活動は、今日の潮流を紐解く上でも決してスルーできない事象であるように思う。
その後、Yaffleは2016年ごろを境に、Tokyo Recordings所属のアーティスト以外にもプロデュースの裾野を広げていく。特に、メジャーデビュー作収録の「rhythm」、シンセリッチなサウンドが眩しい「Only One」などで数多くタッグを交わしているiriは、YaffleのR&Bに対する感度の高さを確認できる重要アーティストの一人だ。ほかにも、Awesome City Clubの「Cold & Dry」(OBKRと共同)ではSuchmos以降のアーバンなバンド観にチャネルを合わせ、柴咲コウやadieu(上白石萌歌/Tokyo Recordings名義)の作品ではAORの要素を含んだセンシティブなポップスを構築するなど、Yaffleはアーティストそれぞれのカラーに合わせて作風をカメレオンさながらに変容させてきた。こうした特定の枠組みにとらわれない柔軟性もまた、Yaffleの音楽が関係者、ひいては多様なアプローチが交錯する現代のニーズともフィットする所以となっている。
2018年からは、海外アーティストとのセッションにより誕生した楽曲を自身名義でリリース。ドラムンベースをはじめ大胆な技巧に取り組みながら、やはりどれにも染まらないサウンドコンセプトを決め込んだ一連のプロジェクトで、Yaffleにしか醸し出せない孤高の雰囲気はさらに確固たるものになった。そんな中、満を持して迎えた大きなターニングポイント。言わずと知れた新世代シンガーソングライターの雄、藤井風との邂逅である。もともと、YouTubeに投稿していたピアノの弾き語りカバー動画がきっかけとなり人気に火が付いた藤井だが、「何なんw」を皮切りとしたオリジナル楽曲では、Yaffleをパートナーに迎えたことで豊かなサウンドバリエーションの提示に成功。
「キリがないから」のフューチャリスティックな音遣い、歌謡曲の渋さ引き立つ「罪の香り」、明暗を行き交うコード進行にトラップのリズムが乗る「死ぬのがいいわ」のシュールさ……藤井が持つ普遍的な感覚がYaffleオリジナルの先鋭的なプロダクトと結びつき、そのどれもが一級品のエンターテインメントとしてダイナミックに胸を打つ。代表曲として名高い「優しさ」については、Yaffleのアイデアにより2コーラスをばっさりとカットした結果「素敵な曲になった」と藤井本人がTwitterで発言。こうしたエピソードからも、気さくにアップデートし合える強い信頼関係にある両名の姿が見て取れるだろう。
そんな藤井とYaffleによる最新作が、テレビ朝日系ドラマ『にじいろカルテ』の主題歌に起用されている「旅路」。「青春病」や「帰ろう」の系譜にあたるノスタルジックなスロウナンバーで、Yaffleが藤井作品を通して追求してきた素朴なプロダクト、もとい引き算の美学がふんだんに味わえる癒しの珠玉作に仕上がっている。
藤井風と巻き起こした“追い風”によって、Yaffleの活動は今、文句なしの最盛期を迎えている。彼と同じく勢いを増すSIRUPは、「Synapse」以来となるコラボ作「Thinkin about us」を発表。近年のYaffleに顕著な温もり重視のアレンジによって、混沌とした時代ならではのメッセージソングは奥行きのあるドラマ性を伴って我々を優しく包み込む。また、ネオソウルのグルーヴをまとったDEAN FUJIOKAへの提供曲「Follow Me」も、ダンサブルなイメージの強い彼の新境地として力強く機能。シンプルな構造ゆえ、Yaffle発祥のグルーヴに心ゆくまで浸れる注目曲となっている。
1stシングル「Touch」、2ndシングル「Gravity」と立て続けにYaffleがプロデュースを担当しているのは、ガールズグループFAKYのメンバーとして知られるAKINA。ミステリアスな彼女の声質を生かしたオルタナティブの最先端とも言えるサウンドは、ワールドスタンダードを志すYaffleの強い気概さえうかがえる秀逸な仕上がり。今後は藤井風よろしく、Yaffleと二人三脚の体制でキャリアを積み上げていく可能性もあるので楽しみなところ。
将来有望なアーティストが台頭するたび、目まぐるしく移ろいを見せるJ-POP。他方、そこにはいつだって、Yaffleのような冷静に時代を見通すクリエイターがいることも忘れてはならない。あらゆるジャンルがクロスオーバーする今、Yaffleの適応力が劇的な活躍へと繋がっていくのはもはや必然。ぜひとも早い内に、その手腕を心に焼き付けておくことをお勧めする。
■白原ケンイチ
日本のR&B作品をはじめ、新旧問わず良質な歌ものが大好物の音楽ライター。当該ジャンルを取り上げるサイトの運営、コンピレーションCDのプロデュース、イベント主催の経験などを経て、現在はささやかに音楽ライフを満喫する日々。Twitter(@JBS_KEN1)