マルティン・ガルシア・ガルシアが語る日本公演
クラシック
インタビュー
「ショパン以外の作品も聴いてもらいたくて、今回はふたつのプログラムを用意しました!」
スペイン出身のピアニスト、マルティン・ガルシア・ガルシア(以下ガルシア)が、5月29日(金)から始まる日本公演を前に意欲を語った。Aプログラムは「ショパン×リスト」、Bプログラムは「チャイコフスキー×ラヴェル×シューベルト」。全国20カ所を巡る。
まず、Aプログラム。前半はショパン(1810~49)の「バラード第2番」「スケルツォ第3番」「3つのマズルカ」など5曲。いずれも人生の最盛期に書かれたものだ。私生活では、求婚相手に断られて、作家のジョルジュ・サンドが新たな恋人に。マヨルカへの逃避行を経て、彼女の故郷・ノアンでの田園暮らしとパリでのコンサートの往復生活を約8年送る。色濃い思い出が詰まった時期である。
「ショパンは特別な作曲家で、演奏するには時間とエネルギー、そして深い理解が必要です。この5曲は、脈がつながっていて、組曲のような構成です。悲しい出来事、苦悩、自己犠牲など、全ての出来事がラストの『バラード第4番』で収束しますが、音楽的なアイデア、各作品のモチーフさえも、信じられないくらい似てたりするんですよ」
一方、後半のリスト(1811~86)は「尼僧院の僧坊」「ソナタ ロ短調」など3曲。女性ファンを熱狂させた「ピアノの魔術師」→「宮廷楽長」→「聖職音楽家」と変貌を遂げる、30代~50代初め頃の作品だ。プライベートでは、カトリック信者のカロリーネ侯爵夫人との結婚問題を抱えていた。
「リストはショパンと肩を並べられる数少ない作曲家のひとりと言えるでしょう。なかでも1840年以降の作品がふさわしいと思って選びました。超絶技巧演奏をするためのパッセージやアクロバティックな表現を一切排除しているところがが素晴らしいと思います。ヴァイマル時代(1850~60年頃)とその後の人生の意味も含まれています。宗教的に感じられるかもしれない彼の伝説が、普遍的なものに昇華され、伝説が寓話となり、誰もが理解できる重要な教訓を連れてきます」
では、Bプログラム。「チャイコフスキー×ラヴェル×シューベルト」という組み合わせは、とてもユニークだ。
「チャイコフスキー(1840~93)とシューベルト(1797~1828)のソナタは全く異なる作品ですが、不思議なことに、共通する音楽的要素があるんですよ。チャイコフスキーの『ソナタ ト長調』は、彼が作った最高のメロディーの集合体。バレエ組曲『くるみ割り人形』や『白鳥の湖』、ヴァイオリン協奏曲、初期の交響曲などを彷彿させます。
一方、シューベルトの『ソナタ第18番』は、彼の作品群では重要視されないかもしれないけど、最後の3つのソナタと同等の感情的な深みをたたえています。死のわずか2年前に作られ、ベートーヴェンになろうとか、優れた作曲家になろうなどと無理な努力をしていない瞬間に生まれた作品です。自身の才能に身を委ね、導かれるままに書き起こしたピアノ曲。でもこれはピアノのためじゃなく、想像力のための作品と言えるでしょうね」
ラヴェル(1875~1937)はどうか。「高雅で感傷的なワルツ」は、シューベルトの「高貴な円舞曲」などを意識して書いたといわれる。後に、管弦楽版のバレエ曲にもしている。
「ありふれた日常の喜びをとても見事に表現した作品と言えるでしょう。ありふれたものを崇高なものへと昇華させることが、この作品の真骨頂です。
Bプログラムの3曲は、演奏者と聴衆の双方に、ピアノは単なる楽器ではなく、歌声、ヴァイオリン、オーボエなど他の独奏楽器、オーケストラ、はたまた川のせせらぎ、オルゴール、鐘の音などにもなり得る存在だと思わせてくれる作品です。
子供の頃からチャイコフスキーとシューベルトのソナタを両方とも演奏したいと思っていたし、ラヴェルも組み合わせたこのプログラムは、僕にぴったりです!」
親日家で気さくな性格のガルシア。3月に放送されたNHK-BSの「街角ピアノ スペシャル」では、各地のストリートピアノを訪ね、その場でリクエストに応えてデュエットしたり、ワンポイント・レッスンをしたりして、和やかなひとときを過ごした。広島の「被爆ピアノ」も訪ね、戦争と平和について深く考えさせられた。
演奏会で全力を注ぎ、行く先々では初めての経験をすることが多い。グルメで、大好きなすき焼きや新鮮な魚介から伝統食の奈良漬けまで、各地でさまざまな食べ物を食して活力にしているが、最近は「睡眠」も大切にするようになったという。
「常に活動的な生活を送りながら、どうすれば健康を維持できるか、模索と学びを続けています。多忙なスケジュールだけでなく、コンサートによる精神的、肉体的な負担も大きいから、なかなか眠れないときもあります。睡眠は健康的な食事と同じくらい重要なものであることを学びました。
日本のファンの皆さん、いつも来てくださって心から感謝しています。コンサートでは、僕の演奏を聴きながら、お客さんに人生の意味を静かに考えていただけたらうれしいです。そして終演後、心身ともにリフレッシュして新たな元気を得て、私たちがすでに持っているものを大切にし、必要なことを行っていけるよう願っています」
文・原納暢子
■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2666023

