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スリル&サプライズ映画の専門家
高橋 諭治
映画ライター
この世界に残されて
20/12/18(金)
シネスイッチ銀座
1948年のハンガリーを舞台にしたこの映画が描く“残された人々”とは、戦時中のナチスによるホロコーストで最愛の家族を失った人たちのこと。大量虐殺を直接映像化したフラッシュバックは一切ない。しかし不穏な暗い陰りを帯びた映像世界は、耐えがたい喪失感を抱えた登場人物たちの痛み、悲しみを、静かな迫力をみなぎらせて伝えてくる。 主人公は共にホロコーストを生き延びたひと組の男女なのだが、寡黙な中年医師と早熟の少女という親子ほど年の離れたキャラクターの取り合わせが、実にスリリングだ。ひょんなことから同居生活を始めたふたりの危うげな関係性にフォーカスしながらも、映画はここでも禁欲的な節度を保ち、ふたつの孤独な魂の触れ合いを見すえていく。序盤は憎まれ口ばかり叩くニヒルな少女が生気を取り戻していく変容を体現した主演女優、アビゲール・セーケも抜群に素晴らしい。
20/12/20(日)