ノマドランド
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フランシス・マクドーマンドってどんな役でも、実在する人物にしてしまう魔法をお持ちですが、“これはドキュメンタリーか?”と思うような赤裸々な姿と表情がワンカットワンカットに刻まれていた映画。
そこに彼女が居て、そこで生活をし、そこで人々と関わりながら何かを捨て、何かを手放せずにいる、と手に取るように分かってしまう人物像。それは間違いなく監督と一心同体であるから生まれる化学反応で、彼女だけの力ではないことを多くの映画賞にクロエ・ジャオ監督の名が上がるたびに確信に変わっていくのです。
そもそも原作ものなのに、モキュメンタリーのように撮られた大自然のもとで生きる人々の姿は実際にあるし、主人公ファーンのように居場所を失った人や、居場所から逃げている人、最期の安息地を探している人もいるだろうから。アメリカ西部の広大な自然の中で映し出される人々の姿はちっぽけだし、老いた彼らの表情には人間関係からの苦しみだとか家族への愛よりも、もっと深い人類愛のようなシワが刻まれている。
映画は“生きた証”を撮るものなのかも知れない。画からクロエ・ジャオ監督が私たちにそう伝えようとしている気がしてならない。