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平辻 哲也

映画ジャーナリスト

喜劇 愛妻物語

昨年の東京国際映画祭のうれしいサプライズは、苦労人・足立紳氏の最優秀脚本賞だった。本作は8年前の足立氏の実体験をもとに売れない脚本家の夜の営みを中心に、悲喜こもごもの一コマをロードムービーという形で切り取ったコメディー。映画は爆笑の連続で、最後はホロリとさせるのだが、これが世界映画祭で通じるのか。いや、通じたのだ。 脚本・監督は『百円の恋』でブレークした足立紳氏。かつては年収50万円という底辺の脚本家。一体、売れない脚本家って、どんな日常を送っているのか。妻の収入にすがり、プロデューサーの言葉に一喜一憂。倦怠期だけども、性欲だけは止まらなくて、なんとか妻とセックスをしたがる……。 私生活を題材にする私小説ならぬ私映画。 しかし、「私」の物語であっても、どこかで格好をつけて、自分をちゃっかり正当化したり、美化するが、この映画にはそれがない。夫婦の性癖も自身の薄汚い根性もさらす。はっきり言うと、みっともない(笑)。しかし、作家が本気でさらすから、面白いのだ。地べたの人情喜劇になっている。 売れない脚本家とそんな夫に罵詈雑言を浴びせる妻が幼い娘とともにシナリオハンティングのため、四国を旅するストーリー。「さぬき映画祭」のストーリーコンテストであえなく一次審査に落選したそうだが、それが小説になり、濱田岳&水川あさみ、人気子役の新津ちせの出演で映画化されるのだから、人生というものは分からない。 濱田と水川のコンビが最高に笑える。立板に水とばかりに、言いよどむことなく悪口を言い続ける妻に、半ば、快感すらおぼえているように見える夫。コロナ禍で家庭内が密になる中、自分はこの夫婦よりはマシと見るもよし、貧乏旅行を疑似体験するのもよし。こんな時代に必要なのは笑いじゃないか。あえて夫婦やカップルで見てみると、面白いかも。

20/9/9(水)

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