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柔軟な感性でアート系作品をセレクト
恩田 泰子
映画記者(読売新聞)
パリの調香師 しあわせの香りを探して
21/1/15(金)
ル・シネマ
香りをめぐる映画なのだけれど、それだけではない。主人公は2人いて、1人は天賦の才能を持つ調香師の女アンヌ。もう1人は彼女の運転手を務めることになった平凡な男ギヨーム。まるで違う世界でそれぞれ壁に突き当たっていた孤独な男女が出会い、触発し合い、前へ進むきっかけを見つけていく、というお話。 調香師の仕事と聞いてすぐに思い浮かべるのは香水。アンヌも、ディオールの「ジャドール」をつくった人という設定だが、今はちょっと変わった仕事ばかり。いずれにせよ鼻が命の仕事。嗅覚を失ったら大変だろうな、と思っていると、案の定、問題が起きる。 この映画がうまいのは、調香師の特別な世界への好奇心を満たすと同時に、その世界への親近感をきちんと持たせてくれること。洗濯洗剤の成分、草のにおい、幼い日にかいだ石鹸の香り。観るほどに香りの記憶が喚起され、物語の中に引き込まれていく。 そして何よりすてきなのは、燃えるようなラブストーリーではなく、温かな共助の物語であるということ。それこそ、今の私たちが一番必要としているものではないか。
21/1/12(火)