阪田知樹、デビュー15周年 リストを軸に現在地を描く全国ツアー
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©友澤綾乃
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すべて見るピアニストの阪田知樹が、デビュー15周年に当たる今年の活動について語る記者懇親会を開催した。主軸となるのは、節目を記念して全国各地で行われるリサイタル。秋には11月10日(火)東京オペラシティ コンサートホールでの公演を含む全国ツアーが予定されている。プログラムの核に据えられているのは、ライフワークとして取り組むフランツ・リストだ。
「リストは、自分の音楽生活の原点です」
と語る阪田。折々にリストと向き合い、その作品世界を掘り下げてきた。ただし、中学生の頃に出会ったこの作曲家を、すぐに理解できたわけではなかったという。
「バッハやベートーヴェンをはじめ、当時の私が弾いていた作曲家たちの作品と比べて、なかなかすっと入ってこない。だからこそ興味が湧いて、作品だけでなく、彼の人生や演奏の系譜まで徹底的に調べるようになりました」
その“演奏の系譜”はやがて、阪田とリストをさらに深く結びつけた。阪田が最も大きな影響を受けた師が、ウィーンの名ピアニスト、パウル・バドゥラ=スコダ、そしてハンガリーのピアニスト・指揮者タマーシュ・ヴァーシャリというふたり。両者の師匠筋を遡っていくと、いずれもリストに行き着く。そのリスト直系の系譜に阪田自身も名を連ねているのだ。
演奏技術の継承だけではない。たとえばヴァーシャリの祖母が、生前のリストの演奏を聴いていたというエピソード。弾き始める直前、リストは、肖像画にも描かれている高い鼻いっぱいに空気をためて、大きく深呼吸してから一音目を発したという。その様子を師から伝え聞いた阪田は、文献や絵画の世界ではない、人間としてのリストに初めて触れた気がしたと話す。
今回のリサイタルでは、いかにもリストらしい華やかな技巧的作品だけでなく、晩年の実験的な作品も含めることで、「一夜でリストの人生を体感していただけるようなプログラムにしたい」と語った。
ツアーでは、各会場ごとに選曲を変えて臨む。「ホールの空間や雰囲気によって、聴いていただきたい音楽は変わってくる」といい、大ホールではスケールの大きな作品を、より親密な空間では別の側面を提示するなど、会場に応じて柔軟に組み替えていく考えだ。
演奏プログラムには、阪田のキャリアを象徴する重要な経験も重ねられている。2016年、フランツ・リスト国際ピアノ・コンクール(ブダペスト)で優勝。今年はその10周年にも当たるが、「出場すること自体が大きな目標だった」と振り返るコンクールでの演奏曲の数々が、今回のリサイタルの核のひとつとなる。
リスト・コンクールの審査員団はクン=ウー・パイク、シプリアン・カツァリス、ゾルターン・コチシュ、ジェルジュ・クルターグ、ミシェル・ベロフといった名ピアニストたちだった。全員一致の評価で優勝した阪田が、とりわけ印象深い出来事として挙げたのが、セミ・ファイナルでの反応だ。
「お客さまのスタンディング・オベーションはよくあることですが、審査員の方々がほぼ全員立ち上がったのには、びっくりしました」
しかし阪田にとって重要なのは、過去の栄光そのものではない。「当時弾いていたものと、今弾いているものは、やはり違う」と語り、リスト作品への向き合い方の変化に目を向ける。
「以前はより自由に、音を足す方向に意識があったかもしれません。リストが書いていない音を足すことも、僕はよくするので。でも今は楽譜に書かれたことに、どれだけ近づけるかを考えるようになりました」
演奏経験を重ねる中で、「疑問にぶつかったときに楽譜に立ち返ると、やはりそれが一番説得力を持つ」と実感してきたという。

一方で、作曲家としても実績を重ねる阪田。創作活動も活発化している。7月には神奈川フィルハーモニー管弦楽団の委嘱による声楽付き管弦楽作品を自ら指揮して初演、11月には群馬交響楽団による新作管弦楽曲も控える。「もともと自分の中では、演奏と作曲は切り離されたものではない。昔の音楽家は、作曲して、自分で演奏して、指揮もしていた。それが本来の姿だと思う」と語る。
その文脈で語られたのが、「理想は“コンプリート・ミュージシャン”」という言葉だ。単に多方面で活動するという意味ではなく、「演奏、作曲、指揮、教育といった、音楽に関わるすべての領域で、高いレベルの成果を残す音楽家」を指す概念だという。
「たとえばリストやラフマニノフのように、ピアニストとしても作曲家としても、そして指揮者としても一流である存在のことです。現代のように役割が分業されたのは、歴史の中では比較的新しい形です」
とはいえ、彼が活動領域を拡張するのは、理念先行ではない。
「音楽家としての原点に立ち返る。そうあるべきだろうと思いますし、それを自分に強いているのではなく、気がついたら自然にそういう方向に向かっていました」
デビュー15周年という節目のリサイタル・ツアー。これまでの歩みを振り返ると同時に、現在の到達点を提示する場でもある。ピアノ演奏を軸に据えながら、作曲へ、さらには指揮へと活動が広がっていく――「コンプリート・ミュージシャン」という理想像は、着実に形になっている。
文:宮本明

阪田知樹 デビュー15周年記念リサイタル
■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2668137
11月10日(火) 19:00
東京オペラシティ コンサートホール
(曲目)
J.S.バッハ(リスト編曲):オルガンのための幻想曲とフーガ ト短調 S.463ii/R.120
リスト:
ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178/R.21
3つの演奏会用エチュード S.144/R.5 第2曲 へ短調「軽やかさ」
J.S.バッハの主題による変奏曲 S.180/R.24
調性のないバガテル S.216a/R.60c
2つの演奏会用エチュード S.145/R.6 第2曲「小人の踊り」
2つの演奏会用エチュード S.145/R.6 第1曲「森のざわめき」
V.ベッリーニの歌劇「ノルマ」の回想 S.394/R.133
リサイタル・ツアー
10月 4日(日) 山口 宇部市渡辺翁記念会館
10月18日(日) 徳島 藍住町総合文化ホール 大ホール
10月24日(土) 福岡 福岡市民ホール 中ホール
10月31日(土) 山梨 山梨市花かげホール
11月 1日(日) 岐阜 多治見市文化会館
11月15日(日) 大阪 住友生命いずみホール
オーケストラ作品世界初演
7月18日(土) 15:00 神奈川 神奈川県立音楽堂
神奈川フィルハーモニー管弦楽団 音楽堂シリーズ〈Classic Modern〉第37回
(曲目)
阪田知樹:声楽と管弦楽のための新曲(神奈川フィル委嘱作品)
フォーレ:
組曲「ペレアスとメリザンド」Op.80
ピアノと管弦楽のためのバラードOp.19
サン=サーンス:ピアノ協奏曲第2番ト短調Op.22
指揮・ピアノ:阪田知樹、ソプラノ:森谷真理
11月21日(土) 16:00 群馬 高崎芸術劇場 大劇場
群馬交響楽団 第623回定期演奏会
11月22日(日) 15:00 長野 サントミューゼ 上田市交流文化芸術センター 大ホール
群馬交響楽団 上田定期演奏会 -2026秋-
(曲目)
阪田知樹:新作初演
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 Op.73 「皇帝」*
ほか
ピアノ*:阪田知樹、指揮:米田覚士
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