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映画から自分の心を探る学びを
伊藤 さとり
映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)
君が世界のはじまり
20/7/31(金)
テアトル新宿
「それでも分かろうとしたい、想像するべきやと思う」 この言葉が刺さったまんま心から抜けないのです。 これは映画の中で、罪を犯した同級生を思い、呟かれた言葉であり、さまざまな生き方を選ぶ人々へ愛を込めて綴った前作『おいしい家族』同様、ふくだももこ監督のブレない叫びに思えて仕方がないのです。ふくだ監督のアイデンティティであり、劇中、流れたり、歌われたりするTHE BLUE HEARTS『人にやさしく』の歌詞そのものである、“人類”への応援歌となった本作。当初は、高校生6人それぞれの秘めたる思いをフィーチャーし、不器用な若者たちへのエールかと思っていたのですが、たっぷりと映し出される象徴的な工業タンク、静まりかえった夜中のショッピングモール、学校の正門、町に流れる小さな川を見ているうちに、それぞれの息づかいまで聞こえてくる気がして、“あぁ、もっと大きな愛なのかもしれない”と気づかされ。人が触れたもの、人が通ったもの全てが思い出であり、自分の一部であると伝えてくる画の力に、ふくだ監督の心の目の広さを感じずに入られませんでした。 監督の短編小説『えん』『ブルーハーツを聴いた夜、君とキスしてさようなら』の世界観を映像化したときに大切な聴覚は、冒頭、琴子が先生との追いかけっこで校舎に飛び込む疾走感をエレキギターで表現させ、中盤のウルフルズの『ええねん』を歌うシーンから後半の『人にやさしく』を大合唱するシーンへと繋がり、彼らの感情をサウンドでも奏でているのです。そして、俳優ひとりひとりの表情をじっくりと捉えたカメラ、ひとりひとりに向けて愛を込めて綴られたセリフ、それら全てを大阪の小さな町に押し込まずに縦横無尽にはしゃがせながら心を解放させる演出など、どれも見事。 “普通ってなに?”という問いから“普通”という言葉が、いかに人の心を狭くしてしまうのかに気づかされるのです。みんな違って、みんな愛おしい。この映画の言う通り。
20/7/27(月)