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majikoが表現する“寂しさ”は原動力になる 柴 那典による『寂しい人が一番偉いんだ』レビュー

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 寂しい人が一番偉いんだ。

 majikoが6月19日にリリースしたアルバムのタイトルだ。「まじ娘」という名義で動画共有サイトにて歌い手としての活動を始め、2017年にmajikoとしてメジャーデビューを果たし、これが初めてのフルアルバム。きっと、大切な言葉なのだと思う。自身の信念の核にあるような言葉なのだと思う。

 「うん、そのとおりだよな」と思う。僕にもそういう実感がある。

 色んな人がそう考えている。たとえば評論家の中森明夫が、『寂しさの力』という本でそういうことについて書いている。

 ウォルト・ディズニーは、とても不幸な、欲しいと思うものが一つも手に入らないような子ども時代を過ごしていた。だからこそ、絵を描き、想像の世界に引きこもっていた。やがてその絵を動かそうとアニメーションを生み出し、その後、50歳を超えた彼の手によって、子ども時代に夢想していた楽園が『ディズニーリゾート』として結実した。

 他にも、スティーブ・ジョブズや沢山の偉人たちが「寂しさ」を原動力に世界を変えていった。

そういう事実を踏まえて『寂しい人が一番偉いんだ』というアルバム、その全12曲を聴くと、すごくグッとくるものがある。

 アルバムは、majiko自身の作詞作曲による楽曲と、様々なクリエイターやミュージシャンが提供した楽曲が入り混じった構成になっている。みきとPや蝶々Pらネットシーンの盟友的なクリエイターに加え、majikoが2ndミニアルバム『AUBE』のリリース特典「歌ってみたCD」で楽曲をカバーしたことのある新星の歌い手・カンザキイオリも参加しており、また、Michael Kanekoやharuka nakamuraのように独自のスタンスで活動を繰り広げるシンガーソングライターや音楽家も携わっている。Netflixオリジナルアニメ『7SEEDS』のエンディングテーマ「WISH」や、ドラマ『限界団地』(東海テレビ)主題歌の「ひび割れた世界」などタイアップ曲も収録されている。

 なので、色々なタイプの楽曲が収録されたアルバムではあるのだけれど、聴いている中で感じるのは不思議と一貫したエモーションだ。全12曲を通して一つのストーリーを描いているような統一感がある。そこに描かれているのは、孤独の中で渇望を抱えている主人公たちが、夢想の楽園を思い浮かべ、その眩しい光に向かっていくような情景。張り詰めたmajikoの歌声、ときに吠えるように、ときに焦がれるようにメロディを紡ぐボーカルの表現力が、そこに説得力を与えている。

 アルバムは、カンザキイオリが詞曲を手掛けた「エミリーと15の約束」から始まる。遠くに旅立つ母親が、娘のエミリーに自分自身の人生を手に入れて歩むための教訓を告げていくという、童話のような内容の一曲だ。続く「ワンダーランド」はストリングスやクラリネットを配したファンタジックなアレンジ。その後の「MONSTER PARTY」も含め、序盤は空想世界を想起させるナンバーが並ぶ。

majiko – エミリーと15の約束 [MV]

 「狂おしいほど僕には美しい」や「パラノイア」や「ひび割れた世界」など、ライブでの盛り上がりが思い浮かぶ楽曲が並ぶ中盤を経て、アルバム全体の一つのポイントになっているのは9曲目に置かれた「ミミズ」だ。歪んだギターを軸にしたアグレッシブなサウンドに乗せて歌われるのは、きりきりと締め付けるような痛みの心情。曲名は自己肯定感という“水”を得られずに干からびていく心のメタファーだろう。

 ここで奥底にタッチしているからこそ、「マッシュルーム」「グラマー」「WISH」というラスト3曲で浮上していく流れが生まれる。なかでも印象的なのは、haruka nakamuraが手掛けた「グラマー」だ。轟音と共に内圧の高まった感情が溢れ出すような曲調で、祖母に寄せた思いを歌う。自身の作品では祈りに満ちた壮大な音世界を描くharuka nakamuraとmajikoの相性はとてもいいと思う。

 アルバムは〈涙が出るけど 悲しい涙じゃないんだ ただ、きみと二人で進もう〉と歌う「WISH」で幕を閉じる。きちんと大団円としてのエンディングを描いているところに、シンガーソングライターとしての成長を感じる。

 「寂しさの力」とは、想像力のことだと僕は思っている。それを携えれば、ひとりはひとりのままで、時代や世代を超えた誰かと繋がりあうことができる。

 majikoというシンガーソングライターのこの先には、そういうタイプのポピュラリティを得ていく予感がある。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

■リリース情報
『寂しい人が一番偉いんだ』
発売:6月19日(水)
※プレイパス(R)対応
<限定盤A>(CD+DVD+ダウンロードカード)
価格¥4,500(税込) 
※DVDは2月11日ワンマンライブ@東京キネマ倶楽部ライブ映像とMV(5曲)を収録。
※MV(5曲)は付属のカードでも期間限定でダウンロード可能。
<限定盤B>(CD+BonusCD)
価格:¥3,850(税込)
※BonusCDにはアコースティック・バージョンの楽曲を7曲収録。
<通常盤>(CDのみ)
価格:¥3,000(税込)

購入はこちら

<収録曲>
(限定盤A、限定盤B、通常盤 共通)
01.エミリーと15の約束
Music & Lyrics:カンザキイオリ Arrangement:大西省吾
02.ワンダーランド
Music & Lyrics:majiko Arrangement:majiko, 木下哲
03.MONSTER PARTY
Music & Lyrics:majiko Arrangement:majiko, 木下哲, 菅原一樹
04.狂おしいほど僕には美しい
Music & Arrangement:Michael Kaneko Lyrics:Hiro-a-key
※テレビ東京系「ゴッドタン」2019年2月期エンディングテーマ
05.パラノイア
Music & Lyrics:majiko Arrangement:majiko, 木下哲
06.ひび割れた世界
Music & Lyrics:小倉しんこう Arrangement:横山裕章
※東海テレビ・フジテレビ系 オトナの土ドラ「限界団地」主題歌
07.レイトショー
Music & Lyrics, Arrangement:みきとP
08.春、恋桜。
Music & Lyrics:majiko Arrangement:横山裕章
09.ミミズ
Music & Lyrics:majiko Arrangement:majiko, 木下哲
10.マッシュルーム
Music:majiko Lyrics:蝶々P Arrangement:NAOTO
11.グラマー
Music & Lyrics:haruka nakamura Arrangement:haruka nakamura, majiko, 木下哲
12.WISH
Music & Arrangement:横山裕章 Lyrics:majiko
※NETFLIXオリジナルアニメシリーズ「7SEEDS」エンディングテーマ

<DVD>(限定盤A) 
・ミミズ
・ロキ
・アイロニ
・AM
・ひび割れた世界
・心做し
・命に嫌われている。
・パラノイア
・世田谷ナイトサファリ
・アマデウス
・狂おしいほど僕には美しい
・WISH
・HUSH
・声
<MV>
・声
・ひび割れた世界
・パラノイア
・狂おしいほど僕には美しい
・春、恋桜。

<BonusCD>(限定盤B)
01. morrow – Acoustic Version
02. Learn to Fly – Acoustic Version
03.ノクチルカの夜 – Acoustic Version
04.ひび割れた世界 – Acoustic Version
05.光の種 – Acoustic Version
06. Avenir – Acoustic Version
07.君に最後の口づけを – Acoustic Version

majikoオフィシャルサイト