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『アラジン』特大ヒット 音楽の力がもたらす「ビガー・イン・ジャパン」現象

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リアルサウンド

 先週末の映画動員ランキングは、実写版『アラジン』が土日2日間で動員76万6000人、興収11億2200万円をあげて初登場1位に。初日から3日間の累計では動員96万人、興収14億円に届く勢い。この初動成績は、今年公開された作品では『名探偵コナン 紺青の拳』、『アベンジャーズ/エンドゲーム』に次いで3番目に高い数字(動員は『アベンジャーズ/エンドゲーム』とほぼ同じ)となるが、2週目以降も高推移が続くことが多い王道ディズニー作品の過去の傾向をふまえると、現状の累計興収90億円弱、年間興収1位の数字を更新中の『名探偵コナン 紺青の拳』を超える可能性は十分あるだろう。ちなみに、今回の『アラジン』の公開週の週末成績は、最終興収124億円を記録した2017年の実写版『美女と野獣』との興収比で105.3%。6月前半という「無風の時期」に公開された作品(『美女と野獣』はゴールデンウィーク直前の公開だった)としては、驚くべき大ヒットである。

 近年ディズニーが推し進めている「古典アニメ作品の実写化」については、ここまで作品ごとに大きく明暗が分かれていることは今年の実写版『ダンボ』公開時にも触れたが(参考:初登場2位の『ダンボ』、高く飛ばず ディズニーの実写版リメイクはいつまで続くのか?)、ひとまず今回ディズニーは『アラジン』という大看板を守ったことになる。特に日本における特大ヒットの要因を一つ挙げるなら、誰もが知っている主題歌「ホール・ニュー・ワールド」や、『美女と野獣』でもお馴染みの音楽担当アラン・メンケンと『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト・ショーマン』のベンジ・パセック&ジャスティン・ポールとのコラボという鉄壁の布陣による音楽、つまりは「音楽映画」としての吸引力がまず最初に挙がるだろう(敗因は一つではないが、『ダンボ』にはまずそこが欠けていた)。

 昨年から今年にかけての『ボヘミアン・ラプソディ』の現象化を筆頭に、このところ「世界的にもヒットしたけれど、特に日本でその水準を超えて大ヒットする作品」の鍵となっているのが「音楽映画」としての要素。もっとも、これは宣伝戦略的にはなかなかスウィートスポットの狭い話で、インターネットを通じてこれだけ海外の情報がリアルタイムで共有されるようになった今、いわゆる「ビッグ・イン・ジャパン」的なヒットはなかなか生まれない。あくまでも海外でも当たっている作品の中から、どの作品に火がつくかという、いわば「ビガー・イン・ジャパン」的な状況と言える。逆に、『アリー/ スター誕生』のように海外で当たったからといって、日本では当たらない「音楽映画」も少なくない。

 そういう意味で、注目されるのは全米で7月19日、日本でも夏休みのど真ん中の8月9日という、例年大ヒット作品が生まれやすい興行のピーク期に公開されるディズニーの次の「古典アニメ作品の実写化」(正確には、本作の場合フルCG化)である『ライオン・キング』だ。『アラジン』に比べると作品の中で「音楽」が担う役割はそこまで多くない作品ではあるが、本国では、主人公のシンバの声をドナルド・グローヴァー(=チャイルディッシュ・ガンビーノ)が、そのガールフレンドの声をビヨンセが演じることが大きなトピックの一つ。(そもそも吹替が興行のメインとなる)日本ではそれがまったく宣伝効果をもたらさないわけで、もちろん日本のディズニーも音楽面におけるローカリゼーションを周到おこなうだろうが、『アラジン』とは題材のポテンシャル以上に大きな興収の差が出るかもしれない。

 『ライオン・キング』が公開される8月9日といえば、『アラジン』公開からたったの2か月後。興収100億円を超えるようなディズニーの大ヒット作の場合、通常ならばまだまだ客足が途絶えることのないタイミングだ。『アラジン』の最終興収を左右するのは同じディズニーの『ライオン・キング』、という皮肉な状況が生まれるのではないか?

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。最新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。