2.5次元、その先へ Vol.5 番外編 ミュージカル『テニスの王子様』プロデューサー・野上祥子に聞く「ネルケプランニングってどんなところ?」
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野上祥子
日本のマンガ、アニメ、ゲームを原作とした2.5次元ミュージカルが大きなムーブメントとなって早数年。今、2.5次元ミュージカルというジャンルは急速に進化し、洗練され、新たなステージを迎えている。
その舞台裏には、道なき道を切り拓くプロデューサー、原作の魅力を抽出し戯曲に落とし込む脚本家、さまざまな方法を駆使して原作の世界観を舞台上に立ち上げる演出家など、数多くのクリエイターの存在がある。この連載では、一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会発足以降の2.5次元ミュージカルにフォーカスし、仕掛け人たちのこだわりや普段は知ることのできない素顔を紹介する。
これまでは立役者となる人物に焦点を当ててきたが、今回は少し趣向を変えた番外編。2.5次元ミュージカル業界の主軸を担うネルケプランニングを訪問し、ミュージカル『テニスの王子様』のメインプロデューサーを務める代表取締役社長・野上祥子に同社の魅力を聞いた。
取材・文 / 興野汐里
“2.5次元ミュージカルの最先端”の仕事って?
1994年、松田誠により設立され、2.5次元ミュージカルをはじめとするさまざまな演劇作品を世に送り出してきたネルケプランニング。会社創立から27年、ネルケプランニングはトライアルアンドエラーを繰り返しながら、道なき道を切り拓き、2.5次元ミュージカル業界、ひいては演劇界を牽引してきた。演劇関係者から演劇ファンに至るまで、広く親しまれている“ネルケ”という愛称は、ドイツ語で“小さな花が集まって、1つになっている花”を意味する。花見の名所で知られる目黒川のほど近くに位置する同社のオフィスでは、約140名のスタッフが、大輪を夢見てエンタテインメントの種を大切に育てている。“2.5次元ミュージカルの最先端”とも呼べるネルケプランニングでは、日々どのような業務が行われているのか? その真相に迫るべく、3月上旬に同社を訪れた。
中目黒駅から徒歩数分、山手通り沿いに建つビルの中にネルケプランニングはオフィスを構えている。キュートなイメージキャラクター・ネルケちゃんが出迎える4階のロビーには、ミュージカル『テニスの王子様』やミュージカル「美少女戦士セーラームーン」、ミュージカル『刀剣乱舞』、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」、ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」、MANKAI STAGE『A3!』、「僕のヒーローアカデミア」The “Ultra” Stage、舞台「鬼滅の刃」など、ネルケプランニングがこれまでに制作してきた作品のポスターがずらり。新型コロナウイルスの影響によりリモートワーク中心となっているため、現在はお休み中だが、通常時はロビーに設置されたモニターからさまざまな公演の舞台映像が流れ、ロビーを訪れた人を楽しませてくれる。暖かな光が差し込むロビーの先には、社内の風通しの良さをそのまま感じさせるような、ガラス張りの会議室が並ぶ。この会議室で、これまでいくつのエンタテインメントが生み出されてきたのだろうか。その1室、明るい声が漏れ聞こえる部屋の扉を開けると、はつらつとした笑顔の女性がそこにいた。代表取締役会長の松田と共に、ネルケプランニングの“根”となり、2.5次元ミュージカル業界をリードし続けている代表取締役社長の野上祥子である。
小学生の頃に「演劇を一生の仕事にする」と決意し、中学、高校時代に俳優として演劇部に所属していた野上は、大学時代に制作へ転身。劇団カムカムミニキーナの制作を務めていたときに松田と出会い、1998年にネルケプランニングへ入社した。勤務して間もない頃、野上はアニメのキャスティングをメインで担当していたという。「とにかく、1つのことをまとめ上げて結果を出すことに興味があって。演劇が好きな理由もそこにあるのですが、みんなで作り上げた作品をお客様に届ける作業がものすごく肌に合っているんだと思います。アニメも演劇も、人と人とのご縁をつないでまとめ上げる過程は一緒。結果的に自分のやりたいことと非常にマッチしていたのだと思います。その後もアニメのキャスティングを担当しながら、演劇のキャスティングの相談も受けるようになりました」と当時を振り返る。
2016年に代表取締役社長に就任して以降も、野上は引き続き実務に携わっており、役員業務と並行して、ミュージカル『テニスの王子様』やライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」、中国のソーシャルゲームを原作としたミュージカル「陰陽師」、ミュージカルとアニメの2層展開式「少女☆歌劇 レヴュースタァライト -The LIVE-」をプロデュースしつつ、これまでの経験を生かして他作品のキャスティングにも関わっている。
演劇プロデューサーともう1つ、野上は一児の母としての顔も持つ。1日のスケジュールを尋ねると、「大体5時に起きて家事をこなし、6時に娘を起こします。娘を学校へ送り出したあと、7時から8時は自分の時間。9時半から夕方まで仕事をして、その後は帰宅するか、もしくは観劇ですね」と野上。「ネルケには私と同じく子供がいる社員もいますが、みんなすごく工夫しながら仕事をしています。制作担当は時間配分を考えなければいけない職業なので、そういう部分が生活に役に立っているのかもしれません。女性が多い職場ではありますが、タイムスケジュールを切るのが上手な男性社員ももちろんいますよ。時間を逆算して考えられる人、時間を有効に使える人は制作に向いていると思います」と未来の制作担当に呼びかけた。
