パノラマパナマタウンは正真正銘のロックバンドだ ワンマンツアー千秋楽から感じた“泥臭さ”
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泥臭い。すごく泥臭い。フロントマン岩渕想太によるアンビバレントな歌詞や、それをデリバリーするためのラップという手法がそのままバンドの泥臭さに繋がっているのは事実。だが、現実を認識しているからこそ溢れ出す生のやんごとなきパワーが、このバンドを人間臭く、泥臭いものにしている。究極、それこそがパノラマパナマタウン(以下、パノパナ)のライブの魅力だった。
(関連:パノラマパナマタウンが語る、ロックバンドとしての今「“数字”は絶対的な価値ではない」)
2月にリリースした1stフルアルバム『情熱とユーモア』を携えたワンマンツアー『HUMAN PARTY』の最終地点である恵比寿LIQUIDROOM。開演前、PerfumeやCreepy Nutsの曲間に自分たちのオリジナルもミックスした会場BGMにニヤニヤしていたら、おそらくこれでメンバー登場なんだろうなと思しきUnderworld「Born Slippy」のボリュームが案の定上がった。気合いをみなぎらせたメンバーに対し、フロアも「やってやろうじゃないか」という対等な熱量で応える。アルバム『情熱とユーモア』通り、オープ二ングは「Top of the Head」。続いて、「$UJI」と、現在のパノパナのモードを叩きつける幕開きに。ペース配分を考慮していない飛ばしっぷりは、若干不安になるぐらいだ。
だが、ボトムが強い「Gaffe」で少しBPMを落とし、1990年代から現代に至るまで数多のバンドが一度は通るRed Hot Chili Peppers的なサウンドを、ケレン味なく2019年の今鳴らす4人に、笑いながら感服した。彼らの音楽は別に、ロックとヒップホップのミクスチャーを意識して生み出されているわけじゃない。4人が各々好きなものを選んで鳴らしたら、こうなったというだけ。今イケてるとか、洋楽をリファレンスして昇華するとか、そういうことから最も遠いアプローチが、パノパマの存在意義をあぶり出す。
具体的には、浪越康平のロックンロールギターヒーローばりのリフが、つい「ミクスチャー」と形容したくなる安易さを叩きのめす。「SHINKAICHI」ではThe Rolling Stonesを、「Sick Boy」ではThe Damnedを想起させた。呼び方はロックンロールでもパンクでもいい。何かを変えるため、この一夜を自分たちのものにするためにパノパナが鳴らす音楽。このバンドが岩渕というトリックスターを擁しながらも、王道のロックンロールバンドの危うさやセクシーさを醸し出しているのは、実は浪越のギターサウンドであり、また人間性だということが、今回よくわかった。
たとえば、岩渕がMCで、世の中が便利で安いものに均質化されて行く中、自分の出自を忘れることも消すこともできないという旨を真面目に話し、ハードボイルドでエレジーな「真夜中の虹」に繋げる。ライブにしても、MCにしても、4人が4人ともやりたいことをやるまでだ。それが演奏では凄まじい求心力に繋がり、さらなるグルーヴを生むから、フロアの観客たちもまたありのままの姿で情熱もユーモアもさらけ出せるのだろう。
コードやアルペジオがひと連なりの「Waterfront」から「Who am I ???」の流れは、大勢が集まるライブでも、“真夜中をさまよう孤独”を解像度高く表現していて、岩渕の詩人としての信頼も深まる。ライブのスタート時も、4人が好き勝手に話すMCには、美しい流れとは真逆なムードが漂い、痛快さと共に「このライブはどこへ向かうのか?」という一抹の不安がずっと並走していたのだが、そもそもライブってそういうものじゃなかったか? と、意外と凝り固まっていた自分の思考に気づいた直後、怒涛の後半戦へ。あらゆる形容を跳ね返しつつ、自分も“俯瞰”する側に回っていることを、図星どころかグサグサ突いてくる「フカンショウ」で、パノパナもフロアも火がついたようなテンションにぶち上がる。
ラストには、まさにこのツアー、そしてパノパナ自体のテーマでもある「めちゃめちゃ生きてる」を披露。ハードコアファンクというべきイントロから、歌が乗るユニークなこの曲。キメが外れたら崩壊するアレンジをギリギリのテンションで成立させ、メロディアスに解放されるサビの〈何だってできるなんて/強がりも虚勢も/味方に変えて〉がクリアに耳に飛び込んできたとき、もちろんそれだけが岩渕の本音じゃないにしろ、妙にこみ上げるものがあった。めちゃめちゃ生きてるーーというタイトルの意味が楽曲、MV、そしてライブを通してより深まる。本編19曲。いつの間にか大幅に室温が上昇していることに、演奏が終わって気づく有様だ。
アンコールでは「世界最後になる歌は」を途中ブレイクし、ヴァースの部分を一斉にフロア全員でラップする。テンプレの感動で励まされないように、自分の“生”を手放さないようにーーフロア全員とタイマン勝負してきた末に生まれた切実な信頼関係は、パノパナならではのものだった。ちなみにアンコールの間中、「パノパナパパラッチ」と称して、静止画や動画を撮り放題だったのだが、皆が一様にスマホを向ける様子に少し照れていた岩渕。もっと自由でいい、工夫しろと一喝した後、新曲「ずっとマイペース」を初披露したのは、偶然じゃなかったのではないだろうか。
1990年代UKとヒップホップ、そして日本人としてすでに存在する歌謡のDNAが激突し、化学反応を起こしたバンドーー音楽的にはパノラマパナマタウンをそう説明できるけれど、この夜に見たのは、今を変えたい正真正銘、太文字のロックバンドだった。今の時代にこんな泥臭いバンドが存在することを自分の目で確認して欲しいと心底願う。
■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Qetic」「SPiCE」「Skream!」「PMC」などで執筆。音楽以外にカルチャー系やライフスタイル系の取材・執筆も行う。
■セットリスト
Top of the Head
SUJI
Gaffe
マジカルケミカル
SHINKAICHI
Sick Boy
月の裏側
シェルター
真夜中の虹
Waterfront
Who am I ???
disstopia
くだらnation
PPT
リバティーリバティー
ロールプレイング
フカンショウ
MOMO
めちゃめちゃ生きてる
En.1 世界最後になる歌は
En.2 ずっとマイペース
En.3 いい趣味してるね