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『IT』続編や『ペット・セマタリー』再映画化も スティーヴン・キング作品が映像化され続ける理由

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 『ペット・セマタリー』のリメイク版が今年4月、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2018)の続編が今年9月、『シャイニング』の続編小説を原作とする『ドクター・スリープ』が2020年1月にそれぞれ公開予定であるなど、相変わらずスティーヴン・キング作品の映画化が続いている。

参考:『IT』のキャラクターといえば……

 アメリカの人気作家・キングは、ホラーの帝王と呼ばれるが、SF、ミステリー、青春小説も書くエンターテインメントの巨匠だ。日本では「聖なる電気」を操る牧師が登場する2014年作『心霊電流』が翻訳されたばかりだが、以後もコンスタントに作品を発表しており、70代に入っても彼の執筆意欲は衰えない。

 村上春樹や宮部みゆきなど、キングを好み、影響を受けた作家は日本にも多い。彼の人気がこの国でも高いのは、初期から映像化が多かったせいもあるだろう。1974年発表のデビュー作『キャリー』は、1976年に映画化されブライアン・デ・パルマ監督の出世作となった。3作目の長編『シャイニング』(1977)は1980年にスタンリー・キューブリックが独自の映像美で映画化したが原作者は批判し、それがかえって話題になった。

 念動力、予知、念力発火、吸血鬼、幽霊屋敷、死者の蘇り、なにかに憑かれた狂犬、命を宿した車、もう1人の自分、狂気の犯罪者など、キングが選ぶ題材は、ホラーや都市伝説の定番が多い。彼は、小説と同時に映画やコミックからも大きな影響を受けて作家になったので、絵が思い浮かぶ物語を書くのが得意だ。映像化が多いのも当然である。

 とはいえ、キング原作映画にハズレが多いことも知られている。彼の作品は長いものが主流だ。長編というより、大長編なのである。彼はまず、災厄が訪れる前の人々の日常を書く。彼らの聴く音楽、観る映画だけでなく、日用品や食べものまで固有名詞や銘柄入りで書きこみ、リアルな日常をとらえる。そうした前段があるからこそ、日常が壊されていく恐怖の展開に迫真性が生まれる。

 しかし、興行の都合で長時間にできない映画では、絵になりやすい場面を中心にする一方、日常の場面は削られがちでリアリティが減る。加えてSFXがしょぼければ、残念なことになる。『ファイアスターター』(1980)が原作の『炎の少女チャーリー』(1984/マーク・L・レスター監督)など、語り草になっている。

 このため、キングの映画化で成功とされるのは、日常と恐怖のバランスがとれた作品か、超常現象より人間ドラマに力点がある作品である。前者の例は『デッドゾーン』(1979/デヴィッド・クローネンバーグ監督で1983映画化)、『ミザリー』(1987/ロブ・ライナー監督で1990映画化)、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(原作『IT』1986/アンディ・ムスキエティ監督で2017映画化)、後者の例は『スタンド・バイ・ミー』(原作中編1982/ロブ・ライナー監督で1986映画化)、『ショーシャンクの空に』(原作中編「刑務所のリタ・ヘイワース」1982/フランク・ダラボン監督で1994映画化)、『グリーンマイル』(1996/フランク・ダラボン監督で2000映画化)など。

 キング作品では、不安や歪みを抱えた日常が、超常現象や狂気によって壊される。日常の不安と非日常の恐怖が、共振する状況なのだ。『キャリー』では、ハイスクールでいじめられ家では狂信的な母に抑圧される少女が、自らの超能力を全開にして復讐する。『シャイニング』では、アルコール依存とDVの過去を持つ男が妻と子どもとともに雪に閉ざされたホテルを管理する仕事に就くが、亡霊と交流するうちに狂っていく。『ペット・セマタリー』では交通事故で飼い猫、息子を亡くした父親が、そこに埋めれば蘇るという先住民の墓地を使い、異様なものを蘇らせてしまう。『IT』では吃音、親からの虐待、人種差別など辛さを抱え、いじめられている子どもたちの前に、悪魔のようなピエロが現れる。

 それぞれの物語をあとからふり返ると、日常のなかにすでにあった軋みが、異常な出来事の予兆であったかのように感じられる。また、キングは出身地メイン州を舞台に選ぶことが多いが、そこはニューヨークのような大都会でも、カリフォルニアのような進取の気風がある場所でもない。ありふれた地方の街であり、保守的でもある土地柄だ。

 しかし、キングは共和党ではなく民主党の支持者なのである。『デッドゾーン』では、未来に大統領となり核ミサイルのボタンを押すはずの政治家を、予知能力を持つ主人公が暗殺しようとする。また、テレビドラマ化された『アンダー・ザ・ドーム』(2009)は、なぜか透明なドーム状の壁に囲まれ外部から遮断された街で、差別意識丸出しの地元のボスが独裁者となり、暴虐を振るう話だった。最近ではキングがツイッターでトランプ批判を繰り返した結果、本人のアカウントからブロックされたことがネットのニュースになった。

 キングは、最先端を追いかける尖った感性の持ち主ではなく、むしろ垢ぬけない地方の街に親和的な作家である。だが、共和党的な保守性が抱える宗教的な偏見、好戦性、差別感情、頑迷さには批判的だ。『キャリー』が1976年に続き2013年にもキンバリー・ピアース監督で映画化されるなど、彼の作品は繰り返し映像になり一種の定番と化している。このことは、キングの小説が変化の激しくない普通の地方を舞台にしつつ、保守性に批判的視線をむけていることと無縁でないように思う。新しさを目指さすわけではないが、そこに安住したいわけではないというバランス感覚があったから、キングの小説は長く支持されているのだろう。

 作品群のなかでも印象的なのは、少年少女、子どもの存在だ。『キャリー』、『シャイニング』、『IT』など、周囲からいじめられたり親の暴力にさらされるなど、辛い境遇の若年者の存在がポイントとなる物語が少なくない。

 キングが脇役も含め登場人物の日常を丹念に描くなかで、夫婦や親子、近所づきあい、仕事のつながりなど彼らの関係性も追う。離婚、解雇、喧嘩など意識のズレや反目、不信が浮き彫りとなる一方、恐怖に立ちむかうための友情、連帯が語られる。なかなかわかりあえない人間関係の間に、わけのわからない恐怖が訪れて苦しめられ、わかりあえる同士で連帯して難局に立ちむかおうとする。これが、キングの物語の王道パターンだ。

 なかでも、わかりあえないことで危機が高まるのが、若年者である。親や教師が無理解で、周囲の同年代もわかってくれるどころか自分たちを攻撃してくる。大人が味方になってくれなければ維持するのが難しい彼らの日常が、脅かされる。その恐怖は、大きい。典型的なのが『IT』であり、いじめられっ子たちが団結することでなんとか恐怖と戦う。

 また、大人がわかってくれないことに苦しんでいた子どもも、大人になれば自分が子どもの頃にどう感じていたか、うまく思い出せなくなる。『IT』では子ども時代のグループが怪異をもたらすピエロと再び対決するため、大人になってまた集結する。だが、もう子どもではないことが、彼らを不利にする。『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の続編は、その大人時代を描くはずだ。また、『シャイニング』の惨劇をくぐり抜けた子どもが大人になって登場するのが『ドクター・スリープ』であり、交通事故の死から蘇った子どもが父親の知らないなにかに変わってしまうのが『ペット・セマタリー』だった。こうしてみると、今後公開が予定されるキング原作映画は、いずれも子どもと大人というキングらしいテーマを含んだものばかりである。それだけに、上質な仕上がりになることを期待してしまうのだ。 (円堂都司昭)