さまざまなエンタメ好きが集う場所
ネルケプランニングには、松田や野上をはじめとするプロデューサーや制作担当だけでなく、さまざまな部門のプロフェッショナルが在籍している。舞台の制作・キャスティングを担うステージ制作部、公演に関連する映像や音楽の配信・放送・上映、グッズやDVD等の販路確保・販売促進を担当する権利開発部、関連会社のNELKE CHINAと協業し、アジア公演に関わる業務を行う中国事業部、アニメやイベントなどあらゆるジャンルのキャスティングを行うキャスティング事業部など。業務をより円滑に進めるため、近年はさらに細分化され、広報宣伝、票券、企画開発、営業、配信番組制作、グッズを扱うMD(マーチャンダイジング)、秘書室、2.5次元ミュージカル推進室といった多種多様な部署が設置されている。
ネルケプランニングでキャリアをスタートさせた社員から、演劇関係の職業に就いていた社員、まったくの別業種から転職してきた社員まで、入社に至る経歴は人それぞれ。しかし、社員に共通しているのは“エンタメが好き”ということ。野上は「ネルケの社員にはさまざまなエンタメ好きが集まっています。演劇を観ることでも、映画を観ることでも、小説を読むことでも何でも良い。『私はこれに夢中で、これがあると心が豊かになるんです! 幸せなんです!』というものを1つでも持っている人は強い。そんな人たちが、今後のエンタメ業界を明るい方向に導いてくれると思っています」と、エンタテインメント愛にあふれる若者に希望を託した。
また、キャリアの長さや所属部署にかかわらず、それぞれの社員がアンテナを張りながら仕事をすることで、積極的に新規コンテンツを発案していける環境が整っていることも、ネルケプランニングの強みの1つ。社員それぞれがトライし続けてきたこの体制が、新型コロナウイルスの状況下で大きな助けになったという。野上は「厳しい状況の中で、エンタメは心を豊かにするために大切なものだと改めて実感しました。同時に演劇の常識が覆された1年でもあったと思います。今でこそ、劇場での観劇と配信での観劇が同軸で走っていますが、『プランAでいきます。プランAがダメならプランBで! それもダメならプランCで!』という試行錯誤の繰り返し。社員みんなでアイデアを出し合い、その場に応じて発想を転換させながら提案し続けてきました。そこがネルケの強みだと思っています」と自信をのぞかせた。
コロナ禍の先にある演劇界の未来を見据えて、この春、ネルケプランニングは新卒および中途採用を開始した。これまでセクションごとに都度採用を中心に行ってきたが、今回は広く人材を募集している。「この1年、舞台の灯が消えないように、何とか灯をともし続けてきました。止まない雨はないと思っているので、いつ雨が止んでもいいように、常にアイドリングできている人と出会いたいと思っています。『自分がプロデューサーならこういう演劇を作りたい』という明確なビジョンを持っている人はもちろん大歓迎ですし、今は漠然としていたとしても、“I want to~”という野望を持っているだけでいいんです。あとは、私たちと一緒にトライしてくれて、怖がらず前に進んでくれる人、お客様に寄り添って丁寧に提案・発信ができる人。そんな方々と出会えたらいいなと思っています」と、野上は言葉に力を込めた。
ネルケプランニングが長きにわたって2.5次元ミュージカル業界を先導し、新たな作品を生み出し続けている理由には、“好き”を大切にする気持ちとチャレンジを楽しむ心、業界全体を底上げしていきたいという松田、野上らの思いがあった。躍進を続けるネルケプランニングが次代はどんな魅力的な作品を生み出すのか、今後も目が離せない。
プロフィール
ネルケプランニング代表取締役社長。1998年、同社へ入社し、2016年に代表取締役社長に就任。『テニスの王子様』のアニメ・舞台をはじめとする数多くの作品のキャスティングを手がけ、2.5次元ミュージカルのプロデューサーとしてもその手腕を発揮している。
関連公演・イベント(日程順)
ミュージカル「黒執事」~寄宿学校の秘密~
2021年3月5日(金)~21日(日)
東京都 天王洲 銀河劇場
2021年3月25日(木)~28日(日)
大阪府 メルパルクホール大阪
2021年4月1日(木)~4日(日)
大阪府 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
ミュージカル『刀剣乱舞』 ―東京心覚―
2021年3月7日(日)~14日(日)※公演終了
東京都 TOKYO DOME CITY HALL
2021年3月20日(土・祝)~25日(木)
宮城県 多賀城市民会館 大ホール(多賀城市文化センター内)
2021年4月2日(金)~7日(水)
熊本県 熊本城ホール
2021年4月14日(水)~24日(土)
愛知県 アイプラザ豊橋
2021年5月1日(土)~8日(土)
大阪府 メルパルクホール大阪
2021年5月14日(金)~23日(日)
東京都 日本青年館ホール
舞台『錦田警部はどろぼうがお好き』
2021年3月11日(木)~21日(日)
東京都 品川プリンスホテル クラブeX
『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage -track.2 replay-
2021年3月11日(木)~21日(日)
東京都 品川プリンスホテル ステラボール