「詩季織々」制作スタジオ現場レポ、美術監督3人が“衣”の広州&“住”の上海を語る
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「上海恋」の美術監督を務めた渡邉丞の作業風景。
新海誠の監督作品を手がけてきたコミックス・ウェーブ・フィルムの劇場アニメーション作品「詩季織々」。映画ナタリーでは、7月5日に配信した荻窪スタジオレポートに続き、今回は市ヶ谷スタジオの制作現場をお届けする。
新海誠の監督作を手がけてきた同社の最新作となる本作は、中国の3都市を舞台に描かれる青春アンソロジー。北京で働く青年と故郷・湖南省の祖母の関係をテーマにした「陽だまりの朝食」、広州で助け合いながら暮らす姉妹の姿を追う「小さなファッションショー」、上海を舞台に幼なじみの男女の淡い初恋を描く「上海恋」から構成され、イシャオシン、竹内良貴、リ・ハオリンがそれぞれ監督を務めた。また、作品ごとに中国の概念“衣食住行”が割り振られており、「小さなファッションショー」が“衣”、「陽だまりの朝食」が“食”、「上海恋」が“住”のテーマで描かれている。
手描き作業が中心の荻窪スタジオに対して、ここ市ヶ谷スタジオではパソコンによる美術とCG・撮影作業が行われる。そのため、スタッフたちは複数のモニターを見ながらタブレットやキーボードを用いて、手際よく画面を切り替え背景を作成していく。フロア内には「小さなファッションショー」監督の竹内の姿も。プロデューサーの堀雄太は「竹内は新海作品のCGチーフも務めています。アニメスタジオ内に美術部もあるということが、弊社の特徴的な点ですね。また、弊社ではカット作業割り振りを美術部に任せて、そこで各担当の個性を出してもらうということもやっています」と説明する。
「上海恋」の企画の成り立ちについて「リ・ハオリン監督が、かつて住んでいた石庫門の風景をアニメとして残したいというお話だったんです」と明かす堀。「上海恋」の美術監督を務めた渡邉丞は、上海でのロケハンを「建物のスケールが大きいなって。でも、石庫門は逆に情報量がギュッと凝縮されたような印象で、そのコントラストが強烈でした」と振り返る。続けて、大変だったシーンに上海の全景の場面を挙げると「一番時間がかかりましたね。あまりこういったモコモコした雲は見ないんですが、美しく見せたいという意識があるので、あえて大げさに描かせていただきました」とこだわりを述べ、「でも上海のスタッフたちに見せたら『上海の空はこんなにきれいじゃない』っていう反応をされて(笑)」とコメントした。
「ある程度キャラクターの心情に寄せて、背景の色使いなどを工夫しているんです」と明かした渡邉は、「例えば引っ越しのシーンでは、しっとりと寂しいような色合いで表現したり、子供の頃はキラキラさせて、大人になったら彩度を低めにしたり。リ監督も時間の流れを大事にしたいとおっしゃっていたので、それを画面内に収めるようにしました」と制作の裏側を語る。また、新海作品からの影響を感じた点を尋ねられると「“すれ違い”という部分ですかね。あと、職場の先輩が『夕焼けどきに何かが起こる』と言っていたんですが、それも劇中で描かれているのでシンパシーを感じました」と言及した。
「小さなファッションショー」の美術監督を務めたのは、小原まりこと友澤優帆の2人。舞台となった広州について、友澤は「リゾート地で、上海や北京とはまた違ったおしゃれな土地でした。できるだけ忠実に街を再現したので、行ったことがある方には『あそこかな』って思ってもらえるかも」と述べ、小原は「洗練された街のイメージを強調して描きました。どんなシーンでもキラキラさせられるように、現実にはない色味を探したり」と工夫を語る。
“衣”がテーマとなった本作において、背景に描かれる衣装のこだわりを聞かれた小原は「若い子が着る服は、少しでもバランスが変わるとダサくなってしまうので、そこは注意しました」と回答。また、背景に登場するキャラクターの部屋などは、すべて2人で話し合って作っていったという。「お姉ちゃんのイリンはトップモデルなので、雑貨屋に行ったり、雑誌を読んだりして研究しました。『今のおしゃれな女の子は何を置くんだろう』って」と友澤が話すと、小原も「実は家ではかわいいものが好きなんじゃないかとか」とイメージの膨らませ方を明かし、チームワークのよさをうかがわせた。
「詩季織々」は8月4日より、東京・テアトル新宿、シネ・リーブル池袋ほかにて公開。なお、コミックス・ウェーブ・フィルム荻窪スタジオの現場レポートも公開中だ。
(c)「詩季織々」フィルムパートナーズ