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ミュージカル俳優の現在地 Vol. 3 オリジナルミュージカルとの出会いに森崎ウィンの運命が動き出す

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森崎ウィン

ミュージカルの作り手となるアーティストやクリエイターたちはこれまで、どのような転機を迎えてきたのか。このコラムでは、その素顔をのぞくべく、彼らの軌跡を舞台になぞらえて幕ごとに紹介する。第3回に登場するのは、近年、翻訳ものの海外ミュージカルへの出演が続く森崎ウィン。グループ活動を経て、映像や舞台、ソロでのアーティスト活動など己の表現力を“通行手形”にマルチな才能を発揮する。

歌唱力はもとより、舞台上での繊細な演技で観客を魅了し、流れるように舞台作品と出会ってきたという森崎は、明日3月8日に開幕するミュージカル「SPY×FAMILY」で運命の出会いを果たした。「SPY×FAMILY」の稽古に励む2月中旬、黒目がちの瞳をキラキラと輝かせながら、森崎が舞台という表現に向き合ってきたこれまでを語る。

取材・文 / 大滝知里

第1幕、初期の舞台はイケイケな人たちの中でがむしゃらに

──森崎さんが本格的に音楽と関わられたのは2007年に芸能活動を開始されて以降だそうですが、幼少期から音楽が周りにあるような環境で育ったのですか?

僕はミャンマーで生まれて、10歳のときに来日したんですが、ミャンマーで一緒に住んでいた祖母が家で英語教室を開いていたんです。その教室では英語を、童謡を歌いながら教えていて。僕も教室で歌わされたり、クリスマスパーティで生徒に交ざってカラオケ大会に参加したりと、人前で歌ったり踊ったりしていたのを覚えていますね。その経験が“音楽は楽しいものだ”ということを肌で感じたきっかけだと思います。でも、物心がつくと“恥ずかしい”という気持ちが生まれてしまって、「嫌だ」と逃げるようになりました(笑)。

──今では歌唱だけでなく、ご自身で作詞作曲も手がけられています。クリエイティブな面で音楽にのめり込むようになったきっかけは?

デビュー当初はグループ活動をしていて、そのときにコブクロさんのような弾き語りがしたくてギターを始めたんです。それでコードを練習していたら、「あれ? これで別の曲ができるじゃん」と発見して。鼻歌を歌いながらコードを当てて曲を作るようになったのですが、ある映画を撮影していたときに共演者の方にGarageBandを教えていただいて、EDMなどの音楽制作をするようになったんです。まあ、僕は天才肌ではないので、頭の中にあふれるように音楽が湧いていたわけではなく(笑)、曲を弾いてみたい、歌ってみたい!という気持ちと、ゲーム感覚でコードを組み替える面白さや、曲が出来上がる過程の発見に魅せられた感じですね。

──そこでの目覚めがアーティスト活動につながるわけですね。一方で舞台俳優としては、2012年の「3次元の彼女~Z(ゼータ)~」という作品が初舞台でした。それ以前には映像にも出演されていましたが、舞台に挑戦したいと思うような出会いがあったのですか?

いえ、もともと事務所制作の舞台にちょこちょこ出演していたので、特にきっかけがあったわけではありませんでした。「3次元の彼女~Z(ゼータ)~」の次に出演した2012年の「露出狂」ではけっこう衝撃を受けましたね。オーディションを受けて出演が決まったのですが、中屋敷法仁(作・演出)さんに「何不自由なくやっていそうなイケメンがみんなから嫌われているのを、ウィンの姿で観たかった」と言われて、「え?」って(笑)。座組みにはイケイケな人たちが多かったのですが、中でも玉置玲央くんは、僕の独白シーンで振り向きのタイミングやステージ正面とマッチする立ち方など、舞台でパフォーマンスすることの基本を教えてくれました。舞台は、ベストな出来を記録しておける映像とは感覚が全然違って、その日にゼロから作っていくから、日によって“上がり”が違う。当時は映像もさほど本数をこなしていたわけではなく、自分が作品について何か意見する立場でもなかったので、何もわからないままがむしゃらにやっていたのですが、すごく楽しかったのを覚えています。

第2幕、いきなり立て続けの海外ミュージカル出演。もまれて輝く森崎ウィン

──2016年から数年間は舞台出演がありませんでしたが、この期間にはご自身の中で何か区切りのようなものがあったのですか?

