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西島秀俊「2人で行くから」に込められた愛情 『きのう何食べた?』が描いた家族と向き合うこと

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リアルサウンド

 人気漫画家・よしながふみの同名コミックが原作のドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京)の第11話が、6月21日に放送された。西島秀俊演じる筧史朗(以下、シロさん)の家族に対する思いが伝わる回となった。

 実家に帰ったシロさんは、久栄(梶芽衣子)がやけに穏やかなことに疑問を感じる。普段なら「将来どうすんだ」といった話ばかりだからだ。その理由は夕食を終えた後に判明する。久栄と悟朗(田山涼成)は「正月にケンジを連れてくるように」と言い出したのだ。突然の出来事に困惑するシロさん。だが困惑したのはシロさんだけではなかった。シロさんに自分たちの考えを伝えた久栄も困惑し、悟朗に至っては「そんな生半可な気持ちで同性愛をやっているのか!」とシロさんを叱咤する。

 久栄が穏やかだったことを「嵐の前の静けさ」と表現し、両親の唐突な発言に戸惑うシロさんの姿が面白い。また発言後にオロオロしてしまう久栄や冷静そうに見えて心が落ち着いていない悟朗の姿もユニークだった。

 そんなシロさんは、ひょんなことから各家庭の親子事情を知ることになる。

 シロさんが勤める弁護士事務所の大先生(高泉淳子)は、正月は1人で過ごすのだと言う。「息子の重荷になるのだけは嫌なのよね」と話す大先生。大先生の母親として息子を気遣う姿に、シロさんは優しい眼差しを向ける。久栄の隣で料理を手伝っていたときのような、穏やかな表情だ。

 一方、佳代子(田中美佐子)の家庭では、娘・ミチル(真凛)が結婚も子どもも望んでいないことが分かり、夫の富永(矢柴俊博)は落ち込んでいた。しかしその様子を見てシロさんは思う。「なんだ、親の悩みはゲイもノンケも変わらないじゃないか」と。だが、佳代子が「親って、変な生き物でしょ」と言ったとき、シロさんは富永と佳代子の顔を見たあと、静かに目を伏せた。久栄と悟朗の顔を思い浮かべたのだろう。富永一家が抱える悩みと、筧一家が抱える悩みが大して変わらないことを知り、ますます両親の言葉にどう返すべきか悩むことになる。家へ帰るシロさんの背中からは「ケンジを連れてこい」と言った両親の思いに悩む様子が窺えた。

 今年のクリスマスは小日向大策(山本耕史/以下、小日向さん)と井上航(磯村勇斗/以下、ワタル)の4人で過ごすことになった。クリスマスディナーを終えて、ワタルに正月の予定を聞かれたシロさんとケンジ。シロさんは意を決して「ケンジ連れて、俺の実家に帰ろうと思ってるんだよ」と話す。ワタルはシロさんの考えに反論する。「ただでさえ息子がゲイだってことでショックなのに」というのがワタルの見解だ。ワタルの考えに一理あることを分かっているシロさんな弱々しく「そうだね」と返した。

 だが、シロさんは自身の親に対する思いを、言葉に詰まりながらも話しはじめる。「でも、俺、ずっと考えてたんだよね。両親は、俺がゲイだって分かったとき、最初にどう思ったんだろうって」。感情をあまり表に出さないシロさんが、感極まる姿を西島は見事に演じている。涙を堪えるその表情に胸が締め付けられる。だが一生懸命言葉を紡ぐシロさんの思いは前向きだ。

「少なくとも今俺が、両親が思っているよりも不幸じゃないってことを、わかってほしくて」

 ケンジが涙ながらに「俺、行くから」と答えたとき、シロさんは柔らかな笑顔を見せた。ケンジがつないだ手をシロさんはそっとつなぎなおした。ケンジの手の上に自分の手を重ね、優しくも強く手を握った。西島の、ケンジを愛おしげに見つめる視線からは、シロさんがどれほど強くケンジを大切に思っているのかが伝わってくる。

「2人で行くから」

 シロさんは両親へ、正月にケンジと2人で帰ることを伝えた。ドラマ冒頭に見せた、思い詰めたような表情ではなく、肩の力の抜けた自然体の笑顔を見せたシロさん。シロさんが、家族と真正面から向き合おうと決心したように見える。

 次週はいよいよ最終回。シロさんはケンジを連れて実家へ帰る。もしかしたら久栄と悟朗は、ケンジを前にして戸惑うかもしれない。だが、シロさんの家族への思いと、ケンジを大切に思う気持ちが揺らぐことは決してないだろう。

 なお、第11話では、シロさんとケンジ、小日向さんとワタルのコミカルなシーンも見所だった。ケンジはシロさんとの指輪を見せびらかすのだが、小日向さんは一切気づかない。一方でワタルは、ケンジの指輪にすぐ気がついた。それを見たケンジがこれ見よがしに指輪をちらつかせるのが面白い。またワタルは「なにこのデブ製造機みたいなメニュー」とシロさんの料理に文句をつけるが、すべてのメニューを完食する。そんなワタルに見せるシロさんとケンジのいたずらっ子のような笑顔と仲睦まじい距離感が微笑ましい。(片山香帆)