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リアン・トレナー、ケミカル、ボグダン・ラチンスキー……小野島大のエレクトロニックな新譜6選

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リアルサウンド

 今月はまず、μ-Ziqのマイク・パラディナスが主宰するUKの名門<Planet Mu>から、UKのプロデューサー・リアン・トレナーの1stアルバム『Ataxia』をご紹介しましょう。

ジューク/フットワークをIDM的に結晶化したような強烈な刺激に満ちたエクスペリメンタルテクノです。2015年から配信サイトBoomkatが運営するレーベル<The Death Of Rave>からシングルをリリースしてきた人ですが、基本的な音楽性はすでに確立していたものの、本作ではプログラミングの緻密さが格段に進化。表現の思いきりが良くなって、徹底度も切っ先の鋭さも比較にならないほどパワーアップして素晴らしい。こういう曲がかかりまくるパーティーで踊りたいものです。

Rian Treanor – ATAXIA_D1 (Original Mix) [Planet Mu]

 ポーランド出身の鬼才中の奇才、ボグダン・ラチンスキーは、かつてAphexTwinのリチャード・D・ジェイムスのレーベル<Rephlex>から、ユーモアと狂気に満ちたIDM〜ブレイクコアの傑作・怪作を次々とリリースして好き者を喜ばせていましたが、その彼の12年ぶりの作品が『Rave ‘Till You Cry』(Disciples)です。

未発表曲を中心としたコンピレーションで、新曲はないようですが、その内容は相変わらず刺激たっぷり。子供のいたずらのようなチープで無機的な電子音が明滅しながら四方八方に散乱するボグダン節は、控えめに言って最高です。

Bogdan Raczynski – 306 24n812 [OFFICIAL AUDIO]
Bogdan Raczynski – 220 s2c [OFFICIAL AUDIO]

 The Chemical Brothersの3年8カ月ぶりの新作『No Geography』(ユニバーサルミュージック)は、キャリア30年のベテランとは思えない攻撃的な作品で、初期の強烈なブレイクビーツの刺激とレイヴな高揚感が束になって押し寄せてくるようなエネルギッシュなアルバムに仕上がっています。MVも冴えてますね。フジロックのステージは凄いことになりそう。アルバムにはゆるふわギャングのNENEがボーカルと作詞で参加しています。

The Chemical Brothers – Got To Keep On (Official Video)
The Chemical Brothers – We’ve Got To Try
The Chemical Brothers – Free Yourself (Official Video)

 大阪出身、東京で活動する電子音楽家・FUUKの2年ぶり2作目『COLD ISLAND』(Long Long Label)。メランコリックで美しいメロディ、流れるように洗練された電子音、緻密に構成されたサウンドプロダクション、多彩なリズムアレンジと、隅々まで神経の行き届いた完成度の高い作品です。デトロイティッシュな叙情性と、オーガニックな温もりが絶妙にバランスした音楽性は、Chari Chari、Serphあたりが好きな人にお勧め。

FUUK / Large Drop
『FUUK / COLD ISLAND』(Album Trailer)

 英国のプロデューサーであるエミール・フェイシーによるプロジェクト・Plant43の新作『Three Dimentions』(Central Processing Unit)。メロディアスでコズミックな叙情性とクールでマシーナリーなエレクトロファンクネスが合体した重厚かつドラマティックなテクノ。Kraftwerkのスピリットをベースミュージック以降の音響感覚で今に蘇らせたような音楽で、本作の緻密なサウンドプロダクションの完成度は、この才人の作品中でも一、二を争うでしょう。

Plant43 – Three Dimensions

 在ハワイの日本人ラッパー・Shing02とトラックメイカー・SPIN MASTER A-1によるコラボアルバム『246911』(ULTRA-VYBE, INC.)。Shing02にとっては11年ぶりの日本語リリックのアルバムです。和楽器やお囃子など日本の伝統音楽のサンプルを重ねビートをつけてラップするという、いわばファンクやジャズの代わりに和モノのネタをヒップホップの手法でもって構成した作品で、単にヒップホップに和モノのテイストを付け加えたというだけでなく、もっと深いところで日本の伝統音楽、伝統芸能とヒップホップが融合した、きわめて独創的な音楽と感じました。

 タイトルは「二シムクサムライ=西向く侍」という意味で、つまり西洋文化と日本人の関係、ひいてはヒップホップという西洋音楽に対して、いち日本人がどういうアイデンティティをもって取り組むか、というテーマの作品と言えるでしょう。なかでも際だっているのがShing02の書くリリックとラップで、外来語を一切使わず、封建時代の人々の生活や抑圧を、さながら浄瑠璃とラップを融合したような「語り芸」でもって活写して現代日本の状況を映しだしていく手口は鮮やか。特に「八百屋お七」をモチーフに、あの世とこの世をゆらめきながら日本人の死生観に切り込んでいく「死狂い」「三途」「又夢」という連作は圧巻です。日本盤CDはボーナストラック収録。Bandcampは24/48のハイレゾです。

Low High / 狼徘 – SPIN MASTER A-1 & Shing02

■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebookTwitter