黒沢清「やまぶき」は「大島渚賞にふさわしい1本」、大島新も野心的な試みを称賛
映画
ニュース
第4回大島渚賞授賞式の様子。
第4回大島渚賞の授賞式が3月14日に東京・丸ビルホールで行われ、受賞作「やまぶき」の監督・山崎樹一郎、キャストのカン・ユンス、川瀬陽太、和田光沙、黒住尚生、審査員を務めた荒木啓子(PFFディレクター)が登壇。また審査員の黒沢清がビデオメッセージを寄せた。
ぴあフィルムフェスティバル(PFF)が2019年に創設し、映画の未来を拓き世界へ羽ばたこうとする若く新しい才能に対して贈られる大島渚賞。第1回は「鉱 ARAGANE」「セノーテ」の小田香、第3回は「海辺の彼女たち」の藤元明緒が受賞しており、第2回は受賞者なしという結果に。音楽家の坂本龍一が審査委員長を務めているが第4回の審査には療養のため参加していない。
「やまぶき」は岡山の採石場で働く元乗馬競技の選手チャンスと、母親を亡くし刑事の父と2人で暮らす女子高生・山吹らが織りなす群像劇。多額の借金を背負いながら生きるチャンス、ふと交差点でのサイレントスタンディングを始める山吹の人生が、とあるきっかけで交錯していく。カン・ユンスがチャンス、祷キララが山吹を演じた。岡山・真庭の山間に移住し、農業に携わりながら映画製作を続ける山崎がクラウドファンディングで資金を募り16mmフィルムで撮影。日本映画としては初めて第75回カンヌ国際映画祭のACID部門に正式出品され、第51回ロッテルダム国際映画祭のコンペティション部門でも上映されるなど海外で高く評価された。
新作の撮影のため授賞式を欠席した黒沢は、ビデオの中で審査過程を「皆さん人間を描くことには長けていて舌を巻くばかり。これは日本の若い監督が世界に誇るべき長所」と振り返りながらも「その中に大島渚賞にふさわしい作品があるだろうかと毎年目を凝らすが、残念ながらめったにお目にかかれないのが現状。目の前にいる人間には並々ならぬ関心と深い洞察力を持つ日本の若い監督たちも、その人間を取り巻く社会に本気で目を向けることを避ける傾向がある」と指摘。「若い皆さんには失敗する自由がある。非難されることを恐れず、果敢に人間の外側にある、そう簡単にはカメラに映らないものを引きずり出すことにチャレンジしてください」と激励し、「やまぶき」については「地方都市に住む人々が社会の“カド”にぶつかりまくる様子にハラハラし観続けた。それは日本が迷走している状態を表していることに気付き、感じ入りました。まさに大島渚賞にふさわしい1本」と賛辞を贈った。
荒木は大島渚が20歳のときから守り続けてきた座右の銘「深海に生きる魚族のように、自らが燃えなければ、何処にも光はない」を紹介し、その言葉が刻まれたトロフィーを山崎に授与。大島渚を父に持つドキュメンタリー監督の大島新もプレゼンターとして登壇し「黒沢清監督が『大島監督のような人を選ぼうとしたら、20年に1人というレベルになってしまう。なかなか選べるものではない』と仰っていたと聞きました。しかし、今年の受賞作は『やまぶき』だと聞いて、本当にうれしかった。これほど大島渚賞にふさわしい作品はない。山崎監督の野心的な試みに非常に胸を打たれました。傑作だと思います。世界に目を向けている作品が大島渚賞にはふさわしい」と、その受賞を讃えた。
これらの言葉を受け山崎は「まず始めに『やまぶき』をともに作ったスタッフ、キャスト、さまざまな形で関わっていただいた多くの皆様とともに、第4回大島渚賞を受け取ります。これまで映画を通して出会い、別れていった仲間たち、先輩たちにも心から感謝いたします。大島渚賞という、生々しく、深く、そして重たい賞の受賞に翻弄されていますが、決して急がず、ゆっくりと映画と向き合っていこうと今も自分を落ち着かせています。最後に、小さな2人の娘とパートナーに感謝します。あなたたちのおかげで、私はいくつかの視点を生活の中に持ち、映画を作ることができます。本当にありがとう」と、時折涙で声を詰まらせながら感謝を述べた。
「第4回大島渚賞 記念上映会」は本日3月15日に丸ビルホールで開催。なお事前申し込みはすでに締め切っているため注意してほしい。
※大島渚の渚は旧字体が正式表記
※山崎樹一郎の崎は立つ崎(たつさき)が正式表記