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『PARASITE』パルムドール受賞から考える韓国映画の現在 第72回カンヌ国際映画祭を振り返る

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リアルサウンド

 昨年は是枝裕和監督の『万引き家族』が日本映画として21年ぶりに最高賞のパルムドールを獲得し、これまでにないほど映画ファン以外からも注目を集めることとなったカンヌ国際映画祭。世界三大映画祭のひとつに数えられ、その中でも最も華々しい映画祭と言われるカンヌだが、近年はテロへの警戒や「Netflix論争」、そして「#MeToo」など、様々なトピックスが付いて回っていた。もっとも、そのどれもが明確な解決に至ったわけではないのだが、今年の第72回は比較的平穏に始まり、平穏のままで幕を閉じた印象だ(閉幕後少し経ってから、アブデラティフ・ケシシュ監督の作品で性的なシーンの強要があったという話が出てきてしまったが)。

参考:『PARASITE』場面写真はこちら

 一昨年のカンヌ国際映画祭の際に、コンペティション部門に出品された2本の作品が大きな論争の火種となった。それが前述の「Netflix論争」だ。カンヌではフランス国内の映画館での劇場上映を出品の条件としている一方で、劇場公開を前提としない配信作品(しかもフランスでは劇場公開からストリーミング配信まで36ヶ月待つというルールがある)を認めるのか否かという議論が生まれ、その結果として映画祭側はその2本にいかなる賞も与えないという結論を見出した。そして翌年までその議論が持ち越された結果、物別れに終わり、Netflix側が出品予定だった作品をすべて引き上げるという事態に発展した。

 結局それから何の進展も見られずに(しかも他のベルリンなどの大規模な映画祭は配信作品もウェルカムな姿勢を見せている)迎えた第72回。パルムドールを受賞したのはポン・ジュノ監督の『PARASITE(英題)』。そう、一昨年Netflix作品の『オクジャ/okja』でコンペに挑み、無冠に終わった韓国映画界屈指の異才監督の最新作だ。しかも、会期中に様々な媒体が発表する恒例の星取りで、同作と肩を並べるほど大絶賛を集めたのが、一昨年のコンペティション部門の審査委員長で、当時の会見で『オクジャ』に「いかなる賞も与えない」と映画祭側の意向を発表したペドロ・アルモドバル監督の『Pain & Glory(英題)』だったのだから、なんとも皮肉な話だ。

 この『PARASITE』は、パルムドール作品としては少々異なる趣を持った作品ではないだろうか。全員が失業中の一家の長男が、ある裕福な一家の家庭教師になることから始まる。ポン・ジュノ監督は『グエムル 漢江の怪物』でカンヌ国際映画祭監督週間に選出されたのを皮切りに、オムニバス映画の『TOKYO!』と、『母なる証明』を「ある視点」部門に出品。コンペティション部門は事実上の不戦敗を喫した『オクジャ/okja』につづいて2度目の挑戦となった。昨年につづいて“家族”をテーマにした“東アジア”の、そして“格差社会”について問題提起する作品がパルムドールを受賞したのだ。

 さて、今回の受賞で韓国映画初のパルムドール受賞という悲願を達成したわけなのだが、カンヌ国際映画祭のコンペ部門と韓国映画界の関係性を遡ってみると、東アジアでトップクラスと言っても過言ではない韓国映画界の強さが顕著に見えてくる。ちょうど日本でも韓国映画ブームが到来した2000年、韓国映画界最大の巨匠イム・グォンテク監督の『春香伝』が初めてコンペ入りを果たすと、その2年後にまたしても出品を叶えたグォンテク監督は『酔画仙』で監督賞を受賞する。そしてその2年後にはパク・チャヌク監督の『オールド・ボーイ』がグランプリを獲得し(この年は審査員長がクエンティン・タランティーノで、是枝監督の『誰も知らない』で柳楽優弥が男優賞を獲得した年でもある)、瞬く間にその勢いを世界に知らしめたのだ。

