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松岡侑李として初のワンマンライブ 観客との間に築かれた“鏡”のような関係

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リアルサウンド

 ‟いかさん”こと‟松岡侑李”が、4月21日に代官山UNITにて、初のワンマンライブ『Yuri Matsuoka Release Live「.A」「.B」「.C」』を開催した。2011年にニコニコ動画などの動画サイトを中心として、ロートーンからハイトーンボイスといったジェンダーレスな歌声で多くのファンを魅了し続けてきた歌い手・いかさん。一方で、2016年からは松岡侑李としても声優/俳優のフィールドで活躍し、2019年には松岡侑李名義での活動を始動。この日のライブは、2019年の1月から3月にかけて3か月連続リリースした、松岡侑李名義では初となる、1stミニアルバム『.A』『.B』『.C』を記念したもの。

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 荘厳な序曲が流れ、ステージ脇から登場したのは、土屋浩一(Gt)、tabokun(Ba)、藤野隼司(Dr)、村田祐一(Mani)、ムーチョ(Gt)。大歓声を受けて、赤いスーツ衣装を纏った、松岡侑李が颯爽とステージ中央に上がる。開口一番「さぁ、最高の夜をお届けしよう」と放ち、『.A』リード曲の「Burn!」からスタート。4つ打ちビートに乗せた、華麗なダンスと凛とした歌唱力。気付けば、松岡の施す演出に吸い込まれるようにして見入っていた。「イディオティックエレジー」ではビブラートを効かせ、憂いある表情で歌い上げる。続く「GlossyXXX」では、時折、観客一人ひとりの顔色をうかがうような眼差しで、開放感のあるダンスを披露していた。

 「皆さん、こんばんは! ありがとう。お待たせ、松岡侑李です。今日はよろしくお願いします!」粋な一声に、大きな拍手と歓声が沸く。「はじめましての子も多いのかな? 緊張してる? どきどきするね」あまりの美声に、思わず観客の笑みが零れる。間を空けて言葉一つひとつを話すのは、舞台・イベント公演をも務める松岡ならではの持ち味であり、溜めることで重みを増した言葉に誰もが魔法をかけられたようで、松岡の声に耳をそばだてていた。MC後は、爽やかなナンバー「Starting Chapter」、葛藤心の滲む「Mind Bounce」、壮大なラブバラード「ジプソフィラ」を立て続けに披露。アルバムでは、サックスがムーディな雰囲気を作る「ジプソフィラ」が、この日に限り、サックスではなく、ギターソロを取り入れた演出となり、特別感を生み出していた。その場を動かず、じっくりと歌声を届けていた松岡がひとりステージを去った後には、残ったバンドメンバーが余すことなく、豪快な音を紡いでいく。

 中盤戦では、あらかじめ録音された松岡のセリフが流れた後、ラフな青いブルゾンに身を包んだ松岡が登場。〈(さぁ、おいで?)〉などのセリフも入った『.B』リード曲、「Louder!Louder!」の旋律に会場の熱はドクドクと高まる。「君たちのその心の叫びをこの場所で体裁も煩悩も全てを投げ捨てて今ぶつけてはくれないか」そう言い、頭からシンガロングを巻き起こした「Beyond all…」では、両手をいっぱいに広げ、会場の様々な熱を精一杯受け止める松岡の姿があった。間髪入れずに、とめどない轟音が鳴り響く「E.X.I.T」へ。「ここに居る皆は松岡にとって鏡のようなものだと思っている。皆がいい顔していれば自分もきっとそうなんだろうと安心するんだ。ありがとう」短いMCを挟んだ後は、「サヨナラのうた」。アコースティックのみのシンプルな演奏と松岡の澄み渡る歌声に、皆が心酔した。

 歌唱の熱を落とすことなく、いよいよ後半戦へ。「零度」で身を焦がすように熱唱しては、「魂は消えない」で微笑みかけるなど、曲ごとに表情、動きを変えるのを忘れない。『.C』リード曲、「Bite the Bullet」の間奏ではバンドメンバーがステージ前方に身を乗り出し、演奏を披露する場面もあり、会場の熱を沸点へと導いていく。次が最後の曲と言い放った後に、寂しいといわんばかりの観客の声が上がると、松岡は笑みを浮かべてから、「ありがとう」と発した。観客の鏡に映った気持ちが、自分と同じ気持ちだとわかり、愛おしいと思えた時の笑みなのだろう。その一言は短いながらも、大きな感謝の意が込められているようだった。「初めて自分の素直なそのままの想いを乗せた一曲。次は僕が君たちを連れ出す番だよ」と優しさ滲む声で告げ、本編ラストに披露したのは、松岡が結城アイラとともに作詞を担当した「まだ見ぬ僕らの世界へ君を連れ出してみようか」。男性視点の歌が美しく感じられるのは、女性ならではの繊細な部分を持ち、かつ芯の通った松岡が歌うからだろう。伸ばす片手で、観客をまだ見ぬ新しい世界へ連れ出そうとする、等身大の松岡を見て、会場中が笑顔に包まれた。

 アンコールでは、初タイアップ曲(TVアニメ『臨死!!江古田ちゃん』エンディングテーマ曲 第12話)となった「Dear Gemstones」を初披露し、強勢なバンドサウンドが会場ごと揺らしていく。

 最後のMCでは、いかさん名義で開催した、『いかさん生誕祭2017』の後、喉の手術をして再手術するに至った経験や、昨年の9月22日の『いかさん生誕祭2018』で、2019年に松岡侑李名義のアルバムをリリースすることを発表してから、この日までの歩みを振り返る場面もあった。「ここまで来て辛いことも分からないこともあった。本当にどうしようもなくなって一度深呼吸をして振り返って後ろを見てみたこともある。そしたらね、信じて応援してくれてついてきてくれる皆がいた。自分の明日を初めて心から愛することができたのは、皆のおかげだよ。本当にありがとう。10年後は同じ景色が見れると確信している。楽しみで仕方がない。さぁ、どんな明日を見ようか」と伝え、ラストに届けたのは「TEN YEARS AFTER」。曲中、松岡も観客もそれぞれに10年後の自分を描いたことだろう。松岡の言うように、松岡と観客は本当に鏡のような関係でありながらも、この先お互いがどのような道を歩むかはわからない。それでも、今こうして同じ場所に同じ思いを持った者同士として居合わせている。それは奇跡だ。松岡は、そんな奇跡がこれからも重なっていくことを期待しつつも、今ある、この幸せを噛み締め、この日を締め括った。

 メンバーが去った後、ステージ脇でもお辞儀をし、手を振るなど、最後まで会場に向けての感謝を伝えることを忘れなかった松岡。一回限りのこの日のステージで、精一杯に届けた松岡の思いが、相対する鏡に反映し、この先も続いていくことを願う。(小町 碧音)