愛する楽器 第6回 H ZETT Mの腕代りを務める、BOSS Loop Station RC-30
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H ZETT M
アーティストが特にお気に入りの楽器を紹介するこの企画。今回はH ZETT Mが登場し、約10年使い続けている愛用のループマシンBOSS Loop Station RC-30を紹介してくれた。
生音にデジタルを融合させるのが、シビれる
H ZETT Mとしてソロ活動をするにあたって、1人で弾くピアノの音だけでやりたかったという思いがあったんです。例えばリズムトラックをドン、チー、ドン、チーと流してその上でピアノを弾くのでもいいのですが、あくまでピアノの音のみで演奏したいなと。でも自分の腕は2本しかない……「4本欲しい」と思いました(笑)。そんなとき、自分の腕の代わりに戦力となる機材として、ループマシンというものがあると聞き、即導入しました。今も使ってるこの子が最初に出会ったループマシンでした。2010年くらいでしたかね。
初めてループマシンを使おうというときに、ちょうど目の前にあったんですよ。実際にやってみたら使いやすかった。最初は、生のピアノを電気的にループできるということが自分にとって驚きでしたね。生にデジタルを融合させるというのが、シビれます。使っていると「なんでこの子はこんなに頭がいいのかな?」と思ったりもします。足で踏みながら「1、2、3、4ですよ」って打ち込んでいくと、この子も「あ、1、2、3、4なんだ」ってすぐに理解してくれる。これを使うことによって自分がもう1人、使い方によっては、もう2人いるようにできる。ケーブルをつないで「(自分が弾く)今の音を弾いてくれ」ってお願いすると、それで音楽になるんです。演奏の幅も曲も広がるし、即興的に楽しいことができます。
しばらくはほかのループマシンもいろいろ試しました。でも、これが一番反応がよかった。反応が直感的というか、「こうやりたい!」って思ったことをすぐバッとやってくれる。最新のものより型は古いし機能は比較的シンプル。バージョンアップした機材でも使い道はいろいろあるとは思うんですけど、とりあえずこの子は「音をループさせたい」という第1目標をクリアしてくれてるので、それさえあれば今は十分。ぜいたく言わない、ってことですかね。ピンク色でかわいいですし(笑)。
わりとアナログ的なところがかわいい
このループマシンはペダルが2つあり、それを足で操作します。録音を始めるときに踏むペダルと、録音をキャンセルするペダルがあるんですけど、足でペダルを踏むときに「どっち踏むんだっけ?」って自分が忘れたこともあります(笑)。本番中に間違えてキャンセルのほうを踏みながら、録音してるつもりになっていたこともがありました。僕がパッと鍵盤から手を離しても、ループマシンの音が続くはずだったんですけど、そのときは音が止まってしまった(笑)。それはそれでなんとかして、しれっと再開しましたが(笑)。
デジタル楽器ではあるんですけど、わりとアナログ的な要素を感じる部分がありますね。例えば録音ボタンでフレーズを読み込んで、エフェクトボタンを押すと音が高くなったり低くなったり歪んだりと変化させることができるんですけど、アナログでツマミをいじってるような直感的な感じがいいんです。そういうところがかわいいですね。
1プッシュ、1キックで情景を見せてくれる
自分1人で演奏する場合、瞬間的に弾いた即興のフレーズをループさせるには、自分で同じフレーズを弾き続けなければならない。でもそれをしながらほかのフレーズを繰り出すのは、なかなか難しい。そのときにこの子を使えば、同じフレーズを繰り返すことでしかできない表現を、1プッシュ、1キックで見せてくれる。音の1フレーズ……“点”をループさせて“線”になったときに、それを聴きながら次に何をやろうか……と考えられるんです。
ループマシンを手に入れたことで、ライブも曲作りも変わりました。思ってもみなかったことができるし、「やってみないとわかんない」ってところを冒険できるというか。使っていてスリリングなんです。即興的に演奏してたものをとりあえずループさせてみて、「あ、こういう世界になるのか」と思いながらまた音を足して広げていく、みたいなことができる。自分で意図してなかったことを、あとでループに教えられるようなときもあります。
それに、実際に演奏しながらループから曲を作るのは、パソコンで波形を見ながらする作業とは違い、とてもダイナミックなんです。ちょっとミスったり、タイミングがおかしかったときでも、そのままがループされる。それはそれで面白いんですよね。
4パートを1人で連弾してるみたい
ホールで1人でピアノを弾くソロライブ「独演会」をずっとやってるんですけど、初期からこのマシンを使ってます。回を重ねるごとにピアノを弾くという行為が楽しくなってきてるんですけど、この子も「あ、この人、楽しくなってるんだ」ってわかってくれてる感じがしますね。今までピアノだけのアルバムを3枚出していて、3枚目の「共鳴する音楽」(2017年)の中の「極秘現代」という曲は、あらかじめループマシンを使うことを想定した音楽を作ろうと思って作った曲でした。楽譜にすると4段くらいパートを分けて書いて作った曲を、「独演会」でループマシンを使って再現するという試みもやったりしました。まるで、1人で連弾してるみたいに。
これからもそういうアイデアは出てくるでしょうし、思いも寄らなかったことをやってみたいです。驚きを求めていろいろと実験するときに、こっちが「しまった!」とミスした部分も忠実にループしてくれるので、それをミスとしないで新たな展開につなげていく。そういうのは自分1人でやってるだけじゃ出てこないもので、この子が正直者だからですよね。
スペアは特に用意してないです。一応、楽器のネットショップとかで現行機種をチェックしたりはしますけど、これ以上にいいのかどうかはわからないし、なかなか手が出せずにいます。今のところは、調子が悪くなったりもしてないですしね。やっぱり足で踏まれる楽器だから頑丈さがあるのかも。タフですよね。だから、この子は“逸品”というより“一品”。「うちはもうこれしか出しません!」っていうこだわりの店みたいな(笑)。
H ZETT M
青い鼻が特徴のピアニスト・音楽家。2007年にアルバム「5+2=11」(ゴッタニ)でソロデビューを果たし、以降「未来の音楽」「魔法使いのおんがく」といったピアノソロアルバムを発表。2017年6月に約4年半ぶりとなるピアノソロアルバム「共鳴する音楽」を発売。ソロのワンマンライブ「独演会」を不定期に行っているほか、プロデューサー・編曲家として積極的に活動し、ライブにもサポートメンバーとして数多く参加している。また平行してH ZETT NIRE(B)、H ZETT KOU(Dr)と共にピアノトリオバンド H ZETTRIO(エイチゼットリオ)を結成。2019年は毎月1日に12カ月連続で新曲を配信することを発表している。
ピアノ独演会2018秋 -初四国の陣- 振替公演2019年6月2日(日)香川県 レクザムホール(香川県県民ホール)
取材・文 / 松永良平 撮影 / 阪本勇