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政治からアイドルまで…切り口が独創的
中川 右介
作家、編集者
騙し絵の牙
21/3/26(金)
丸の内ピカデリー
大泉洋を当てて書かれた小説の映画化。原作とは主人公のキャラクターと舞台となる出版社や雑誌の名は同じだが、ストーリーはまったく別のもの。だから原作を読んでいる人も「意外な展開」を楽しめる。 当てて書かれただけあって、大泉の正体不明さが主人公のキャラクターとシンクロしている。そのほか、癖のある役をやらせたらうまい俳優たちが総出演している感じで、陰謀と裏切りの二転三転は、小説以上。 出版界、とくに閉鎖的で特権的な文芸出版の世界を、シニカルに、コミカルに描いている。Amazon以後、出版業界はすべての問題を先送りにしてきたが、それが限界にきている。とくに斜陽産業となりつつある文芸出版を、持続可能にするためには何をしたらいいのか。それを論文ではなくフィクションにして提示した映画でもあり、その根本部分は、愚直なまでに真面目だ。 出版に携わってきた者からみれば、「これはないだろう」と思う部分もあるし、ラストの二つの展開は、「こうなればいいけど、多分ありえない」という、一種のファンタジーに感じてしまうが、希望をもたせるのが映画だから、これはこれで楽しめた。
21/3/8(月)