「旅するダンボール」心惹かれるのは背後の物語、昨年のベストダンボールは
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「旅するダンボール」公開記念トークショーの様子。左から汐巻裕子、岡島龍介、島津冬樹、吉田大致。
「旅するダンボール」の公開記念トークショーが本日12月8日に東京・新宿ピカデリーで行われ、ダンボールアーティストの島津冬樹、監督を務めた岡島龍介、音楽を担当した吉田大致、プロデューサーの汐巻裕子が登壇した。
街角に捨てられたダンボールを拾い、デザインと機能性を兼ね備えた財布などに生まれ変わらせてきた島津。本作では、島津が東京で見つけたあるダンボールの源流をたどっていく旅路で多くの人々と出会い交流していくさまが3年間にわたって記録されている。企画のきっかけは、本作の配給宣伝を担当したピクチャーズデプトが過去に配給したドキュメンタリー「ステーキ・レボリューション」を島津が鑑賞したことだった。「ステーキで映画を作れるならダンボールでも作れるんじゃないか、という浅はかな考えで僕から汐巻さんに企画を持ちかけたんです(笑)」と製作の経緯を明かす。
“ダンボールピッカー”を自称する島津は、これまでに世界30カ国を巡り、街角に捨てられたダンボールを拾ってきた。企画はそんな島津のセルフドキュメンタリーという形でスタート。しかし撮影は思うようにうまくいかず、編集を任される予定だった岡島が監督として携わることになった。セルフドキュメンタリー時の素材を確認したという岡島は「撮れ高がほとんどゼロだった。(島津は)カメラを片手にダンボールに突進していくので、カメラが下を向いたまま何も映ってない。映画どころじゃなかった」と笑いながら述懐する。
汐巻の目から見ると、当初島津と岡島の関係はチグハグだったという。「ダンボールの映画ってなんだろう?」と疑問を抱きながら撮影に参加した岡島は、島津へ「なぜ好きなのか?」「何を表現したいのか?」とダンボールに関する質問を頻繁に投げかけた。島津は「自分でも何がしたいのかよくわかっていない、あまり考えてこなかった部分。客観的に伝えるのが難しかった。尋問されている気分でした(笑)」と回想。そして岡島は「毎回違う答えが返ってくる。でも唯一、一貫していたのが『温かい』という言葉でした。それを編集段階でピックアップしてみると映画のベースができあがった」と続けた。汐巻が本作について「1人のアーティストの誕生の記録として、まさにドキュメンタリーそのもの」と語る場面も。
島津がダンボールに惹きつけられる理由は、その背後にある物語性だ。「ダンボールからにじみ出る温かさを感じ取れたんです。ソムリエじゃないですけど9年もダンボールを拾い続けていると、なんとなく背景がわかってくる」と説明。映画で、1つのダンボールの源流をたどった理由も「確信はないですけど、これを作った人はきっと“温かい”人に違いない。このダンボールは素敵な人に囲まれて作られたんだと思ったんです」と明かした。
そのほかトークショーではダンボールに関するさまざまなエピソードが飛び出した。海外の映画祭では、Q&Aで必ず「ここでもダンボールを拾ったか?」といった質問が出るという。当地で親しまれる商品のダンボールを挙げると喜ばれるとのことで、島津は「テキサス州だったらビールのローンスター、ホットスプリングスだと温泉水のスプリングウォーターを挙げるとお客さんが盛り上がりました(笑)」と振り返る。また海外に行く際、税関で「ダンボールを拾いに来た」と言ったことで4時間拘束されたことも。吉田の口からは島津がダンボールオーケストラをやりたがっているという事実も明かされた。
また2017年からその年のベストダンボールを紹介する「カードボード・オブ・ザ・イヤー」を実施している島津。レアなものに心惹かれるそうで、「去年のチャンピオンは、ブルガリアで拾った救援物資を入れるダンボール。デザインとしては普通なんですが、『人道支援』『ノットフォーセール』と書かれていて珍しかった」と表彰理由を述べた。今、気になっているダンボールは警視庁のもので、家宅捜索の際などに使われるものだという。なお今年の「カードボード・オブ・ザ・イヤー」は、ピクチャーズデプト協力のもと授賞式を行い、表彰も部門別になる予定だ。
「旅するダンボール」は、東京・YEBISU GARDEN CINEMA、新宿ピカデリーほか全国で順次ロードショー。
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