宮城聰、東アジア文化都市・静岡で開催される「せかい演劇祭」への思いを語る
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「ふじのくに→せかい演劇祭2023」プレス発表会の様子。左から宮城聰、ウォーリー木下。(撮影:平尾正志)
「ふじのくに→せかい演劇祭2023」プレス発表会が、本日3月15日に静岡・静岡芸術劇場ロビー、およびオンラインにて行われた。
「ふじのくに→せかい演劇祭」は、SPAC-静岡県舞台芸術センターによる舞台芸術の祭典。今年は4月29日から5月7日まで静岡・静岡芸術劇場ほかで開催される。なお今年は静岡県が中国の成都市・梅州市、韓国の全州市と共に東アジア文化都市に選出されたことを受け、「ふじのくに→せかい演劇祭2023」にも中国・韓国の作品が多数並んでいる。
「ふじのくに→せかい演劇祭2023」の開催に向けて、SPAC芸術総監督の宮城聰は「今、世界がいよいよ力のせめぎ合いになり、価値観が異なる者を力で排除しようという世界に近づきつつあります。少し前には『今は昔よりも経済的な相互依存が進んでいるから、例えばイデオロギーが違ったとしても経済上の破綻は起こらない、お互いが殺し合うというようことは起こらないだろう』という考え方もありました。しかし現在、経済的な相互依存が歯止めにはならないことが突きつけられています。ではどういうことなら歯止めが可能かを考えたとき、欧州文化首都のように、文化の交流により相手の文化に対するリスペクトを持てば最終的な破局は防げるのではないか、という仮説があり、その仮説のもと東アジア文化都市という仕組みが作られました。現実問題としては、政治上、軍事上は一層剣呑な状況ではありますが、だからこそ文化が歯止めになる可能性があるということに注力しないといけないのではないか……それが現在の国際的な状況の中で『ふじのくに→せかい演劇祭2023』が果たす役割だと思います」と思いを述べた。
また宮城は日本のファシズムがカリスマ的な主導者によるものではなく下からのファシズムだったと言い、その原因に、国民の多くが自信を失っているという状況があるのではないかと指摘。「1人ひとりの人が自分の人生に肯定感を持つ、『私の人生の主人は私だ』という肯定感を持つために、アートは役に立つのでないか。そのような観点からも、今の日本で『せかい演劇祭』をやる意味を考えています」と語った。
続けて各作品の内容について紹介。その中で、孟京輝演出「アインシュタインの夢」とオリヴィエ・ピイ翻訳・演出「ハムレット(どうしても!)」について、宮城は「オリヴィエ・ピイさんがオデオン座のディレクターになったとき、僕もSPACのディレクターになり、少し前を行く存在としてずっと意識してきました。また彼は演劇を魂と結びついた神聖な行為として考えている人ですが、その感覚は僕にとっても近しいものです。そんなオリヴィエ・ピイさんは、孟京輝さんを『自分の分身のような人』と呼んでいます。おそらくそれは、孟京輝さんが前衛でありつつ中国の代表的な演出家であるというポジションに対する共感なのではないかと思いますが、今回の『せかい演劇祭』では、そんな僕が親近感を持っているオリヴィエ・ピイさんと、オリヴィエ・ピイさんが分身だと感じている孟京輝さんの作品が観られる機会でもあります(笑)」と語った。
さらに「ふじのくに野外芸術フェスタ2023静岡」では、宮城の代表作「天守物語」が「東アジア文化都市2023静岡県」春の式典上演作品として上演される。宮城は作品について、「『天守物語』を作る頃までは、日本文化のオリジナリティがどこにあるのか、日本的な身体の使い方ってなんだろうということを考えていました。でも創作している間に考えが変わってきて、文化芸術においては“純粋培養”ということはなく、どんな文化であっても何かと何かの混淆だと考えるようになりました。その考えから『天守物語」にはアジアの芸能の要素がさまざま入っていて、おかげでアジアのさまざまな地域で上演の機会を得ました」と説明する。さらに今回は、会場が駿府城公園と浜松城公園であることも意識して作品を決めたと話した。
続けて「ストレンジシード静岡2023」について、フェスティバルディレクターのウォーリー木下があいさつ。ウォーリーは今年のテーマを「ストリートシアターってなんだ?」であると発表し、「ストリートシアターを掲げて8年になりますが、日本ではまだあまり定着していません(笑)。なので、あえて自分たちに向かって言ってみようと。ストリートシアターを考える始まりの年にできれば」と意気込みを述べる。また今回は、Creative Dandiを除くすべての団体が新作を発表することを明かした。なお「ストレンジシード静岡2023」はコアプログラム、オフィシャルプログラム、オープンコールプログラムの3つの枠組みで展開される。
