『緊急取調室』『特捜9』が視聴率好調! 「テレ朝刑事ドラマ」を代表するシリーズへ成長するか
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先日、2019年民放春ドラマ中間平均視聴率ランキングが発表された(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。1位は『緊急取調室』、2位は『特捜9 season2』、3位は『科捜研の女』と、テレ朝刑事ドラマがトップ3を独占。「刑事ドラマといえばテレ朝」という視聴者の印象が数字となって表れる結果となった。
参考:『緊急取調室』天海祐希と“対決”するゲスト女優配役の巧さ 長期シリーズに新展開訪れる
3位の『科捜研の女』は1999年10月からスタートした沢口靖子主演の長寿ドラマで、今年はシリーズ20周年を記念して4月から1年間放送される。一方、1位の『緊急取調室』は天海祐希が主演で、2014年1月からスタートして今回が3シーズン目と比較的新しいドラマだ。2位の『特捜9』は、2006年4月から放送された渡瀬恒彦主演の『警視庁捜査一課9係』を前身とし、その続編として昨年4月からタイトルを変え、井ノ原快彦主演ドラマとして再スタートし、今回が2シーズン目となる。
今クールの放送が続く中、次シーズン以降のことを考えるのは性急かもしれないが、視聴率1位、2位と高い人気を誇る『緊急取調室』と『特捜9』は果たして今後もシーズンを重ねていき、いずれ『科捜研の女』のような長寿シリーズと成り得るのだろうか?
『緊急取調室』は、主演の天海をはじめ、物語のメインとなる“キントリ” (緊急事案対応取調班)のメンバーに田中哲司、でんでん、小日向文世といったベテラン俳優を揃え、ゲスト俳優も彼らと十分渡り合えるような実力重視の配役であることがうかがえる。取調室で天海らキントリメンバーと被疑者役の俳優が対決する場面での、迫真の演技バトルは見ごたえ十分だ。
そんな緊張感あるシーンの一方で、キントリメンバーがよく訪れる居酒屋「しんじ」での一幕など、ふっと和まされるシーンも随所に登場し、特にキントリメンバー間のやり取りは、さりげなさの中にベテラン俳優同士だからこその小気味よさをのぞかせる。視聴者を引き付ける緩急をつけた見事なストーリー運びは、キャストの演技力の高さゆえだ。また、被疑者を厳しく追い詰めていく中にも、天海演じる真壁有希子の優しさがにじむところが、ただハラハラドキドキ面白いだけではなく、温かさも兼ね備えた刑事ドラマとしての輝きを放っている。
『特捜9』は先にも述べた通りまだ2シーズン目だが、前身の『~9係』まで遡ればその歴史は長い。『~9係』では渡瀬恒彦が主演を務め、井ノ原は準主役のポジションだった。2006年から放送されていたが、2017年3月に主演の渡瀬が亡くなったため、同年4月から放送のseason12は直前まで出演予定だった渡瀬不在のまま制作することを余儀なくされた。
そして2018年から新たに井ノ原を主演とする続編『特捜9』がスタートし、井ノ原、羽田美智子、津田寛治、吹越満、田口浩正ら、ほとんどのメンバーが『~9係』時代から引き続きの出演で相変わらずの個性を発揮する中、新たにレギュラーメンバーに加わった寺尾聰と山田裕貴の存在もまたユニークだ。寺尾演じる特捜班の班長・宗方朔太郎は、捜査に走り回るメンバーたちとは一定の距離を保ち、捜査とは無関係に思える自由気ままな単独行動を取りがちだが、実はその行動が後々事件解決に大きな影響を与えることが多く、目が離せない存在だ。山田演じる若手刑事の新藤亮は、若さゆえに気持ちが先走り、時には先輩たちと対立するなどお騒がせキャラの面もあるが、憎めない特捜班のマスコット的存在になっている。
そんな個性派メンバーが揃った特捜班を、井ノ原がリーダー然として強引に指揮するのではなく、各個性を潰さないように穏便にまとめようとしている姿が、中間管理職のジレンマや哀愁を漂わせながらも、思わず応援したくなる心優しきリーダー像になっている。ドラマ全体にもどこか和やかな空気が流れており、肩の力を抜いて見られるところが魅力だ。
『緊急取調室』と『特捜9』は、全く異なる特徴を持っており、前者のような緊張感あふれるサスペンス刑事ドラマと、後者のような和み系ミステリー刑事ドラマでは、人により好みは分かれるところかもしれないが、こうして様々なレパートリーの刑事ドラマを揃えているところが、「刑事ドラマといえばテレ朝」と言われる所以だろう。
『科捜研の女』に代表されるシリーズ物のドラマの醍醐味は、回を重ねるごとに物語世界が重層化していくことだ。その積み重ねがあるからこそ、物語やキャラクターに深みが増し、ますます面白くなっていく。しかし、安易な積み重ねではその深みは生まれない。その場しのぎや目先のことだけを考えたストーリーではなく、過去を踏まえ未来を見据えてシリーズの一貫性を保ちながら、一歩一歩進んでいく姿勢がカギとなる。『緊急取調室』も『特捜9』もそれぞれの特徴を生かした積み重ねが、視聴者を楽しませ続ける長寿ドラマシリーズへの道につながるはずだ。
■久田絢子
新聞ライター兼編集(舞台担当)→俳優マネージャー→劇場広報→伝統芸能(主に能楽)関連お手伝い、と舞台業界を渡り歩き現在フリーライター。ウェブ「エンタメ特化型情報メディアSPICE」「goo映画」等で舞台や映画等エンタメ関連記事を執筆中。