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“少し大人になった”ミュージカル「SMOKE」シアターウエストで開幕

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ミュージカル「SMOKE」より。

ミュージカル「SMOKE」が、昨日6月6日に東京・東京芸術劇場 シアターウエストで開幕した。

韓国発のミュージカル「SMOKE」は、夭逝した詩人・李箱(イ・サン)の連作詩「烏瞰図(うかんず)詩第15号」から着想を得て創作された作品。昨年2018年には菅野こうめいの演出により日本初演された。

登場人物は、詩を書く男・超(チョ)、海を描く者・海(ヘ)、心を覗く者・紅(ホン)の3人。今回の上演版では、日本初演版に続き菅野が演出を担当し、超役を石井一孝、海役を藤岡正明、紅役を彩吹真央が演じる。

開幕に際し、菅野は「ちまたでは“大人SMOKE”と呼ばれるらしい芸劇バージョン。経験豊富な3人のキャストがもたらしたものはもちろん、クリエイティブチームも着実に成長しています。少し大人になった『SMOKE』をお楽しみください」とコメントした。公演は6月16日まで。

菅野こうめいコメント

ミュージカル「SMOKE」芸劇バージョンの初日を控え、ワクワクしています。キャストも劇場も変わることで作品をもう一度新たに作り上げることができました。

初演のイメージを、まずはそのまま移植してみることから始めた稽古ですが、今回の3人にはちょっと不向きだと感じ即刻方針転換。みなさんから生まれるものと、僕なりのポイントを共有しながら進めていくことにしました。すると通し稽古になるころには僕の中で初演のイメージはすっかり消えていました。ただ不思議なことに、初日を前に、これは別物だと思うとともに初演が進化したものだということも強く感じているのです。

もうひとつ、作品の印象を大きく変える要素は音楽。日本版初演も、オリジナルプロダクションである韓国版でもピアノ一本だったものが、ピアノ、チェロ、ヴァイオリン、パーカッションという編成のカルテットになりました。それに合わせて初期の韓国版のサウンドトラック(おそらくデモテープと思われる)を参考に本作の音楽監督である河谷萌奈美さんが再アレンジしてくれました。この音楽的な変化と、劇場もより天井の高いシアトリカルな空間になったことによって演劇的な肌触りだった九劇バージョンから、より格調の高いミュージカルにグレードアップしたように思います。「SMOKE」は決してグランドミュージカルではありませんが、グランドという言葉を用いたくなるほどに、今の日本のミュージカルのレベルの高さを示すことができていると自負しています。

ちまたでは“大人SMOKE”と呼ばれるらしい芸劇バージョン。経験豊富な3人のキャストがもたらしたものはもちろん、クリエイティブチームも着実に成長しています。
少し大人になった「SMOKE」をお楽しみください。

石井一孝コメント

いよいよ開幕、やるしかない!
僕は藤岡正明さんと彩吹真央さんが大好きです。その思いを胸に、舞台では100%<超(ちょ)>として生きたい、それだけです。
この作品の魅力は……何を言ってもネタバレになるということ。見どころは3人の呼吸。3人の呼吸が一糸乱れないところと大いに乱れるところ、その振幅が魅力です。

お客様の中にはよくわからなかったと感じる方もいらっしゃるかもしれません。それはとても難解な戯曲ゆえのことです。でも、舞台上で繰り広げられることを目の当たりにすれば、登場人物たちの精神の気高さ、憎悪、愛といったものは伝わると思います。

そして、この作品からはいろんな感想が出てくると思います。もしかしたら「面白かった」という感想が一番出にくいのかもしれない。難しかった、すごくドキドキした、はらわたをねじり出されたような感覚がした、唖然とした、美しかった、怖かった……そんな心の中の言葉が出てくる作品。そうなれるように、僕らは精一杯やるしかない!

この作品、観るのも疲れると思うんです。それは僕ら3人が、そして「SMOKE」という作品が煙のように知らず知らずのうちにみなさんの心に入りこんでいくから。そして生まれる僕らとお客様の精神と愛のせめぎ合い。しっかりとお客様の心に忍び込みたいと思います。

藤岡正明コメント

これは本当に手強い作品。
この作品は何を伝えたいのだろうかと考えていたんです。主人公の苦痛、前に進み続けようとするメッセージなのか……でも、何かそういう言葉で解決できないもののような気もしていて。すると、李箱(イサン)という80年ほど前に亡くなった夭逝の天才詩人がここに生きたということを書きたかっただけのような気がしてきました。
そして僕は“そのこと”に共感するのです。

僕が歌手を志すようになったとき自分の人生の一曲を作りたいという思いを抱きました。それはミュージシャンなら誰しも持つ思い。それに通じるものがあると感じました。李箱という人がそうだったかはわかりませんが、この作品は“李箱という人が生きた”ということを表現したかったのではないかと。

80年前に彼が作った作品をベースにしたミュージカル「SMOKE」。そこには我々が作り出した虚構もあるのかもしませんが、それも含めて煙になって消えてしまうものを、現代に煙として蘇らせたものがこの作品の本質なのかもしれない。僕ら3人で精一杯、李箱という人の人生、作品世界を表現できたらいいなと思います。
そして、お客様はこの謎めいた作品から自由にいろんなことを感じてください。

彩吹真央コメント

稽古場でカンパニー全体がしっかりとやるべきことをやってきたということが自信となり、それぞれが“私たちの「SMOKE」”を掴めた実感を持って劇場入りしました。そこに至るまで、演出の菅野こうめいさんとキャストがたくさん話をして、私が演じる<紅>はもちろん、<超>や<海>と向き合い、作品を作ってきました。

この東京芸術劇場シアターウエストの空間に「SMOKE」が立ち上がるまで、いよいよ最終段階、詰めの確認作業とゲネプロをいい経験、いい時間にし、初日を迎えたいと思います。今は、その一つひとつのステップを積み重ねていくことを楽しんでいます。

初演や韓国版をご覧になった方にも新鮮にお楽しみいただけると思いますが、それと同時に初めてご覧になった方、一度きりのご観劇の方にも作品の魅力を余すところなくお楽しみいただきたい。その思いで芝居を模索してきましたが、答えを突き詰めすぎると「SMOKE」らしさを失ってしまう。最終的にカンパニー全体でその塩梅を調整しながら今日に至っています。「SMOKE」経験値は違っても、それぞれのお客様がその世界に没頭していただけたらうれしく思います。ここから先、作品の善し悪しというものは、最終的にはお客様の心に委ねることになります。私たちにできることは、<紅>として、ここまでやってきたことを信じて生きるのみ。どうぞ「SMOKE」の世界をお楽しみください。

ミュージカル「SMOKE」

2019年6月6日(木)~16日(日)
東京都 東京芸術劇場 シアターウエスト

上演台本・訳詞・演出:菅野こうめい
出演:石井一孝、藤岡正明、彩吹真央