レディプレ(編集注:2018年公開、森崎のハリウッドデビュー作となった、スティーブン・スピルバーグ監督の映画「レディ・プレイヤー1」)を撮っていたんじゃないかな。そこからテレビやバラエティ番組に出ることが多くなったんだと思います。二十代中盤から後半にかけてはいただいたお仕事に全力で応えていくという意識で、もちろんそれは今でも同じですが、当時はその思いが特に強かったんです。その中で出会ったのが、「ウエスト・サイド・ストーリー」でした。

──2020年の「『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2」以降、「ジェイミー」「ピピン」と、翻訳ものの海外ミュージカルへの出演が続いたので、てっきり、レディプレへの出演をきっかけに、森崎さんの中で海外作品への意欲が湧いたのかと思いました。

たまたま海外ミュージカル作品のお話をいただけるようになっただけです(笑)。レディプレでポンっと名前が知られるようになったので、“海外に住んでいる人”みたいな印象で“海外作品が似合う人”と思われたのかもしれないけど、言ってしまえば僕は「ウエスト・サイド・ストーリー」までミュージカルに出たことがなかったんですから!

──ですが「ウエスト・サイド・ストーリー」以降、立て続けに翻訳もののミュージカルに出演されたことで、ミュージカル作品と森崎さんの相性の良さが強く印象付けられたと思います。「ウエスト・サイド・ストーリー」はSeason1からSeason3まで主要な役をWキャストでそろえた豪華な企画で、「ジェイミー」はドラァグクイーンを夢見る田舎の高校生を主人公にしたイギリス発の新作でした。各作品は森崎さんにとってどのような経験でしたか?

そうですね……「ウエスト・サイド・ストーリー」では僕がキャスティングされた意味を示さないといけない気がして、映画版を見返すことさえしませんでした。“誰々が演じたトニー”という型をなぞる役作りはしたくなかったし、物語の時代背景などの勉強はしましたが、それ以外のヒントになるような情報を自分の中に入れたくなくて。だからなのか、僕が演じたトニーにはギャングスターっぽさや男らしさが足りないという声もありました。でも、ギャングの在り方もいろいろあって良いと思うし、“僕の身体を通してトニーのセリフを発するとこうなりました”という結果を信じて挑めた作品でした。……ミュージカルの経験がなかったからこそできたことなのかもしれませんね(笑)。

逆にLGBTQを扱った「ジェイミー」では、「ゲイでもバイでもない自分がこの役をやるって、どういうことなんだろう」とすごく悩みました。その過程で、LGBTQも大事なテーマだけど、それよりも普遍的な、1人の青年の成長過程やコンプレックスにどう向き合うかが主軸だと気付いたんです。思春期には誰だって葛藤がある、ということを示してくれる作品なんだなと。それをつかむまでが難しかったですね。でも、舞台やミュージカルだからこそできる表現があると知ることができた、良い経験でした。

──森崎ジェイミーの“自分の正義”を作っていこうとする姿がけなげでかわいらしくて、とっても良いなと思いました。

いやいやいや、僕、けっこう良いんですよ(笑)。

──(笑)。初単独主演となった「ピピン」は、ダイアン・パウルス演出の日本版で、城田優さんに続く2代目のピピン役を演じましたが、どのような手応えがありましたか?

初めてのシングル座長という立場で、動員数も気にし始めた時期でした。城田優くんという比べる対象が自分の中にもあったので、気にしないようにしていても、正直怖かったです。でも純粋に作品と向き合えばお客さんに届くし、何かにつながっていくことは確かなので、途中から「もういいや」って(笑)。アクロバットやアクションなど、やらなきゃいけないことが多かったですし、To Doリストを1個ずつチェックマークしていくような感覚で、楽しくも苦しくもあり……でも僕って苦しんでいるほうが輝くんですよ(笑)。生命力というか、乗り越えていこうとする力がたぶん強いんだと思います。

──確かにいつもエネルギッシュな印象を受けます。“与えられたものに全力で”精神の下、舞台・映像・音楽とジャンルをシームレスに行き来する森崎さんの原動力は何なのでしょう?

それは、エンタメが好きだから(笑)。最近特にエンタメが好きだと実感することが多くて、映画などを観ているといかに思いを込めて作られたかがカット1つひとつを通して感じられるんです。今、僕はミュージカル「SPY×FAMILY」の絶賛稽古中なのですが、本番のための練習を重ねているのではなく、“作っている”感覚に近い。お稽古だけどそうじゃない、モノ作りの魂を感じて、めちゃくちゃ面白いです!