ウォーリー自身は、コアプログラムの1つとして新作「χορός / コロス」の作・演出・構成・美術を手がける。作品についてウォーリーは「『ストレンジシード静岡2023』では初めて演出家として作品を作らせていただくことになりうれしいです。“コロス”にはギリシャ演劇の群衆としてのコロスと、“殺す”と2つの意味が込められています」と話す。また本作には自身のエピソードが盛り込まれる予定で、1985年に起きた豊田商事会長刺殺事件を知ったときの体験が作品の下敷きの1つとなっていると語った。
そのほか、「ストレンジシード静岡2023」のコアプログラムには、ビルの壁を使ったパフォーマンスを繰り広げるCreative Dandi「Woman with Flower」もラインアップされた。またオフィシャルプログラムとしてきゅうかくうしお、江本純子、マームとジプシー、tupera tupera、エンニュイ、オープンプログラムにはTACT(TAkasaki Community Theater)、DANCE PJ REVO、安住の地、ダンスカンパニーデペイズマン、お寿司が参加する。
さらにスペシャルトークなど関連企画も行われるほか、静岡・舞台芸術公園入り口に「せかいの劇場ミニミュージアム てあとろん」をオープンすることが発表された。「ふじのくに→せかい演劇祭2023」のチケットの一般前売りは3月25日10:00にスタート。
「ふじのくに→せかい演劇祭2023」ラインナップ
2023年4月29日(土・祝)~5月7日(日)
「アインシュタインの夢」
2023年4月29日(土・祝)・30日(日)
静岡県 静岡芸術劇場
演出:孟京輝
「XXLレオタードとアナスイの手鏡」
2023年5月3日(水・祝)・4日(木・祝)
静岡県 静岡芸術劇場
作:パク・チャンギュ
演出:チョン・インチョル
「Dancing Grandmothers ~グランマを踊る~」
2023年5月7日(日)
静岡県 静岡芸術劇場
振付・演出:アン・ウンミ
「ハムレット(どうしても!)」
2023年4月29日(土・祝)・30日(日)
静岡県 舞台芸術公園 野外劇場「有度」
翻訳・演出:オリヴィエ・ピイ
「パンソリ群唱 ~済州島 神の歌~」
2023年5月5日(金・祝)・6日(土)
静岡県 舞台芸術公園 屋内ホール「楕円堂」
作・演出:パク・インへ
※「ふじのくに→せかい演劇祭」の「→」は相互矢印が正式表記。
「ふじのくに野外芸術フェスタ2023静岡」ラインナップ
「東アジア文化都市2023静岡県」春の式典上演作品
「天守物語」
2023年5月3日(水・祝)~6日(土)
静岡県 駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場
2023年5月27日(土)・28日(日)
静岡県 浜松城公園 中央芝生広場 特設会場
作:泉鏡花
演出:宮城聰
音楽:棚川寛子
出演:美加理、阿部一徳、大高浩一、本多麻紀、石井萠水、木内琴子、貴島豪、榊原有美、桜内結う、大道無門優也、舘野百代、寺内亜矢子、永井健二、山本実幸、吉植荘一郎、吉見亮
「ストレンジシード静岡2023」
2023年5月4日(木・祝)~6日(土)
静岡県 駿府城公園、静岡市役所・葵区役所 ほか
【コアプログラム】
「χορός / コロス」
2023年5月4日(木・祝)~6日(土)
静岡県 駿府城公園 東御門前広場
作・演出・構成・美術:ウォーリー木下
音楽:吉田能
振付・演出・出演:いいむろなおき、金井ケイスケ、黒木夏海、冨田昌則
Creative Dandi「Woman with Flower」
2023年5月4日(木・祝)~6日(土)
静岡県 毎日江崎ビル
演出:アン・ウィスク
振付:キム・ジジョン、アン・ウィスク
出演:キム・ジジョン、パク・ジェヒョンコ・ギョンミン、イ・ミニョン
※毎日江崎ビル「崎」は立つ崎(たつさき)が正式表記。
【オフィシャルプログラム】
- きゅうかくうしお「素晴らしい偶然をつないで」
- 江本純子「おでミずむ(仮)」
- マームとジプシー「break-fast」
- tupera tupera いえやすんぷ プロジェクト「フラワー家康と いっしょに ちょんまげ行列」
- エンニュイ「平面的な世界、断片的な部屋 ストレンジシードver.」
【オープンコールプログラム】
- TACT(TAkasaki Community Theater)「スパイダーの糸の件」
- DANCE PJ REVO「STUMP PUMP SHIZUOKA」
- 安住の地「わたしが土に還るまで」
- ダンスカンパニーデペイズマン「ギガ超獣ギガ」
- お寿司「怪獣回しし」