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藤原さくら、初の日比谷野音ワンマンで示した“現在地” ポピュラリティを極めてさらなるフィールドへ

音楽

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リアルサウンド

 7月15日、藤原さくらが日比谷野外大音楽堂にて『藤原さくら 野外音楽会 2018』を開催した。猛暑が続く3連休中日、ライブのスタートは17時30分。日中のほてりがそのまま残った会場に、超満員の約3000人が集まった。

 このライブについて記す前に、6月13日に発表された最新EP『green』の話をしたい。同作は、この日のライブでドラム兼バンドマスターを務めたmabanuaと2人で向き合い、ワンプロデューサー体制で作った作品だ。これまで、生楽器でのレコーディングにこだわり、さまざまなプロデューサーと曲ごとに組んで作品を作ってきた藤原が、mabanuaと組むことで、打ち込みを導入。ヒップホップの手法やブラックミュージックの要素なども取り入れたポップミュージックは、新しさにあふれ、「藤原さくらの第2章のはじまり」とも言える。オーガニックなイメージがある藤原からすると、まさに攻めた作品だった。そんな制作スタイルをとりながらも、彼女らしいあたたかみを感じるとはインタビューでも話していたことだが、藤原の日比谷野外大音楽堂での初ライブということ、久しぶりのワンマンライブということもあり、野外の環境で『green』がどう演奏されるのかは、ひとつの楽しみでもあった。

 藤原は、芝生が敷かれ、新緑のガーデンのようなステージに、『green』よろしく、やわらかな薄い緑のワンピースに身を包み、颯爽と登場。『green』のオープニング曲でもある「Dance」で軽快にスタートし、「Walking on the clouds」を披露した。同曲は期待の新人として話題になるきっかけとなったメジャーデビューEP『à la carte』の1曲目だが、新旧を感じさせず、エバーグリーンに響いてくるこの流れに、彼女の芯はデビュー当初から地続きなのだと改めて感じさせられた。『green』や2ndアルバム『PLAY』の楽曲はもちろん、「I wanna go out」「maybe maybe」「How do I look?」といった1stアルバムの楽曲も織り交ぜ、彼女の第2章へと続く、これまでの足跡が感じられる構成だった。

 ライブにしろレコーディングにしろ、アレンジによる楽曲の変化や音楽に魔法がかかった瞬間の興奮については、藤原もよく言っていることだが、打ち込みのビートが印象的な「Sunny Day」などは、この日のバンドのグルーヴにより、オリジナルとはまた違う魅力として楽しめた。さらに、『green』で新たなサウンドに挑戦していることで、既存曲の可能性も広がり、また生き生きとして聴こえくる楽曲もあれば、もともとオーガニックな「Just one girl」(『à la carte』に収録)にいたっては、シンセサイザーやリバーブの効いたドラムという大胆なアレンジで、フューチャー感たっぷりに聴かせ、まさに音楽のマジックを感じた場面だった。これだけ原曲の可能性を広げられるのは、彼女の歌声やメロディが中心にあるからなのだろう。蝉の声が鳴り止まない、特別暑い夏の野音だったが、彼女が歌うと、清涼な風が吹いてくるようだった。

 15分のインターバルを置いて、第2部がスタートし、「アコースティックセットのコーナー」へ。これがすばらしかった。まずはmabanuaと2人だけで登場し「Soup」を披露。藤原の歌とウクレレ、そしてmabanuaのドラム。2人の息はぴったりなのだが、最小の編成で、2人の音への集中と緊張感が伝わってくる。演奏を終えた藤原は「これ、めちゃくちゃ難しくて。ウクレレでやりたいって言ってしまったばかりに……。はじめて成功しました! やったー!!」と笑顔を見せた。会場全体が、緊張からの緩和で包まれ、なんとも言えない昂揚の瞬間だった。「ここからどんどん仲間が増えていきますよ〜」と、ベースのShingo Suzukiを呼びこみ、1995年生まれの藤原、1984年のmabanua、1975年生まれのSuzukiと、約10歳ずつ違う3人で「1995」。さらに、Megのコーラスが加わり「Ellie」、そして最後に、ギターの村中慧慈と藤原のピアノの先生でもあるという別所和洋がピアニカを持って登場。ステージ中央にギュッと全員が揃って「BABY」を演奏したシーンは、今回の野音のハイライトのひとつだろう。

 その後、藤原がMCとして出演していた子供向けテレビ番組『ポンキッキーズ』(BSフジ・2018年3月終了)より、一緒に出演していた春風亭昇々とPちゃんがステージにあがるというサプライズがあった。番組の挨拶を再現し、3人のコンビネーションが健在であることを見せ、番組終了を自虐ネタにして笑いを誘ったが、お茶の間にも届いていた「Someday」を一緒に歌うシーンでは、藤原のスモーキーな歌声とPちゃんの「ぺいーん」という鳴き声のハーモニーが、なんとも微笑ましかった。

 すかさず、サプライズは続き、「9月19日に『red』というEPが発売されまーす!」と藤原。大きな拍手が起きた。『green』は、もともとこの『red』とともに2部作として制作していたのだという。絶賛、“ヤバい”スケジュールで制作が進められていることが伝えられ、新曲「NEW DAY」をライブで初披露した。『green』と『red』、さらに続くツアータイトルは『Sakura Fujiwara tour 2018 yellow』らしいのだが、緑と赤と黄……楽曲をより彩る、どんな世界観を見せるのか、期待が高まる。

 本編ラストは、インディーズ時代、高校生のころ(当時は福岡在住)に発表した「お月さま」。そして、アンコールでは、『green』の中で幻想的な世界観を表した「The Moon」と、月の曲を続けた。すっかり日が落ちて暗くなり、月こそ出ていなかったが、時代も場所も超えて同じ月を見ているような感覚にもなれる。もともと劇場版アニメの主題歌として作り、作品に引っ張られて壮大な世界観、深いせつなさを表現したという「The Moon」では、全ての楽器の音が響きわたり、ステージ上の光の花や、ミラーボールの光とともに会場を包んだ。

 「楽しいけれど、もう終わりの時間です。次の曲は思い入れの深い曲。みんなとも“bye bye”することになるけど、私は、また会おうねって言える“bye bye”が好きです。楽しく、お別れできたら。今日はほんとにありがとうございました!」と藤原。大きな手拍子とともに明るく「bye bye」で、幕を下ろした。

 藤原さくら初の日比谷野外音楽堂は、これまでの歩みと未来をつなぐ、藤原さくらの「現在地」を示すものだったが、音楽をひたすら楽しみ、穏やかなまま、攻め攻めの藤原さくらがいた。開演前のBGMに、The Lemon Twigsのようなエッジィなバンドに並んで、テイラー・スウィフトも流れていたことを思い出した。テイラーは、自身のルーツを大事にしつつも、最新のトレンドをどんどん取り入れ、世界的なポップスターの座を切り開いてきた。藤原も音楽へのこだわりと、ポピュラリティをより極め、今後も、いろんな局面で新境地、さらなるフィールドへと切り込んでいくのではないだろうか。その始まりに、『green』『red』という2部作は、大事な作品となるに違いない。

(文=古城久美子/写真=羽田誠 / HADA MAKOTO)

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