「わたし、定時で帰ります。」はやっぱり難しい!? ビジネスウーマンに聞く、働く現場の実情
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『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)には「仕事」や「働き方」に対して様々な考えを持つ曲者社員が毎週登場する。では、実際現場で働く人の目にこのストーリーはどのように映っているのだろうか? 定時で帰れているのか含めてビジネスウーマンに生の声を聞いてみた。
主人公・東山結衣(吉高由里子)と同じく大手WEB制作会社で働く30代女性によると、「うちの会社はリモートワーク(在宅勤務)が推進されているので、比較的働き方の自由度は高いですが、それでも毎日結衣のように定時帰りは難しいのが正直なところ」だと言う。
「やっぱりクライアントワークの制作物については、自分だけで完結する仕事ではなくクライアント側に確認を入れてもらう必要がある。その確認の締め切り時間を過ぎても返事がない場合には催促する必要があったり、スケジュールの仕切り直し、外注先への再依頼などの調整を臨機応変に入れなければいけません」
自分の作業だけで完結する仕事ではなく、その先にクライアントによるチェックバックが必要であったり、外注先などを巻き込み関わる人が多くなればなるほどコントロールしきれない要素が出てくるものだ。不測の事態に備えてすぐに対応するためにも少なくとも締切日についてはきちんとボールを回収しきってから会社を後にしたいというのが本音なようだ。
この辺りはいくら自社の仕組みが整っていても対峙するクライアント側の社風や、業務委託先のスピード感に左右されそうだ。
一方、広告業に携わる20代・営業職女性に「定時帰り」について聞いてみると、営業職ならではの回答が得られた。
「私の部署では昨年は営業成績が抜群に良くて、全国の拠点でも常に上位にランクインしていました。その時には、余力もあってか上司たちはこの好業績が長時間労働によるものではなく『業務効率化の賜物』であると誇示せんばかりに、少しでも労働時間が長くなると厳しく勤怠状況を管理されていました」
その当時はいくら営業実績上位者であっても少しでも超過労働が見受けられればすぐに是正勧告が入るほどに徹底した管理だったようだ。それが今年に入って、一気に状況が変わったと言う。
「今年に入って、部署の営業実績が一気に下がったんです。異動などがありメンバーが大きく入れ代わったのも一因ではあるのですが。営業成績が芳しくなくなってからは、上司の方針も目に見えて変わり、『残業してでも数字を追いかけられるなら追いかけ切ろう』というようなメッセージを暗に受け取っています」
とは言え、三谷(シシド・カフカ)タイプを自称する彼女にとっては、あまりに業務効率化が進み成果主義が行き過ぎるのも不安で、「頑張っている過程も評価され得る」今の働き方の方が自分には合っていると感じるようだ。
ダイレクトに「数字」を追い、実績が可視化され相対評価されやすい営業職において、やはり「営業成績」を出していない限りは何となく「勤務時間」を融通させることは気まずく、堂々と定時帰りを決め込むのは難しそうだ。
このような声は不動産系ベンチャー企業で働く30代女性からも聞かれた。
「不動産ベンチャーだけに業績がインセンティブに直結しわかりやすく反映される。だからこそ残業代をアテにせずにインセンティブで稼ぎなさいって文化は根強いです。加えて、一人前になるまでは有休が取得しづらい、5日連続の計画年休制度についても成績が上がっていない人は取りづらい雰囲気はありますね」
また、3人ともに声が上がっていたのが「サービス残業」についてだ。ドラマ内では会社に棲み付いていたエンジニア吾妻(柄本時生)が紹介されていた。あそこまでではなくとも、不動産会社勤務女性によると「出勤実績をつけずに休日にも働いている人は山ほどいる」とのこと。彼女しかり、WEB制作会社勤務女性しかり、タイムカードは実際の時間で切るものの、「●時以降は自己啓発の時間に使っていた」と記載する、「休憩時間を多くとったことにする」などの抜け道があるようで、会社側もそれを黙認しているように見受けられるそうだ。
今回、ドラマ内よりもリアルの職場の方が進んでいる点として3人が口を揃えて挙げてくれたのは「ワーキングマザー」の働く環境についてだ。
結衣の会社では賊ヶ岳(内田有紀)以前にワーママが働く前例がなく、ロールモデルが近くにいなかったことが復帰初期の悲劇を引き起こしていた。今や、このご時世、会社の規模感に問わず、産休・育休の整備、その後の復職については当たり前のように享受できる環境になってきているようだ。
不動産ベンチャー勤務の彼女いわく「むしろ賊ヶ岳さんは、産休前と同じポジションにつけているのは恵まれているかもしれません。今やベンチャーだろうが中小企業だろうが、育休明けの復帰については寛容。とは言え、大手企業でもない限り少ないリソースで会社を回している分、復帰時の人員配置や会社の状況によっておそらく産休前と全く同じポジションでそのままキャリアを継続できる人は少ないと思う」とリアルな声を教えてくれた。
最後に全員の総意として、「やはり結衣のように責任を果たした上で帰りたい時は帰るし、休みたい時に休んで、反対に残りたい時には残業し、休日でも働きたい時には働く」が実現できれば一番の理想形だということで全会一致した。年齢や社歴、ライフステージによって選択したい働き方や稼働時間は様々。それは決して業績の変動や建前としての制度、暗黙の了解ばかりが優先されているうちには、なかなか現場での実装は難しいと言えそうだ。(文=楳田 佳香)