『いだてん』黒島結菜の「くそったれ!」に込められたもの 初めてスポーツを楽しんだ女性たち
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『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第21回「櫻の園」が6月2日に放送された。アントワープオリンピックでメダルを逃し、失意の中ヨーロッパを旅する四三(中村勘九郎)の目に映ったのは、戦災に負けずスポーツを楽しむ女性たちの姿だった。第21回は、「女子スポーツを根付かせる」という新たな決意をもった四三が「指導者」としての道を進む姿が描かれた。また、スポーツに向き合うたくましいヨーロッパの女性と、当時の価値観から解き放たれた日本の女性の姿が重なり合う印象的な回となった。
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ヨーロッパを旅していた四三が出会ったのは、スポーツに励む「女性」の姿。当時の日本では考えられない光景に「おなご……」とあっけにとられながらも、四三は彼女たちのイキイキとした姿に夢中になる。交流を深める中で、ある女性の夫がベルリンオリンピックを目指していたことを知る。だが彼は戦争で出場できなかったうえ、戦地に駆り出され、亡くなっていた。彼女が投げていた槍は、夫の形見なのだ。「槍でも投げなきゃやってらんないわよ」という女性たちは、悲しさや悔しさを払うように「くそったれ!」と力強く槍を投げる。四三は、その躍動感のある女性たちの姿をじっと見つめていた。その表情からは、スポーツに励むすべての人に敬意をはらう四三の姿勢が伝わってくる。女性たちに誘われて槍投げに挑戦した四三は、楽しそうな笑顔を浮かべ、共にスポーツを楽しんだ。スポーツを楽しむ心に男も女も関係ない。四三の胸には「日本に女子スポーツを根付かせる」という決意が生まれた。
帰国した四三は女学校である東京府立第二高等学校、通称「竹早」の教師となる。だが、スポーツの魅力を煌々とした目で語る四三を、生徒たちは冷ややかな目で見つめる。当時、生徒たちは「良い嫁、賢い母になるために」厳しく指導されていた。スポーツに励み「強健な肉体」をもつことはその教えに反するのだ。熱っぽくスポーツを語る四三と戸惑う生徒との温度差が面白い。特に女性に対してデリカシーのない四三の描写はコミカルだ。声の小さな生徒に対して「便秘か?」と言ったり、外国人女性との「肉体的相違」を示すために裸の女性の図を見せたり。そのデリカシーのなさは、シマ(杉咲花)とスヤ(綾瀬はるか)に呆れられるほどである。
そんな中、1人の女生徒の強い眼差しが印象に残る。黒島結菜が演じる村田富江だ。四三の振る舞いにクスクスと笑い始める生徒たちだが、富江は一切表情を変えない。それどころか、笑い続ける女生徒たちを「ドン!」と足を踏み鳴らして静めてしまう。槍投げを体験してほしいと奮闘する四三には、「勤め先を間違えたと思って、お諦めくださいまし」と真っ向から意見する。
だが、四三も引き下がらない。「一投ずつでいいから槍を投げてみてほしい」とお願いする。頭を下げ、真剣にお願いする四三の姿に折れた富江たちは槍投げを承諾した。はじめこそ戸惑っていたものの、1人、また1人と槍投げを体験するにつれて、場が盛り上がっていく。生徒たちは今まで運動を「はしたないもの」として遠ざけてきたのだろう。だが、彼女たちに笑顔が見え始めることで、運動に対する考え方が変わっていくのが分かる。
最も印象的なのが、富江が槍を投げるシーンだ。「腹から声を出すと、勢いがついて、飛ぶかもしれんけん」と四三にアドバイスされた富江が選んだ言葉は「くそったれ!」だった。富江の投げる姿と、ヨーロッパで四三が出会った女性の姿が重なる。「くそったれ!」という言葉の矛先は別のものかもしれないが、彼女たちを苦しめるものに対して吐かれた言葉なのは間違いない。雄叫びをあげる富江と、遠くへ飛んでいく槍の画が美しい。遠くまで飛んだ槍を見て、キッと厳しい表情だった富江がようやく笑顔を見せる。この表情こそ彼女本来の姿なのだと思わせる、清々しい笑顔だった。
四三は「指導者」にしてはまだまだ未熟かもしれない。だが、まっすぐすぎる彼の思いが「竹早」の生徒たちの心を動かした。槍投げが終わった後、四三を冷ややかな目で見る生徒はいない。富江のフッと笑った顔がそれを印象付ける。終盤には、楽しそうに走り高跳びに挑む生徒たちの姿やテニスをする富江の姿が映った。「くそったれ!」と叫びながら力強いレシーブを打ち返す富江の姿に、今後の展開へ期待が高まる。女子スポーツの発展はまだ始まったばかりだ。(片山香帆)