第3幕、オリジナルミュージカルの創作で手にした初めての景色

──遠藤達哉原作によるマンガをもとにした「SPY×FAMILY」では鈴木拡樹さんとスパイのロイド・フォージャー役をWキャストで演じ、東京・帝国劇場で主演を務めます。森崎さんにとってどのような作品になりそうですか?

同じ役を演じる鈴木拡樹さんは経験の豊富さもさることながら、空間認識能力が高くて、すべてを一瞬にして3Dで把握できるのは、やっぱり舞台人だなと思います。そういう方とWキャストを組めるのは、僕にとって財産にしかならないと感じていますね。原作をリスペクトしつつ、お客さんにとっての観やすさやセリフの言い回しなど、拡樹さんと意見を出し合って、お互いに試して、G2さん(脚本・作詞・演出)に提案できるのが、楽しくてしょうがないんです。「ピピン」のように演じるための条件を確実にクリアして再現するのも素晴らしいことですが、僕は、役者に合わせて微調整できる“オリジナル作品”が今までずっとうらやましかった。最初の創作に携われることがこれほどの喜びとは!と、日々感動しています。

──では、「SPY×FAMILY」は森崎さんにとってこれまでとは違う意味を持つ、大きな転機になりそうですね。

(頭を大きく振って)なりますね(笑)。帝国劇場に立つことの重みも、開幕してからきっともっと感じていくと思いますが、それよりも作品をどう作って伝えるかが僕にとっては重要で、観た人が「良いな」と思ってくれたらイエイ♪だし、「ハズレだな」と感じたらダメ、ただそれだけ。それが新しいものを作るということなんだと思っています。「SPY×FAMILY」でも、原作マンガにあるコマがアニメになかったり、原作マンガにない描写がアニメの映像に載っていたりするけど、それはリリースする媒体によって変化する部分がたくさんあるから。そういうところで、僕らヒューマンが「SPY×FAMILY」をミュージカル化する意味、人間が演じる意味を見いだしたいなと思っています。

今回、僕が演じるロイドはロボット的に思考して行動できる、完璧なところがある男性ですが、彼が愛を感じ始めたときに葛藤が生まれるんです。その心の機微を繊細に出せたら良いなと思っています。“スパイ”と聞くと銃撃戦の激しいアクションを思い浮かべるかもしれませんが、愛がコンプレックスだったロイドが誰かを演じるように生活していたように、みんな仮面を着けて自分の弱さを隠しているところがあるはず。スピーディに展開する物語の中で、観客の皆さんが共感できる「あっ」という部分をどれだけ丁寧に役に落とし込めるかが、僕にとっての核になると思います。

──開幕が楽しみです。さまざまなジャンルを横断して活動される森崎さんは、どのような表現、アーティスト像を目標としているのでしょうか?

うーん、今、幅広く活動させてもらっているからこそ、その点と点がつながって線になるように、1つ大きなことができるような気がしているんですよね。作品作りが好きなので、俳優という視点からディスカッションを重ねられる現場にいたいですし、映画もミュージカルも好きなので、いつか日本オリジナルのミュージカル映画を作りたい。そのための今なんじゃないかなと。でも僕1人で全部はできないから、「ウィンが言うんだったら」とみんなをかき集められるような、良い“人たらし”になりたいです(笑)。

プロフィール

1990年、ミャンマー生まれ。小学4年生のときに来日し、中学2年生でスカウトを受け、芸能活動を開始する。スティーヴン・スピルバーグ監督の映画「レディ・プレイヤー1」でメインキャストを務め、ハリウッドデビュー。映画「蜜蜂と遠雷」で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。近年の主な出演舞台に、ミュージカル「『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2」「ジェイミー」「ピピン」など。3月から5月にかけてミュージカル「SPY×FAMILY」に出演するほか、3月30日と4月6日にはCOCOON PRODUCTION 2023「シブヤデマタアイマショウ」にゲスト出演。NHK-FM「FMシアター『ゴリラの背中とアップルパイ』」が3月11日に放送される。4月19日に2nd Album「BAGGAGE」をリリースし、同月より初の全国ツアー「MORISAKI WIN JAPAN FLIGHT TOUR」を開催予定。また、出演した映画「レッドシューズ」が公開中。