 その後もイ・チャンドン監督が『シークレット・サンシャイン』で女優賞、『ポエトリーアグネスの詩』で脚本賞を受賞し、昨年の『バーニング 劇場版』では公式賞ではないものの国際批評家連盟賞という大きな賞を獲得するなど、20年間で17本の作品が出品され、今回のパルムドールを含め6つの公式賞を受賞してきた。出品監督の内訳は、イム・グォンテク監督が2本、パク・チャヌク監督が3本、イ・チャンドン監督が3本、ポン・ジュノ監督が2本。そしてカンヌで受賞は果たしてはいないが他の三大映画祭で受賞歴のあるホン・サンス監督が4本、韓国映画史上初の三大映画祭制覇を成し遂げたキム・ギドク監督も1本。そして映画祭実績は他の監督から見劣りするものの、国際的な活躍を続けるイム・サンス監督が2本。この7人の監督たちが韓国映画界の海外展開を支えてきたといえよう。

 もちろん、韓国映画も他の国々と同じように海外向けのいわゆるアート作品と、国内向けの大衆作品に大きく二分されている傾向は強い。数年前に、ポン・ジュノ監督やパク・チャヌク監督、そして先日Netflixで配信された『人狼』を手がけたキム・ジウン監督がハリウッドにわたり作品を手がけた時期があったが、まだハリウッドのように国外でもヒットする大衆作品を作るまでに至っていないというのが、韓国や日本のみならずアジア映画界の一つの課題といえるかもしれない。しかしながら、その最も重要な下地であるクオリティ面に関しては抜けたものがある韓国映画界。今回のパルムドール受賞をきっかけに注目を浴び、世界的にそのプラットフォームが整うことに期待したいところだ。また、昨年『バーニング 劇場版』をもってしてもショートリスト止まりとなってしまったアカデミー賞の外国語映画賞(次回からは国際映画賞になる)で、おそらく韓国代表になるであろう『PARASITE』が韓国映画初のノミネート、さらには受賞までたどり着くかどうかも目が離せない。

 閑話休題、今年のカンヌ国際映画祭に話を戻そう。今年のコンペティション部門21作品の中にはすでにパルムドールを受賞した経験がある監督が5人もいるという異例の豪華さがあった(参考までに昨年は1人、近年では2016年の3人が最も多かった年ではないだろうか)。今回で14回目の参加となるケン・ローチ監督は無冠ながらも安定した評価を集め、テレンス・マリック監督は大絶賛と微妙な評価といういつも通りの賛否両論に。そしてケシシュ監督は冒頭でも触れた問題を抜きにしても、カンヌ全体を騒然とさせる問題作という太鼓判を得た。またクエンティン・タランティーノ監督にはパルムドッグとともに相次ぐ絶賛評が贈られ、狙うべき来年のアカデミー賞への確かな弾みが付くことになり、そして受賞常連のダルデンヌ兄弟にはまだ獲ったことがなかった監督賞が贈られた。

 今年のもうひとつのトピックとして、昨年に引き続き審査員団の男女比が同数(審査員長が今年はアレハンドロ・G・イニャリトゥだったので、全9人でみれば男性5人と女性4人になるが)。そしてコンペには過去最多となる4作品の女性監督の作品が選出され、そのうち3作品が公式賞を獲得。セネガルの名匠ジブリル・マンベティ監督の姪にあたる女優マティ・ディオップが初監督を務めた『Atlantique(英題)』は、今年の審査員を務めたアリーチェ・ロルヴァケル以来5年ぶりとなる、女性監督作品のグランプリ受賞を果たした。もっとも、ジム・ジャームッシュのオープニング作品やカンヌの申し子と期待されているグザヴィエ・ドランの作品が思いのほか評価が伸びなかったことはあれど、高評価(かつあまり受賞経験のない監督)を集めた作品が順当に受賞を果たすという、珍しいほどうまく収められた結果になったのではないだろうか。(文=久保田和馬)